ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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13 ひなたぼっこ

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 5分ほど歩いて着いた先は、小道に沿っていくつもの木が生えている緑の多い場所で、大きな木の下にはベンチが等間隔で設置されていた。そのうちの1つに樹が座ったことを確認した迅は、一先ひとまず近くに生えていた大きめの木の陰に隠れてそっと様子を伺う。
 樹は肩掛けバッグを外して、中から袋を取り出す。袋から出てきたのはサンドイッチのようだ。目を細めながら美味しそうに食べる樹の髪を、そよ風が揺らしている。樹の座るベンチには、ちょうど木漏れ日が差し込んでおり、樹の顔にキラキラと降り注いでいた。
 近くには樹以外の人はおらず、静かでゆっくりとした時間が流れている。まるで絵のような光景を前に、迅は近づくことができず、眺めているだけだった。サンドイッチを食べ終わった樹は、目を閉じた状態で顔を少し上げ、太陽の光を浴びながら気持ちよさそうにしている。誰かと待ち合わせをしている様子もなさそうだ。

 しばらく眺めていたが、昼休憩が終わる前に一度声をかけようと思った迅は、意を決して木の陰から出てきた。ゆっくりとベンチに座る樹へと近づく。
 目を閉じている樹の前に立つと、気配を感じた樹がゆっくりと目を開いた。

「――わっ!」

 体全体が飛び跳ねるほど驚いた樹に申し訳なくなりながらも、迅はすばやく樹の隣に座った。

「びっくりしたー! え、迅くんもこの大学に通ってたの?」
「――ああ、そうだ。驚いたな」
「うん。迅くんも、ひなたぼっこしに来たの?」
「いや――ああ、そうだ」

 樹を見かけたので追いかけてきたが、追いかけてきてから声をかけるまで時間が経ち過ぎていたため、迅は頷いた。「ここ、気持ちいいよね」と言いながら樹が目を閉じたため、迅も習って目を閉じる。
 風で木の葉が揺れるたびに、顔にかかる優しく暖かな日差しも揺れるのが分かる。隣にいる樹の気配を感じながら、迅はただただこの温かくのんびりとした空間に浸った。


 ピピッという電子音に、迅はピクリと耳を動かし、目を開いた。隣に目線を向けると、樹がバッグの中からスマホを取り出していた。画面を確認した樹が迅の方を向いた。

「昼休憩が終わる10分前だよー」

 どうやら樹はしっかりとタイマーをセットしていたようで、現在の時刻が表示された画面を迅の方へと見せてきた。

「ああ」

 返事をした迅はベンチから立ち上がる。樹もバッグを肩に掛け、立ち上がり両手を上にあげて体を伸ばした。

「ふぁ、ちょっと眠くなっちゃった。迅くんはどこの学部なの?」
「経営学部だ」
「そうなんだー。僕は農学部だから反対方向だね」
「農学部……そうか」

 中帝大学では、中央ひろばを挟んで東側に文系学部、西側に理系学部の棟がある。迅は経営学部のため文系学部で、樹は農学部のため理系学部だ。大学内での活動範囲はほとんど被らない。

「じゃあ、僕はこっちから行くね」

 樹が指さした小道は、迅の次の講義があるA棟がある方角とは別の方向に伸びるものだ。なんとなく寂しくなりながらも、迅は樹の進む道とは別の方向へと足を向ける。本当は樹を理棟へ送って行きたいが、時間が足りない。手を振る樹に、少し恥ずかしくなりながらも片手を上げた迅は、何度も振り返りながらA棟へと向かった。

 講義室へ着いたのは授業開始の5分前だった。迅はいつも座る場所に朋也を見つけて、隣の席へ腰かける。

「あ、迅。彼と一緒にお昼食べてきたのか?」
「――あっ」

 朋也からそう声をかけられ、迅はそこでようやくお昼を食べていないことを思い出した。思い出した途端にお腹が空いてくる。購買で購入した弁当はバックに入れたままだ。迅は急いで弁当を取り出し、食べ始めた。

「はぁ? 飯も食わずに何してたんだよ?」
「――いや、一緒にひなたぼっこを……」
「ひなたぼっこぉ? 意味不明だ……」

 結局、弁当を全て食べ終わる前に講義開始時間が来てしまったため、迅は蓋をしてバッグへしまう。空腹は満たされていないが、樹と思わぬ場所で会えたことで、迅の心は満たされていた。
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