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猫は宇宙人!?
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「実は……ハナコちゃん、君に秘密にしていたことがあるんだ」
猫ドアをすり抜けて、トコトコとリビングに入って来た白猫は、改まった態度(?)でそう言った。
「え? シロ? どうしたの」
突然人間の言葉を話した飼い猫に私は唖然とし、そう尋ねるしかなかった。
ソファに飛び乗ったシロは、青い目で私を真っすぐに見つめながら、こう言った。
「僕は、遠い遠い星からやってきた、宇宙人なんだ」
「宇宙人……!? 猫のあんたが?」
私はまさか、と思いつつも納得していた。
人間のルールを無視した猫という存在。
自由気ままに振舞い、それでいて人間を虜にする猫の魔力。
その神秘的なひとみ。魅惑的な肉球。触らずにいられないしっぽ。
猫は、地球の支配者とされる人間を超越している。故に、猫は地球の生物ではないのではないか、と私も疑ったことがあったのだ。よもや、猫は宇宙人ではないかと。
それが……やっぱり、そうだったのか。
「僕は十六年前、君と君の夫、タロウ君に拾われてこの家に来た。宇宙船が故障して、地球に不時着し、瀕死に陥っていた僕は、土砂降りの雨の中、君たちにすがるしかなかったんだ」
シロは冷静な声で淡々と語り始める。
「幸運にも、僕の姿形は、この地球で言う『猫』という動物にそっくりだった。僕は脳内にあるデータベースからその情報を読み取ると、生き残るため『猫』のふりをした……。いつかは本当のことを話さなくてはいけないと思っていたんだけれど、気がつけば十六年が経っていた。君たち夫婦の傍は居心地がよくてね。だけど先ほどひげレーダーに連絡が入った。母星からの緊急帰還命令だ。じきに母星からここに迎えが来る。僕は帰らなきゃならない……」
私は人間の言葉を話す白猫を見つめていた。青い両目には気高い知性が宿っていた。またたびにあられもなくごろついていたシロは仮の姿だったのだ!
「シロ、それじゃあ、さよならだね」
私は寂しさをこらえて、シロに敬礼した。軍人でもないのになぜ敬礼のポーズをとったのかは自分でも分からない。
そもそもちゃんとした敬礼の仕方が分からないが、別れのときはなんとなく敬礼のような気がしたのだ。
「うん。僕は星に帰るよ。さよなら」
シロも立ち上がって敬礼した。可愛い。
さよなら、シロ。さよなら……。
さよな
「にゃーーーーん」
「!?」
私は飛び起きた。リビングの、ソファの上だった。
ゆ、夢!?
そうだ、私、仕事から帰ってきてちょっとだけ眠ろうと思って……。
茫然として、目の前のシロを見る。
ごくごく普通の白猫だ。
人間の言葉を話すとは思えない。
シロは単純にうたた寝していた私を起こしに来たのだ。
シロが宇宙人だというのは、夢……。
「にゃおーん」
ただ、私の中に、もしや……という思いがほんの少しだけ生まれた。夢がずいぶんリアルだったせいでもある。
「シロ、あんたは宇宙人なんじゃないの? 本当は喋れるんじゃないの?」
年甲斐もなく、そんな質問を飼い猫に投げた。飼い猫の青い両目はこれといった意思をもつことはなく、シロは「ごはんをくれ」とにゃんにゃん鳴くばかり。どう見てもただの猫だ。
「そんなわけないか……」
私は自分で自分に呆れた。そんなわけないじゃないか。
「はいはい、ごはんね。今用意するからね」
シロが、宇宙人だなんて。
♦♦♦
びっくりした~。ハナコちゃん、僕のこと宇宙人だなんて言いだすんだもの。
まあそれは外れだけどね。
僕は未来人。いや、未来猫、かな。西暦20××年、地球規模のニャン転機が起こり、地球のすべての生物は猫になるんだ。もちろん人間もね。
僕の時代ではそれを「猫大爆発」って呼んでる。
僕のおじいさんのおじいさんも人間だったっていうから、僕は興味本位で「タイムマシン」に乗って、猫大爆発前にやってきた。
そこでタイムマシンが壊れちゃったもんだから「猫のシロ」として、十六年間、ハナコちゃんとタロウ君のお世話になるしかなかった。
「はい、シロ、ごはんだよ」
「にゃーん」
「あんたは気楽でいいねえ。あ、タローくん、おかえり」
「ただいま、ハナちゃん。あー、仕事疲れた。ハナちゃんも明日早朝出勤だよね。夕食はピザでもとろう」
「にゃんにゃん」
「シロ、お前は気楽でいいな。僕も猫になりたいよ。そう思わない? ハナちゃん」
「思う思う。猫になって気ままにゴロゴロしたい」
