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第二章
彼(彼女?)の思惑
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美羅ちゃんの真剣な目が、私を射抜く。美羅ちゃんは冗談を言ってるわけじゃないんだ。
私は深呼吸をひとつして、正面から美羅ちゃんを見た。そして、
「ミランダ王子、貴方と結婚はできません。私にはすでに愛する方がおります」
きっぱりと言った。ごめんなさい、美羅ちゃん。ワンピースの裾をぎゅっと掴む。
「ああ、うん。知ってた。エメラルドとかいうやつだろう」
「ええ!?」
知ってたの? いや、エメラルドじゃなくてエメルだけど。
「ミール国に送ったメガロスの偵察が魔法通信で教えてくれた。ユノレア王女は別の人間との結婚を望んでいると。そのために今日北の森に出発するってことも」
そんな……。
「港や空、駅が使えないのは好都合だった。君を、秘密裏に潜水艇でメガロス国へ連れて行くには」
美羅ちゃんは平然と、とんでもないことを言う。この潜水艇、メガロスに向かってるの? たしかにメガロス国はミール国のすぐ西にあるけれど。
「そんなこと、お父様たちが許さないよ」
「メガロスが強気に出れば、ミールごとき小国、我が国の言いなりだよ」
小柄な王子は、口の端を上げて、嫌な笑い方をした。美羅ちゃんはこんな風に笑ったりしない。
「美羅ちゃん……」
もう目の前のこの男性は、私の親友だった美羅ちゃんじゃない。メガロス国のミランダ王子だ。こっちの世界で王子として生きてきたんだもの、仕方がないのかもしれない。だけど、なんだかさみしいよ、美羅ちゃん。
「三つ子たち! そこにいるか! エメラルドをここに連れてこい!」
美羅ちゃんが部屋の外に向かって命令した。
しばらくして、後ろ手に縛られたエメルが三つ子と部屋に入ってきた。青野君もさりげなく一緒に部屋に入る。よかった、ぼろぼろだけど無事だったんだ。
私は青野君とエメルに駆け寄る。
「青野君、大丈夫? ごめんね、私のために」
(俺のことより、お前は大丈夫なのか? ……あいつは誰だ?)
「私は全然大丈夫だよ。それがね、あの人は……」
「ミ、ミランダ王子」
エメルが美羅ちゃんを見て驚いたように目を見張る。「大国の王子がどうしてここに」
美羅ちゃんは薄笑いを浮かべて、
「私がどこにいようが勝手だろう? おい、貴様、小国の魔導師風情がこの私を前に、何突っ立っている」
「は……申し訳ありません」
エメルは腑に落ちないという顔をしながらも両手を後ろに縛られたまま、床に跪いた。
と、突然美羅ちゃんはエメルに近寄ってその頭を掴むと、床に押し付けた。
「頭が高いんだよ! このたぶらかし野郎が! 女の敵が!! 結乃を返せ!!!」
「美羅ちゃん、やめて!」
「結乃、結乃はこの男に魔法でいいなりにされてるんだろう? 私は知ってるんだから! こいつだけは許せない! よくも、あたしの可愛い可愛い結乃に手え出したね!」
「やめて美羅ちゃん! エ、エメルがたぶらかしたって、何?」
美羅ちゃんの腕をつかんでエメルから離そうとするも、私じゃ男性である今の美羅ちゃんの力に敵わない。美羅ちゃんは鼻息も荒く、今度はエメルの頭を上に向かせた。
「あんた、結乃を利用しようとしたんだって? 結乃を騙して、王族入りしようとしたんでしょ! あたし、知ってんだよ!」
「はい、そのとおりです。まったくそのとおり。というかミランダ王子はいつからそんなヒステリーキャラになったんですか? 以前お会いしたときは物静かな方だと感じましたが」
エメルってば火に油を注がないで! そのとおりです、じゃないでしょ! いや、そのとおりなんだけど、そのとおりなんだけど!!
「あんたは魔法を使ったんだ! 魔法で結乃の心を自分に向かせたんだ! そうでしょ!?」
エメルが目を見開いた。
「それは、違います」
今までの声音と違った、冷たい声だった。あまりにもきっぱりと言い放たれたので、美羅ちゃんがちょっと怯む。
(あたし……? その喋り方、その思い込みの激しさ、そして可愛い結乃発言……お前、まさか小野寺美羅か!?)
