【完結】あなたともう一度会えるまで

結城れい

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04 夜の仕事

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 香月が15歳になった日の夜。
 工場長がアパートの部屋までやってきて、父親にお金を渡しながら入ってきた。
 父親はお金を受け取り香月を一度見た後、特に何も話さずにそのまま外に出て行った。玄関の扉の閉まる音がやけにうるさく聞こえた。

「香月君、15歳になったね」
「はい、ありがとうございます」

 工場長が香月の身体を頭から足の先までなめるように見てくる。
 ここ最近、工場で働いている際に同じような視線を何度か感じていたが、今まで以上にじっくり見られていると感じた香月は、膝を抱えて自分を抱きしめた。

「俺はね、君を買ったんだよ」
「え?」

 工場長が話しながら少しずつ近づいてきたので、香月は少しずつ後ろに下がる。

「ずっと待っていたんだよ。君が15歳になるまで」

 背中に壁があたり、これ以上後ろに下がれなくなった。身体が震えてくる。
 父親に渡されていたお金と、初めて工場に連れてこられた時に話していた内容が頭を過ぎり、分かりたくないのに分かってしまう。

「正真正銘、初めてのオメガをいただくのはなかなかできない経験だからね。しっかりと仕込んであげるから大丈夫だよ。今後、たくさんお客さんが取れるようにしてあげるからね」 
「――ひっ」

 そう言って嬉しそうに覆いかぶさってくる工場長から、香月は逃げることができなかった。

 ただただ痛くて恥ずかしくて、逃げたくて。香月は大声で泣いたが、もちろん助けてくれる人はいなかった。
 その日初めて、お尻に相手のペニスを受け入れる行為があること、その行為でお金をもらえること――それが自分の仕事になったことを香月は理解せざるを得なかった。

***

 その日から香月は、昼間は工場の仕事を、夜は男の人の相手をする仕事をするようになった。夜の仕事は毎日ではなかったけど、それでもきつくて仕方なかった。
 父親は大金が手に入ったことで、あまり家に帰ってこなくなったが、香月は父親に売られたというショックからあまり会いたくなかったのでちょうど良かったのかもしれない。
 香月が相手をする男の人たちは父親が決め、当日にお金と引き換えに鍵を渡しているようで、夜10時以降に勝手に部屋に入って来るのだ。そのため、最初の頃は扉が開くたび驚いていたが、徐々に慣れていった。

 工場でのお給料も父親に振り込まれるため、香月が自由に使えるお金は毎月父親が渡してくる2万円のみだ。スーパーで値引きされたお弁当や菓子パンを買って食べていたが、消耗品もこのお金で買わなくてはならないので、足りなくなったときはお水をたくさん飲んで我慢した。

 毎月渡されるものは食費以外にもあった。お薬だ。
 オメガは決まった周期で発情期があり、発情期中にアルファにうなじを噛まれると番になる。番になるとその相手以外との性行為はできなくなるため、客が取れなくなりお金が稼げなくなる。だから、発情期を抑える効果のあるものと避妊の効果のあるものを渡すから、毎日忘れずに飲むんだ、と父親に言われて毎月渡されていた。

 香月は毎日必ず薬を飲んでいた。
 それは父親に言われたからではなく、彼との約束があったからだ。『将来、番になろうね』と、そう言ってくれた彼の、えい君の顔を思い出しながら毎日忘れずに飲んだ。

 いつか彼と番になれる日を夢見ながら……

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