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12 現実
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「……戻りました」
香月がリビングの扉を開けると、タブレットを持って作業をしていた彼がこちらを向いて何かをつぶやいた。
「……かわいい」
「んっ?」
「あ、いや。おいで。髪を乾かしてあげる」
「え! いいです。大丈夫です。自分でします」
「いいから、いいから」
用意していたであろうドライヤーを片手に持ち、彼が近づいた香月の腕を引っ張る。
そのまま、ソファに横向きに座らせた香月の後ろから、彼が髪を乾かし始めた。
他人に乾かされる経験がなかった香月は、頭を触られる感覚がくすぐったくて首をすくめた。思わず笑みがこぼれる。
体も心も頭もどこもかしこも暖かくて、幸せを感じながら静かに目を閉じた。
「少し、話をしようか」
ドライヤーを終えた後、彼はソファに座り直し、そう言った。
急に真剣な顔になった彼を見て、香月は一気に現実に引き戻されたような感覚に陥った。先ほどまでのホワホワとした気分が、すべてどこかへ飛んでいったようだ。
表情が固まった香月を見て、彼が香月の背中をなでながらゆっくりと話し始める。
「そんなに、緊張しなくて大丈夫だよ。――悪いと思ったけど、香月の今の現状を、調べさせてもらったんだ」
「――え」
「日本に戻ってきて、ようやく本格的に香月を探せるようになったんだけど、なかなか見つからなくてね。そんな中、たまたま道路を挟んで君と再会したんだ。先週のことだね」
「……うん。逃げてごめんなさい」
謝る香月の頭をなだめるようになでながら、彼が話を続ける。
「その後、香月のことを調べたんだ。私と会ったことが、香月にとってよくないことだったんじゃないかと心配になってね。別の人と番になっている可能性もあったから」
「そんなこと、ない!僕もずっと会いたかった……」
自分が逃げ出してしまったせいで、彼にそう思われていたと知って香月は青ざめ、必死に否定した。
「うん、万が一を考えてね。そして、君の現在置かれている状況を知ったんだ。……ほんとに大変だったね。早く見つけてあげられなくてごめんね。もう大丈夫だよ」
どこまで、何まで知られているのかわからない。ただ、今まで頑張って耐えてきた自分を肯定され、嫌がられなかったことが香月にとっては大きかった。今までの頑張りが報われたようで、胸がいっぱいになる。
「……もう一度、もう一度、会えるまでって、思って」
涙があふれて、言葉にならなかった。彼に出会ってから泣いてばかりいるが、涙はまったく枯れる気配はない。
そんな香月をしっかりと抱きしめて、彼は「ありがとう」とつぶやいた。
「生きててくれてありがとう」
香月がリビングの扉を開けると、タブレットを持って作業をしていた彼がこちらを向いて何かをつぶやいた。
「……かわいい」
「んっ?」
「あ、いや。おいで。髪を乾かしてあげる」
「え! いいです。大丈夫です。自分でします」
「いいから、いいから」
用意していたであろうドライヤーを片手に持ち、彼が近づいた香月の腕を引っ張る。
そのまま、ソファに横向きに座らせた香月の後ろから、彼が髪を乾かし始めた。
他人に乾かされる経験がなかった香月は、頭を触られる感覚がくすぐったくて首をすくめた。思わず笑みがこぼれる。
体も心も頭もどこもかしこも暖かくて、幸せを感じながら静かに目を閉じた。
「少し、話をしようか」
ドライヤーを終えた後、彼はソファに座り直し、そう言った。
急に真剣な顔になった彼を見て、香月は一気に現実に引き戻されたような感覚に陥った。先ほどまでのホワホワとした気分が、すべてどこかへ飛んでいったようだ。
表情が固まった香月を見て、彼が香月の背中をなでながらゆっくりと話し始める。
「そんなに、緊張しなくて大丈夫だよ。――悪いと思ったけど、香月の今の現状を、調べさせてもらったんだ」
「――え」
「日本に戻ってきて、ようやく本格的に香月を探せるようになったんだけど、なかなか見つからなくてね。そんな中、たまたま道路を挟んで君と再会したんだ。先週のことだね」
「……うん。逃げてごめんなさい」
謝る香月の頭をなだめるようになでながら、彼が話を続ける。
「その後、香月のことを調べたんだ。私と会ったことが、香月にとってよくないことだったんじゃないかと心配になってね。別の人と番になっている可能性もあったから」
「そんなこと、ない!僕もずっと会いたかった……」
自分が逃げ出してしまったせいで、彼にそう思われていたと知って香月は青ざめ、必死に否定した。
「うん、万が一を考えてね。そして、君の現在置かれている状況を知ったんだ。……ほんとに大変だったね。早く見つけてあげられなくてごめんね。もう大丈夫だよ」
どこまで、何まで知られているのかわからない。ただ、今まで頑張って耐えてきた自分を肯定され、嫌がられなかったことが香月にとっては大きかった。今までの頑張りが報われたようで、胸がいっぱいになる。
「……もう一度、もう一度、会えるまでって、思って」
涙があふれて、言葉にならなかった。彼に出会ってから泣いてばかりいるが、涙はまったく枯れる気配はない。
そんな香月をしっかりと抱きしめて、彼は「ありがとう」とつぶやいた。
「生きててくれてありがとう」
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