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16 焦りと不安
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そのまま家に帰るのだと思っていたが、病院の後に着いたのはデパートだった。
デパートに入り、てっきり彼の買い物をするのかと思っていたら、香月の物を買いに来たと言われて、香月は驚き飛び上がった。
遠慮する香月をなだめながら、彼は次々と服や靴、日用品などを買っていく。値札の金額は怖くて見れなかった。
いままで着たことや持ったことのないような良いものを買ってもらい、嬉しいという感情よりも、不安のほうが大きかった。
早めに働かないと、という焦りが香月を襲う。一体何をして働けばいいか分からないが、とにかく仕事をして返していかなければという気持ちで一杯になった。
そんな香月の焦りを感じたのか、家に帰り一緒にお茶を飲んでいた時に彼が聞いてきた。
「香月。何をそんなに焦っているのか私に教えてくれない?」
「えっと……。早く、お仕事をしないとって」
「うん。どうして?」
「えい君に買ってもらってばっかりで、返せてないから……」
「そっか。私はね、香月に返してほしくてやっているんじゃないよ。喜んでほしくてやっているんだ」
「喜んでほしい?」
彼が冷たくなった香月の手を握りしめる。まるで、彼の体温を香月に分け与えるように。
「うん。そうだよ。だって香月は私の大切な人で、大好きな人だからね」
「えっ……」
「――好きだよ、香月。本当は色々と落ち着いてから、ゆっくり話そうと思っていたんだけどね。待てないから、早めに言わせて。私の番になってほしい」
――大切な人、大好きな人
ずっとずっと言ってもらいたかった言葉だった。彼の番になりたいと、ずっと思っていたのだ。あの公園で言われた時と同じように、香月の手を握りしめ真剣に言ってくれる彼を見て、まるで当時に戻ったみたいな感覚に陥る。
――だが、あの頃の何も知らなかった、だた喜んでいただけの香月はもういないのだ
感情が錯綜し、耐え切れずに泣き出した香月に、彼は優しく話しかけた。
「どうしたの? 思っていることがあるなら全部言ってごらん」
「……ぼ、ぼくは、ぼくは、何にもなくて。小学校も卒業していないし、ボロボロだし全然、全然えい君と釣り合ってないっ」
「うん」
「それに、それに、お客さんが、いて、色んな人に股を開いて汚いって」
「うん」
「何しても、失敗ばっかりで、どんくさいって、怒られて――」
泣きじゃくり、言葉に詰まりながらも心のうちで思っていたことを、吐き出すように言い募る。そんな香月の背中をなでながら、彼は優しく相槌を打ちながら聞いてくれた。
すべてを吐き出し、しゃくり上げる香月が落ち着いたころ、彼がゆっくりと話し始めた。
「香月、思っていることを言ってくれてありがとう。それは全部香月のせいじゃないよ。父親と周りの環境のせいなんだ。当時の幼かった君に、選択肢なんてなかったんだ。それでも頑張ってきた香月の内面は、誰よりも綺麗だ」
「……ぼく、ぼくはきれいなの?」
「ああ。汚くてボロボロなんかじゃないよ。綺麗で美しい」
抱きしめてくれた彼のぬくもりに包まれながら、香月は心の中にあった蟠りが解けていくのを感じた。自分のすべてをさらけ出しても、それでも綺麗だと言ってくれる彼がそばにいてくれる。そのことが、とても幸せで、これまで頑張ってきた自分が報われたようだった。
「僕も、僕もえい君が好き。ずっと好きだったの。番にしてください」
デパートに入り、てっきり彼の買い物をするのかと思っていたら、香月の物を買いに来たと言われて、香月は驚き飛び上がった。
遠慮する香月をなだめながら、彼は次々と服や靴、日用品などを買っていく。値札の金額は怖くて見れなかった。
いままで着たことや持ったことのないような良いものを買ってもらい、嬉しいという感情よりも、不安のほうが大きかった。
早めに働かないと、という焦りが香月を襲う。一体何をして働けばいいか分からないが、とにかく仕事をして返していかなければという気持ちで一杯になった。
そんな香月の焦りを感じたのか、家に帰り一緒にお茶を飲んでいた時に彼が聞いてきた。
「香月。何をそんなに焦っているのか私に教えてくれない?」
「えっと……。早く、お仕事をしないとって」
「うん。どうして?」
「えい君に買ってもらってばっかりで、返せてないから……」
「そっか。私はね、香月に返してほしくてやっているんじゃないよ。喜んでほしくてやっているんだ」
「喜んでほしい?」
彼が冷たくなった香月の手を握りしめる。まるで、彼の体温を香月に分け与えるように。
「うん。そうだよ。だって香月は私の大切な人で、大好きな人だからね」
「えっ……」
「――好きだよ、香月。本当は色々と落ち着いてから、ゆっくり話そうと思っていたんだけどね。待てないから、早めに言わせて。私の番になってほしい」
――大切な人、大好きな人
ずっとずっと言ってもらいたかった言葉だった。彼の番になりたいと、ずっと思っていたのだ。あの公園で言われた時と同じように、香月の手を握りしめ真剣に言ってくれる彼を見て、まるで当時に戻ったみたいな感覚に陥る。
――だが、あの頃の何も知らなかった、だた喜んでいただけの香月はもういないのだ
感情が錯綜し、耐え切れずに泣き出した香月に、彼は優しく話しかけた。
「どうしたの? 思っていることがあるなら全部言ってごらん」
「……ぼ、ぼくは、ぼくは、何にもなくて。小学校も卒業していないし、ボロボロだし全然、全然えい君と釣り合ってないっ」
「うん」
「それに、それに、お客さんが、いて、色んな人に股を開いて汚いって」
「うん」
「何しても、失敗ばっかりで、どんくさいって、怒られて――」
泣きじゃくり、言葉に詰まりながらも心のうちで思っていたことを、吐き出すように言い募る。そんな香月の背中をなでながら、彼は優しく相槌を打ちながら聞いてくれた。
すべてを吐き出し、しゃくり上げる香月が落ち着いたころ、彼がゆっくりと話し始めた。
「香月、思っていることを言ってくれてありがとう。それは全部香月のせいじゃないよ。父親と周りの環境のせいなんだ。当時の幼かった君に、選択肢なんてなかったんだ。それでも頑張ってきた香月の内面は、誰よりも綺麗だ」
「……ぼく、ぼくはきれいなの?」
「ああ。汚くてボロボロなんかじゃないよ。綺麗で美しい」
抱きしめてくれた彼のぬくもりに包まれながら、香月は心の中にあった蟠りが解けていくのを感じた。自分のすべてをさらけ出しても、それでも綺麗だと言ってくれる彼がそばにいてくれる。そのことが、とても幸せで、これまで頑張ってきた自分が報われたようだった。
「僕も、僕もえい君が好き。ずっと好きだったの。番にしてください」
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