青野君が驚いたように叫んだけれど、言葉を聞き取れたのは、私だけだった。
私は深呼吸をひとつして、正面から美羅ちゃんを見た。そして、
「ミランダ王子、貴方と結婚はできません。私にはすでに愛する方がおります」
きっぱりと言った。ごめんなさい、美羅ちゃん。ワンピースの裾をぎゅっと掴む。
「ああ、うん。知ってた。エメラルドとかいうやつだろう」
「ええ!?」
知ってたの? いや、エメラルドじゃなくてエメルだけど。
「ミール国に送ったメガロスの偵察が魔法通信で教えてくれた。ユノレア王女は別の人間との結婚を望んでいると。そのために今日北の森に出発するってことも」
そんな……。
「港や空、駅が使えないのは好都合だった。君を、秘密裏に潜水艇でメガロス国へ連れて行くには」
美羅ちゃんは平然と、とんでもないことを言う。この潜水艇、メガロスに向かってるの? たしかにメガロス国はミール国のすぐ西にあるけれど。
「そんなこと、お父様たちが許さないよ」
「メガロスが強気に出れば、ミールごとき小国、我が国の言いなりだよ」
小柄な王子は、口の端を上げて、嫌な笑い方をした。美羅ちゃんはこんな風に笑ったりしない。
「美羅ちゃん……」
もう目の前のこの男性は、私の親友だった美羅ちゃんじゃない。メガロス国のミランダ王子だ。こっちの世界で王子として生きてきたんだもの、仕方がないのかもしれない。だけど、なんだかさみしいよ、美羅ちゃん。
「三つ子たち! そこにいるか! エメラルドをここに連れてこい!」
美羅ちゃんが部屋の外に向かって命令した。
しばらくして、後ろ手に縛られたエメルが三つ子と部屋に入ってきた。青野君もさりげなく一緒に部屋に入る。よかった、ぼろぼろだけど無事だったんだ。
私は青野君とエメルに駆け寄る。
「青野君、大丈夫? ごめんね、私のために」
(俺のことより、お前は大丈夫なのか? ……あいつは誰だ?)
「私は全然大丈夫だよ。それがね、あの人は……」
「ミ、ミランダ王子」
エメルが美羅ちゃんを見て驚いたように目を見張る。「大国の王子がどうしてここに」
美羅ちゃんは薄笑いを浮かべて、
「私がどこにいようが勝手だろう? おい、貴様、小国の魔導師風情がこの私を前に、何突っ立っている」
「は……申し訳ありません」
エメルは腑に落ちないという顔をしながらも両手を後ろに縛られたまま、床に跪いた。
と、突然美羅ちゃんはエメルに近寄ってその頭を掴むと、床に押し付けた。
「頭が高いんだよ! このたぶらかし野郎が! 女の敵が!! 結乃を返せ!!!」
「美羅ちゃん、やめて!」
「結乃、結乃はこの男に魔法でいいなりにされてるんだろう? 私は知ってるんだから! こいつだけは許せない! よくも、あたしの可愛い可愛い結乃に手え出したね!」
「やめて美羅ちゃん! エ、エメルがたぶらかしたって、何?」
美羅ちゃんの腕をつかんでエメルから離そうとするも、私じゃ男性である今の美羅ちゃんの力に敵わない。美羅ちゃんは鼻息も荒く、今度はエメルの頭を上に向かせた。
「あんた、結乃を利用しようとしたんだって? 結乃を騙して、王族入りしようとしたんでしょ! あたし、知ってんだよ!」
「はい、そのとおりです。まったくそのとおり。というかミランダ王子はいつからそんなヒステリーキャラになったんですか? 以前お会いしたときは物静かな方だと感じましたが」
エメルってば火に油を注がないで! そのとおりです、じゃないでしょ! いや、そのとおりなんだけど、そのとおりなんだけど!!
「あんたは魔法を使ったんだ! 魔法で結乃の心を自分に向かせたんだ! そうでしょ!?」
エメルが目を見開いた。
「それは、違います」
今までの声音と違った、冷たい声だった。あまりにもきっぱりと言い放たれたので、美羅ちゃんがちょっと怯む。
(あたし……? その喋り方、その思い込みの激しさ、そして可愛い結乃発言……お前、まさか小野寺美羅か!?)
青野君が驚いたように叫んだけれど、言葉を聞き取れたのは、私だけだった。
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