ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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10 帰宅

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 ある程度お腹も膨れてきたところで、質問の続きを行うことにした樹は、迅へと話を振った。

「次は迅さんの番ですよ」
「――え?」
「質問の続きです!」
「――俺の質問は終わったぞ」
「え?」

 樹が種族の質問をした後に料理が届いたので、そこで中断していたのではなかったっけ、と樹は今までの会話を思い返す。すると、1つだけ思い当たる質問があった。

「え、もしかして、パスタが好きかって聞いたことですか?」
「ああ、そうだ」
「そうだったんですね! じゃあ、迅さんの好きな食べ物は何ですか?」
「……特にない」
「え、じゃあ、嫌いな食べ物はありますか?」
「……ない」
「えー、すごいですねー」
「ああ、まぁな」

 嫌いな食べ物がないという迅の回答に樹は驚いた。樹にはある。自分が苦手な苦瓜にがうりを思い浮かべてしまい、樹は眉を潜めた。あの苦さはどうしても好きになれない。ピーマンなら大丈夫だが、苦瓜はどうしてもだめだ。折角美味しい料理を食べているのに苦手な食べ物を思い出してしまった樹は、慌てて話を変えた。

「じゃあ、次は迅さんの番です」
「――年齢は? 俺は、もうすぐ20歳だ」
「えっ、今19歳ってことですよね! 僕と同じだ。僕も今19歳です」
「そうなのか」
「はい!」

 迅は自分よりも年上だと思っていたため、少しだけ親近感が湧く。初めて同じものを見つけられた。ニコニコと笑顔になる樹をジッと見つめながら、迅が自分の首筋に片手を当てた。

「……同じ年なら敬語使わなくていい」
「あ、そうですね、じゃなくて、そうだね――えへへ」
「ああ」
「じゃあ、お名前も迅くんって呼んでいい?」
「ああ」

 迅は視線をそらしながらそっけなく返事をするが、その後ろでは迅の太い尻尾が忙しなく動いている。そのことに気がついた樹は微笑んだ。

「次は僕の番だね。うーん、どのあたりに住んでるの?」
「俺は――」


 質問し合いながら食事を楽しんでいたが、お昼時なこともあり店が段々と混み始めたため、2人は食事を終わらせて外へと出た。

「お腹いっぱい! ピザもパスタも美味しかったねー」
「ああ、旨かった」
「まとめて払ってくれてありがとう。半分払うね」

 2人が会計をしようとしたタイミングで店に団体客が来てしまったため、迅が先にカードですべて払ってくれていた。樹が片手に持っていた財布を開いたところで迅から声がかかる。

「いや、いい」
「――え、ダメだよ。映画の分も出してもらっているのにー」
「いや、大丈夫だ。金ならある」
「ええっ?」

 迅の返しに樹が目をぱちくりさせている間に、迅は両手をポケットに入れて足早に駅の方へと進んでしまう。樹は慌てて追いかけるが、今度もお金を渡すタイミングを失ってしまった。

「えっと、えっと、ありがとう……」
「ああ。家まで送る」
「え、いいよ! 迅くんの住んでる所と僕の住んでる所、猫山駅を挟んで逆の方向でしょ?」
「――暇だから」
「そうなの? じゃあ、お話しながら行こう」
「ああ」

 歩いて駅まで向かうと、丁度樹のアパートの方角の電車が止まっていたため、乗り込む。

「こっち方面には来ることあるの?」
「――まぁ、たまに」
「そうなんだー」

 電車に揺られながらとりとめもない話をしていると、あっという間に樹のアパートの最寄り駅である『緑山駅』へと着いてしまった。流石に駅で別れようと思った樹が「ここまでで大丈夫だよ。ありがとう」とお礼を言ったが、迅は「家まで送るから」とかたくなであったため、申し訳ないと思いながらも家まで送ってもらうことにした。
 樹の住んでいるアパートは『緑荘』という名前の木造2階建てで、1階の102号室で生活している。少し古いが、外装は優しい緑で塗りなおされており、住人もいい人ばかりで気に入っていた。駅までは歩いて20分程の距離にある。
 歩いている途中で迅がタクシーを拾おうとしたので、樹は慌てて止める。きっとタクシー代も迅が払うつもりなのだろう。もしかしたら、迅はとんでもないお金持ちなのかもしれない。ただ、恋人とはいえ全てを出してもらうのは気が引ける。次のデートではしっかりと払わせてもらおう、と決意しながら樹は迅を案内しながら歩いた。

「あ、ここが僕の住んでるアパートだよー。ここまでありがとう。お部屋に上がっていってよ。お茶だすよ!」
「――え、いや、いい。じゃあな」
「え、あ、うん。またねー」

 ここまで送ってもらったお礼にお茶を出そうとした樹の提案に、迅は慌てた様子できびすを返し、帰っていった。
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