ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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15 お弁当

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 樹は、慌てて講義室を出て、迅と待ち合わせしているベンチへと向かう。講義終わりに記入するリアクションペーパーがなかなか書けずに、講義終了時間から5分も過ぎてしまった。きっと迅は先に着いてしまっているだろう。AMIMALのメッセージで、今向かっていると連絡を入れながら樹は走った。

 小道を抜けると、座っている迅が見えたので、樹は駆け寄る。

「ごめんね、遅くなっちゃった」
「――いや、大丈夫だ」

 謝りながら迅の隣に座ると、樹は早速肩掛けバッグからサンドイッチの入った袋を取り出した。

「お腹空いたねー」
「……えっ」

 なぜか迅は樹の取り出した袋を見て、目を丸くして驚いていたため、樹は首を傾げた。

「ん? 迅くんどうしたの?」
「――いや、それは」
「これ? お昼ご飯のサンドイッチだよ?」

 袋を開いた樹は、中に入っていたサンドイッチを取り出して迅へと見せる。昨日は卵サンドだったので、今日はハムサンドを作って持ってきた。作ったと言っても、樹は料理が苦手なので、食パンにハムとレタスを挟んでマヨネーズをかけただけのものだ。お昼は天気が良ければ基本的にベンチで食べているので、サンドイッチやおにぎりなど食べやすいものを作って持ってきている。

「どうしたの? サンドイッチが食べたいの?」
「あ、いや……」

 迅の動揺を不思議に思っていた樹は、そこで迅の膝の上に置かれている大きな紙袋に目がいった。チラリと中を見てみると、大きなお弁当が重なって入っているようだ。たくさん食べるんだな、と思い視線を迅へと戻したところで、樹は気がついた。もしかして、一緒に食べるお弁当を買ってきてくれていたのではないのかと。それならば、樹がバックからサンドイッチを取り出した時に驚いたことに説明がつく。違ったら自分が迅のお弁当を狙う食いしん坊みたいじゃないか、と思いながらも樹は恐る恐る聞いてみた。

「――あの、もしかして、僕の分のお弁当も買ってきてくれたの?」
「あ、ああ、そうなんだ」
「そうなんだ! ありがとう!」
「ああ、これを」

 予想が当たって一安心した樹は、迅が袋から出した弁当を手渡してきたので、受け取る。何の弁当だろうと視線を落としたところで、樹は目を見開いた。

「――え、これって」

 透明な蓋から見えるのは、分厚い肉。ご飯の上にのせてあるようで、黒い高級そうな容器に隙間なく敷き詰められている。赤身の見える肉がとても美味しそうだ。美味しそうなのだが、絶対に高い。そう確信した樹は迅を見つめた。

「美味しそうなんだけど、絶対高いお弁当じゃん!」
「いや、気にするな」
「え、でも」

 迅と弁当を見比べた樹は、美味しそうな肉の誘惑にあっさりと負けた。サンドイッチは夜にでも食べようとバッグにしまい、弁当の蓋を開ける。

「いただきまーす」

 割り箸を持った樹は、早速肉を一切れ掴み取り、口へと運んだ。柔らかく美味しいお肉が口いっぱいに広がる。かかっていたタレとの相性もバッチリで、こんなに美味しいお弁当を食べるのは生まれて初めてだ。

「え、おいしい!」

 笑顔で感想を言う樹を見た迅は、嬉しそうに尻尾を動かし、自分も同じ弁当を食べ始めた。


 大満足のお昼が終わった後は、2人ベンチでのんびりと過ごす。

「お弁当、美味しかったねー。ありがとう! でも、次からは僕の分まではいいよ!」
「――そうか。分かった」

 言っておかないと次からも迅は弁当を買ってきてくれそうだと思った樹は、そう迅へと伝えた。買ってきてもらえるのは有難いが、これほどの弁当を毎回買ってもらうのは申し訳ない。それに、今回も樹が支払おうとしたところ、迅は「大丈夫だ」と言ってくれたが、正直、この弁当がいくらしたのか見当もつかない。きっと高かっただろうことだけは分かる。毎回奢ってもらうことは申し訳ないし、逆に毎回支払うことはきっと樹には難しいだろう。お互いに弁当を用意した方がいいはずだ。

「今日は4限で授業が終わりなんだー。早く帰れるから嬉しいな」

 樹はベンチから下ろした足をプラプラとさせながら迅へと話しかけた。

「そうか。俺も、4限で終わりだ。だから――」

 迅の言葉が途切れたので、樹は次の言葉を待ったが発せられない。迅は前を向いたまま黙っている。その時、体の横に下ろしていた樹の手に何かフワフワとしたものが一瞬触れた。視線を落とすと、迅の太い尻尾がサワサワと樹の手のあたりを行ったり来たりしている。どうやら、迅は気づいておらず、無意識に動いているようだ。樹は微笑みながら目線を迅の顔へと戻す。

「4限が終わったら、遊びに行こうよ!」
「――ああ」

 迅の尻尾が嬉しそうに立ち上がったのを確認した樹は、ふふっと笑ってしまった。
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