「にゃにゃーん」
史実によれば、猫大爆発が起きるのは明日。
ハナコちゃん、タロウ君、よかったね。明日になれば、僕と同じ、猫になれるよ。
猫ドアをすり抜けて、トコトコとリビングに入って来た白猫は、改まった態度(?)でそう言った。
「え? シロ? どうしたの」
突然人間の言葉を話した飼い猫に私は唖然とし、そう尋ねるしかなかった。
ソファに飛び乗ったシロは、青い目で私を真っすぐに見つめながら、こう言った。
「僕は、遠い遠い星からやってきた、宇宙人なんだ」
「宇宙人……!? 猫のあんたが?」
私はまさか、と思いつつも納得していた。
人間のルールを無視した猫という存在。
自由気ままに振舞い、それでいて人間を虜にする猫の魔力。
その神秘的なひとみ。魅惑的な肉球。触らずにいられないしっぽ。
猫は、地球の支配者とされる人間を超越している。故に、猫は地球の生物ではないのではないか、と私も疑ったことがあったのだ。よもや、猫は宇宙人ではないかと。
それが……やっぱり、そうだったのか。
「僕は十六年前、君と君の夫、タロウ君に拾われてこの家に来た。宇宙船が故障して、地球に不時着し、瀕死に陥っていた僕は、土砂降りの雨の中、君たちにすがるしかなかったんだ」
シロは冷静な声で淡々と語り始める。
「幸運にも、僕の姿形は、この地球で言う『猫』という動物にそっくりだった。僕は脳内にあるデータベースからその情報を読み取ると、生き残るため『猫』のふりをした……。いつかは本当のことを話さなくてはいけないと思っていたんだけれど、気がつけば十六年が経っていた。君たち夫婦の傍は居心地がよくてね。だけど先ほどひげレーダーに連絡が入った。母星からの緊急帰還命令だ。じきに母星からここに迎えが来る。僕は帰らなきゃならない……」
私は人間の言葉を話す白猫を見つめていた。青い両目には気高い知性が宿っていた。またたびにあられもなくごろついていたシロは仮の姿だったのだ!
「シロ、それじゃあ、さよならだね」
私は寂しさをこらえて、シロに敬礼した。軍人でもないのになぜ敬礼のポーズをとったのかは自分でも分からない。
そもそもちゃんとした敬礼の仕方が分からないが、別れのときはなんとなく敬礼のような気がしたのだ。
「うん。僕は星に帰るよ。さよなら」
シロも立ち上がって敬礼した。可愛い。
さよなら、シロ。さよなら……。
さよな
「にゃーーーーん」
「!?」
私は飛び起きた。リビングの、ソファの上だった。
ゆ、夢!?
そうだ、私、仕事から帰ってきてちょっとだけ眠ろうと思って……。
茫然として、目の前のシロを見る。
ごくごく普通の白猫だ。
人間の言葉を話すとは思えない。
シロは単純にうたた寝していた私を起こしに来たのだ。
シロが宇宙人だというのは、夢……。
「にゃおーん」
ただ、私の中に、もしや……という思いがほんの少しだけ生まれた。夢がずいぶんリアルだったせいでもある。
「シロ、あんたは宇宙人なんじゃないの? 本当は喋れるんじゃないの?」
年甲斐もなく、そんな質問を飼い猫に投げた。飼い猫の青い両目はこれといった意思をもつことはなく、シロは「ごはんをくれ」とにゃんにゃん鳴くばかり。どう見てもただの猫だ。
「そんなわけないか……」
私は自分で自分に呆れた。そんなわけないじゃないか。
「はいはい、ごはんね。今用意するからね」
シロが、宇宙人だなんて。
♦♦♦
びっくりした~。ハナコちゃん、僕のこと宇宙人だなんて言いだすんだもの。
まあそれは外れだけどね。
僕は未来人。いや、未来猫、かな。西暦20××年、地球規模のニャン転機が起こり、地球のすべての生物は猫になるんだ。もちろん人間もね。
僕の時代ではそれを「猫大爆発」って呼んでる。
僕のおじいさんのおじいさんも人間だったっていうから、僕は興味本位で「タイムマシン」に乗って、猫大爆発前にやってきた。
そこでタイムマシンが壊れちゃったもんだから「猫のシロ」として、十六年間、ハナコちゃんとタロウ君のお世話になるしかなかった。
「はい、シロ、ごはんだよ」
「にゃーん」
「あんたは気楽でいいねえ。あ、タローくん、おかえり」
「ただいま、ハナちゃん。あー、仕事疲れた。ハナちゃんも明日早朝出勤だよね。夕食はピザでもとろう」
「にゃんにゃん」
「シロ、お前は気楽でいいな。僕も猫になりたいよ。そう思わない? ハナちゃん」
「思う思う。猫になって気ままにゴロゴロしたい」
「にゃにゃーん」
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