ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

文字の大きさ
上 下
11 / 21

11 振り返り

しおりを挟む
「は、何? デートが失敗したの?」
「――いや、おおむね成功したが、アクシデントがあった」

 朋也は迅の話を聞きながら、ため息をついた。

「いや、絶対逆でしょ」

 大学の講義室で、頬杖を突きながら隣に座る迅へと顔を向けた朋也は、ぼそりと呟いた。月曜1限の講義であったため最悪のコンディションのなか、眠気が取れずに何度も目をこすりながら受けていたが、隣の男はまったく眠そうではなく、逆に生き生きとしていた。ようやく90分という長い講義が終わり、休憩に入ったため、朋也は姿勢を崩したまま迅の話を聞く。
 どうやらバーでナンパした――あれがナンパと呼べるのか怪しいが――彼と日曜にデートをしてきたとのことだが、絶対にやらかしている気しかしない。

「で、アクシデントって何があったの?」
「実は調べていた店が急遽きゅうきょ休みになっていてな。店休日は調べていたんだが、まさかそんなことがあるとは思わず、第2候補を調べていなかったんだ……」
「へぇー。で、どうしたの? その場で調べて行った先の店が良くなかったとか?」
「いや、彼が調べてくれて、店の料理は旨かった」
「なら、いいじゃん」
「ちょっと戸惑ってしまったことが悔やまれるんだ。かっこ悪いと思われていないか心配でな……その他は上手くできていたと思うが……」

 真剣に悩んでいる迅を前に、朋也は呆れた。それ以外の部分にも反省する点は無数にあるに決まっている。そもそも、デート中にちゃんと話せていたのだろうか。バーでの彼に対する迅の態度を知っている朋也からすれば、概ね成功という迅の言葉は全く信用できなかった。
 段々と面白さを感じてきた朋也は、迅にデートの詳細を聞いていく。

「そもそも、どこに行ったんだ?」
「映画だ」
「おお、いいじゃん。何見たの?」
「『ネズミ君の大冒険』だ」
「は? それって迅が見たかった映画じゃん! デートでそれかよ――」
「いや、彼から提案してくれたんだ」
「あら、そう……」

 そもそも、迅の初対面の対応は酷いものだったはずだが、OKを出した彼はいったい何者なのだろうか。もしかしたら、迅と相性がいいのかもしれない。朋也は手に持ったシャーペンを器用に回しながらそんなことを考えた。

「で、映画を見て、飯食って、次は?」
「彼を家まで送った」
「え、まだ昼過ぎじゃないの?」
「そうだが? ちゃんとアパートまで送ったぞ」
「は? 向こうの家でヤッたの?」
「ヤッた?」

 聞き返してきた迅に、朋也は固まり、シャーペンを落としてしまった。講義室の床に落ちてしまい、カチャンと乾いた音が響く。
 慌てて拾い上げた朋也は迅の顔を見るが、本当に分かっていないようだ。

「セックスだよ、セックス」

 講義室には他の人もいるため、朋也は迅の耳元で囁いた。

「――――は?」

 次は迅が固まり、徐々に顔が赤くなる。

「お前、嘘だろ……。まだ清い感じなのかよ」
「――いや、そういうことはお互いに20歳になって、責任を持てる歳になってからでないと……」
「はぁ? マジで?」
「それに彼とはまだ付き合ったばかりだ……」
「――――」

 未知の生物に出会ったような顔をして凝視してくる朋也に気づかず、迅は話を続けた。

「彼とは年齢も一緒で、映画の趣味も合う。それに一緒にいると、ドキドキするがどこか安心できるんだ。こんな感情は初めてだ。もしかすると、運命の相手なのかもしれない」
「――箱入り娘が初めての恋を知ったときみたいだな……でも、まあ、そうか、よかったな。今まで見たいな金目当てのやつじゃないんだろ?」
「ああ、彼は俺が支払うと遠慮してくるんだ。自分で財布も持ってきていたし、買ってほしいと言われることも1回もなかった」
「いや、それが普通なんだけどな――初めてのまともな恋愛かー」

 迅は昨日のデートを思い返す。正直、緊張しすぎて映画の内容はまったく覚えていないため、もう一度見に行こうと決めている。昼食も初めての店だったが、とても美味しかった。恋人らしく料理を分け合って食べるなど初めてのことで、なかなか前に座っている樹の顔を見ることはできなかったが、よく笑ってくれていた気がする。それに、いくつかの重要な情報を得ることもできた。樹の年齢や種族、それに好きな食べ物まで――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君はさみしがり屋の動物

たまむし
BL
「ウォンバットは甘えるの大好き撫で撫で大好き撫でてもらえないと寿命が縮んじゃう」という情報を目にして、ポメガバースならぬウォンバットバースがあったら可愛いなと思って勢いで書きました。受けちゃんに冷たくされてなんかデカくてノソノソした動物になっちゃう攻めくんです。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

【完結】片翼のアレス

結城れい
BL
鳥人族のアレスは生まれつき翼が片方しかないため、空を飛ぶことができずに、村で孤立していた。 飛べないアレスは食料をとるため、村の西側にある森へ行く必要があった。だが、その森では鳥人族を食べてしまう獣狼族と遭遇する危険がある。 毎日気をつけながら森に入っていたアレスだったが―― 村で孤立していた正反対の2人が出会い、そして番になるお話です。 優しい獣狼ルーカス × 片翼の鳥人アレス ※基本的に毎日20時に更新していく予定です(変更がある場合はXでお知らせします) ※残酷な描写があります ※他サイトにも掲載しています

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...