ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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01 sakaba

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 春。それは別れの季節であり、出会いの季節でもある――


「おいおい、元気出せよ!」
「――ああ」

 友人である来栖 朋也くるすともやの言葉に、宝来 迅ほうらいじんは力なく頷き返事を返した。

「いやー、でもまさか、あんなかわいい顔して速攻浮気するなんてな。人は見かけによらないもんだわ」
「…………」

 下を向きながら歩いていた迅は、隣で歩いている朋也の顔を睨み上げた後、大きくため息をついた。太くて長い迅の尻尾も、迅の気持ちを表すかのように下へと垂れ下がっており、先端が地面へ触れそうだ。

 迅には恋人がいた。かわいい猫獣人の女の子だった。控えめでおとなしい子だと思っていたが――それは勘違いだったのだ。
 大学の授業後に呼び止められていきなり告白されたので驚いたが、もじもじと恥ずかしそうに言ってこられたため、かわいく思えて了承の返事を返した。しかし、1ヶ月と経たずに浮気されていることが判明したのだ。
 付き合ってすぐ、これから会いやすいように迅の住んでいるマンションの近くに部屋を借りてほしいと言われたため、彼女の要望に応じてマンションの一室を借りて鍵を渡した後、連絡がつかないことが多くなった。最初は控えめな性格なのだと思っていたが、あまりにも返信が返ってこなかったため心配になりそのマンションへ向かってみると、別の男と裸でイチャイチャしているところだったのだ。
 現場を見てしまい固まってしまった迅に対して、彼女は色々と言い訳をしてきたが、迅はそのまま部屋を出てきてしまった。

「まあ、今日はパーッと飲もうぜ」
「俺は未成年だ」
「お前、変なとこ真面目だよな――大丈夫だノンアルもあるから」

 呆れたような顔で迅を見た朋也は、迅の肩に勢いよく手を回し、街灯の照らす歩道を進んでいった。

「おい、手を回すな。離せ」

 迅と朋也は中帝大学の経営学部2年生だ。だが、朋也は1年留年して入学してきているので、年齢で見ると迅よりひとつ上になる。
 先に20歳になり酒をたしなめるようになると、朋也はあちこちで飲み歩くようになっていた。今日はそんな朋也の行きつけのバーに向かっている最中だ。

 大通りから細い路地へと入り少し進んだ暗がりに、上部からライトで照らされた扉があった。暗闇にその扉が浮かんでいるように見える。近づいていくと、木製の重そうな扉にはおしゃれな筆記体で『sakaba』と書かれたプレートが飾られているのが見えた。

 英語やフランス語でもなさそうだ。迅の知っている単語ではなかったため、首を傾げながら「なんて意味なんだ?」と朋也に聞くと、「ああ、サカバだよ」と返ってきた。

「さかば?」
「そう、普通にローマ字読みで、酒場!」
「……は?」

 朋也がバーの扉を開くと、チリンと小さな高い音がなる。入っていった朋也の後を迅も急いで追い、扉の中へと入っていった。
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