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最終章

私の力

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「動物の心を読む魔法……ですか。そういえば、猫の姿の青野君と会話できるのを、エメルが不思議がっていました」
「そりゃそうだよ、私でも猫のアオノクンの言葉はわからなかったんだから」
「あ、でも」
「ん?」
「魔法力をひきだすもと、が全くない場所でも青野君と会話できてたから、魔法じゃないのかも」

 それを聞くと「へえ!」と言って、お姉様は目を輝かせた。
「だったらそれはずばり、愛の力だね。二人がそろってこちらの世界に生まれ変わったのと同じ、奇跡の力だよ。ううーん、ロマンチックだなあ」
「あ、愛の力ですか」
「と、言いたいところだけど、だったらそれはきっとユノの眠っていた資質魔法だ。魔法のもとなしで、自分の魔法力だけで使える魔法。そういう人もいるんだよ」
「私の魔法力はご存じのとおり、昔からゼロですよ。魔法を使えたことはありません」
 お姉様はシロを抱き上げた。高い高いをするように持ち上げる。
「魔法力がゼロの人間なんていないよ。私たちの生命力を維持しているのも魔法力だもの。生きてる限り魔法力は持っているの」
 それもエメルが言ってた。だけどいきなり潜在能力とかいわれてもピンとこない。今まで魔法の練習をいくらやってもダメだったんだから。
「ユノは、カリファーとやらと話していてもさほど疲れた様子がなかった。資質がある証拠だよ。隠れた才能がこの旅で開花したってやつだね、すごい! めでたいめでたい。これからもその能力に磨きをかけてもらいたいなあ」
 お姉様の鼻とシロの鼻がタッチする。親愛の証だ。シロはゴロゴロ言いだした。
「え、えええ? そんな、いきなりそんなこと言われても、まぐれかも知れないですし、あんまり期待しないで下さい~!!」
 これといった取り柄が前世でもこの世界でもなく、すごいとか言われたことない私にとって、賞賛と期待は重荷だ。慣れてない!
「そういうところはユノの欠点だね。第八王女として直しなさい」

 ええ……叱られてしまった。

 お姉様がシロを胸に、私の頭を撫でてくれた。いい子いい子するように。
「わかった? ユノ」
「……はい」

 たしかに自信のなさや卑屈さは魔法の成否に影響する。せっかくお姉様に褒めてもらえたのだから、頑張ろう。もしかしたら、ミール国のために、役立てるかもしれないものね。

 この旅で、私は色んな人に愛されてるってわかった。
 今まで、自分で自分をダメだと決めつけて、何も見えてなかったって、思い知らされた。
 特に、お母さんやお姉ちゃんにはもう「ごめんなさい」も「ありがとう」も言えない。
 こっちの世界でしっかり生きなきゃ。
 皆の優しさに助けられた分、これからは、私が、皆のために。

「お姉様」
「ん?」
「お願いがあります」
 私は起き上がって、ベッドの上で正座した。
「ミール国に戻って、お父様とお母様にご報告に上がる際、本当のことを、まず私の口から説明させていただきたいんです。私の、ことですから」

 お姉様がゆっくりと体を起こした。

「わかったよ。ユノとエメル魔導師は無事に旅を終えて、アーキスはユノたちとともに私の命を助けてくれた恩人ってことにしよう」
「ありがとうございます」
「けど、旗色が悪くなったら即、援護するからね。私だって知っててユノたちを送り出したんだから」

 無理しないで、とお姉様は笑った。お姉様に抱かれていたシロがにゃおーん、とあくびする。

 それを見て、私はふと思った。

「シロと離れていたのに、私、シロの声がずっと聞こえていたんです。きたのもりにきて、って。どうしてでしょう」
「ああ、それはきっとブローチだよ。結乃にあげたブローチは私が魔法力を注入して造ったものだから、私とユノはブローチを通じて繋がっていたんだね。だから私と一緒にいた白猫の声が聞こえた」
 そういうことだったんだ。
「えらいね、お前」
 お姉様はシロに頬ずりした。
 シロは「ねむいんだよ~」と言っていた。


 次の日。
 隣にシオンお姉様はいなかった。
 シロだけがベッドに丸まってた。

 サイドテーブルの上に「城に帰るまでが旅だよ」というメモ書きが残されていた。

 身支度を整え、隣の部屋をノックすると、青野君が出てきて「あいつがあんなに寝起きが悪いなんて知らなかった」とまだ夢の中にいるエメルを指さした。

 宿の朝食を食べたあと、青野君がお父さんに別れの挨拶をして(お父さんは頑張れよ! とひとこと言っただけだった)私たちは王都に向かう船に乗った。

 曇り空の北の大地離れると、次第に暖かくなってきて。太陽が、顔を出した。
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