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第三章

少女のお願い

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 俺はフランス人形に抱えられ、浮いた状態で廊下を移動する。
 有無を言わせない高速移動。

 え、ちょ、そっちは……。

 ドアの隙間から結乃たちがいる広間に入ったフランス人形は、結乃たちには目もくれず、吹き抜けを一気に上昇した。
 食事している眼下の結乃たちはどんどん小さくなり、信じられない高さに俺はくらくらする。
 ど、どこまで上がるつもりなんだ、フランス人形! いや二つ結びの女の子!
 猫は高い所から落ちても大丈夫だって言うけど、限度ってもんがある。というか結乃はユーレイたちとのダンスに夢中だし、小野寺は踊る可憐な結乃を見るのに必死で、拉致られてる(?)俺に全く気がつかない。エメルだけは一瞬俺に目を向けたが、あっさり見なかった振りしやがった。さっきは殊勝にしてたくせにあのやろー!!

「なあエメル、今何か通らなかったか? 白いぼろ切れみたいな」
「気のせいですよミランダ様、何も通ってませんよ」
「そうか。一瞬何かが吹き抜けを舞い上がっていく様に見えたが、そうだな気のせいだな。ああ、踊る結乃はなんて可憐で美しいんだ。青野という邪魔者さえいなければ、私が食べてしまいたい」

 
 吹き抜けを昇り切り、天窓を開けて、俺とフランス人形はこのガラクタ寄せ集め建物の屋上に到着した。

「猫さーん、着いたよー」

 女の子の声で、三途の川が見えていた俺ははっとする。ここは……ただのガラクタ置き場?

「ここはねー、リュークおじさんのコウボウ、だよ。リュークおじさんは、いろんなものを作ってくれる人で、自分の体も自分で作っちゃったんだよ」

 コウボウ……工房か。へえー。そのリュークおじさんってのもオバケなんだよねー? はっきり言って会いたくない。この女の子も目から血を流したボロボロのフランス人形のままじゃなくて、さっきみたいに半透明状態になってくれたほうがまだ怖くないのに。

「リュークおじさんはいないみたい。きっといつもみたいに外で材料さがししてるんだー。海には色々なものが打ち上げられるから」

 よかった、いなくて。で、俺はなんでこんなところに連れて来られたんだ? はやく降ろしてほしい……。

「猫さん見て」

 女の子が俺を抑えていないほうの手で指さした。そこにはパイプを組み合わせて作ったアスレチックのようなものが無骨に置かれていた。パイプの太さはまちまちで、考えなしにいろんな方向に繋がれて、前衛的アートのようだ。
 頂上から滑り台が設置され、突き出たパイプの端っこに、木の板を植物の蔓のようなもので固定したブランコが二基下がっている。

「これ、わたしとマルコのためにリュークおじさんが作ってくれたの。ここでの子供はわたしとマルコだけだから。わたし、お人形の姿でこのパイプの中に入ってよく遊んでるんだ」

 フランス人形が俺の両脇を掴み、向き合う形で話しかけてくる。す、すごい迫力……。

「そうしたらね、パイプのどこかにペンダントを落としちゃったみたいなの」

 フランス人形は自分の首元を見る。ああ、人形がつけてたペンダントね。
 
「わたしなんどもパイプに入ってさがしたんだけど、ないの。パイプの中は真っ暗だから。猫さんなら暗くても目が見えるんだよね。おねがい、ペンダントをさがして」

 ペンライトかなんかを自分の器にして探せばよくね? と思ったけど、言わない。この子にしてみれば最高のアイデア思いついた! ってことなんだろう。それに、建物自体が吹き抜けの天窓から明かりをとっているということは、ライトというものがないのかもしれない。

 わかった。とにかくわかった。俺に任せろ。

「猫さ……お兄ちゃん、お願いね。お星さまの色した、ペンダントなの」

 俺は左前足を上げて、了解のポーズをした。



 ……狭くて暗いパイプの中をくまなく探したけれど、どこにもペンダントらしきものはなかった。
 だけどああ自信満々に言った手前諦められない。
 なにより女の子をがっかりさせたくない。きっと女の子なりに大事なものなんだろう。
 
 俺がパイプの中から這い出ると、フランス人形が左右に揺れながらしょんぼりと言った。

「もしかしたら、パイプの中じゃないのかな~、落としたの、どこか別のお部屋なのかな~」

 な、なんだと……。 
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