【完結】あなたともう一度会えるまで

結城れい

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17 発情期

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「ただいま」

 香月は玄関から声が聞こえてきて顔を上げた。もうそんな時間になってしまったのか、と時計を見て驚き、急いで玄関まで向かった。

「おかえりなさい、えい君」

 仕事から帰ってきた彼を玄関まで迎えにいく。
 靴を脱ぎ終わった彼の近くに行くと抱きしめられたので、香月も抱きしめ返した。そのまま口と口が軽く重なる。帰宅した彼と抱擁を交わし、キスをするのが最近の日課だ。
 最初は恥ずかしがっていた香月だったが、だんだんとスキンシップを図るようになってようやく慣れてきた。

「勉強頑張ってたんだね。すごいな、もうここまで進んだのか!」
「うん!」

 リビングに出しっぱなしにしていた勉強道具を見て、彼は感嘆の声をあげた。
 香月は今、高卒認定試験を受けるために勉強を頑張っている。香月の学力は学校に行けなくなった小学6年生で止まっていた。そのため、勉強を再開した最初は大変だったが、だんだんと勉強するコツを掴んでいき、最近ではテキストを進めるペースも早くなってきていた。

「体調に変化はない?」
「うん……なんともないよ」

 薬を飲まなくなって半年ほど経つが、まだ香月には発情期が訪れていなかった。食べるご飯の量も少しずつ増えていき、一日三食しっかりと食べている。最近では彼が仕事帰りに買ってきてくれるスイーツまで食べているのだ。
 一緒に過ごすようになって数日経った頃、彼が仕事帰りにプリンを買ってきてくれた。久しぶりに食べた甘くて美味しいスイーツ。子供の頃、学校の給食で食べて以来だった。一口食べて固まってしまった香月を見て、彼は嬉しそうに笑った。その日から、出かけてきた帰りには、スイーツを買ってきてくれるようになったのだ。ケーキやマカロン、お饅頭などどれも美味しいものばかりで、香月はいつもこの時間を楽しみにしていた。
 睡眠も彼が一緒だとしっかりと取れるようになった。途中で起きてしまうこともなく、暖かな人肌に包まれながら朝までぐっすりと眠っている。
 
 日中は勉強と家事を行い、睡眠と食事も十分とれてとても健康的な生活を送っている。それなのに、発情期だけはやってこなかった。
 普通は3か月に1回やってくるものだと、定期健診で病院を訪れた際に先生が教えてくれた。薬を飲まなくなって半年ほど経つのに、まだ香月には発情期の兆候すら感じられない。

 発情期がきたら、彼と番になる約束をしている。発情期中に性行為をして、うなじを噛んでもらうのだ。番になると、オメガとアルファがともに精神的にもホルモン的にも安定することができるし、番以外の匂いに反応することもなくなるのだという。
 香月は発情期がきて、番になるのを楽しみにしていた。発情期自体は経験したことがなく、とても怖い。ただ、とうとう番になることができるのだ。

――早く来てほしい

 そう思いながら、香月は幸せな毎日を過ごしていた。
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