ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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06 恋人

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 樹は、部屋で座椅子に座りながらスマホを取り出し、『ANIMAL』のアプリを開いた。

「ふふふっ」

 新しくフレンド欄に追加された人を見る。ホーム画面は綺麗な空の写真だ。夕焼け空のようでオレンジの部分と青の部分が混在しており、雲に影がかかっている。名前の部分にはフルネームが入っており、『宝来 迅』との3文字が並んでいる。

 今日、樹に初めての恋人ができた。
 料理が美味しくて気に入っている店で、いつものナポリタンを食べているときだった。横に座られて声をかけられたため、そちらに顔を向けると、とてつもない美形の男性がいた。
 毛先が肩につきそうなほどの綺麗な金髪で碧眼へきがん。整った王子様のような顔で見つめられて樹は驚いたが、その後の会話でもっと驚くことになった。

 恋人の有無を聞かれた後に、「付き合ってやってもいい」と言われたのだ。最初はからかわれているのだと思った。だが、迅の握りしめられ震えるこぶしに、倒れた耳、ピンとたった尻尾を見て極度に緊張していることが分かった。それに、奥の方に座っていた友人らしき男性が「おい、バカ。言い方が違うだろうが」と言いながら焦っているのが見えて、本気で言っているのだと気がついたのだ。
 きっと気持ちを伝えるのが苦手な人なのだろう。そう理解した樹は迅に頷き返した。一体自分のどこが良かったのだろうか。周りにはのんびりしているとか、おっとりしていると言われることが多く、顔だって特にイケメンなわけでも、かわいいわけでもない。それに、リスやハムスターのようにかわいい小動物系の種族でもない。

 樹が色々と考えていると、手に持っていたスマホから通知音が聞こえた。

「あっ」

 今まさに考えていた迅からのメッセージだったため、樹は急いで開いて読む。

『明後日は暇か?』

 今日は金曜日だ。つまり明後日ということは日曜日になる。樹はスケジュールアプリを開いて予定を確認し、返信した。

『こんばんは、樹です。日曜日は暇です』

 送ると、すぐに返事が返ってきた。

『10時に猫山駅で』

 送られてきて暫く待ったが、それ以上迅から追加のメッセージは来なかった。きっと、日曜日の10時に猫山駅で待ち合わせをして、遊びに行こうということだろう。いや、これはデートのお誘いなのだろう。

『分かりました。楽しみです!』

 そう返した樹はスマホを持ったまま立ち上がった。嬉しくて自然と笑みがこぼれる。初めてのデートだ。
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