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61 櫛
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アレスは商店の扉を開けて中へと入った。だが、そこにはルナールの姿もペッツァの姿もない。
「あれ?」
いつもならどちらかは必ず商店の中にいるのに、どちらの姿も見えないことに不思議に思いながらもアレスは棚の籠を引き出して毛づくろい用の櫛を探した。
いくつか覗いてみたが、食料や布などしか入っていない。残念に思ったアレスは誰もいない商店内を見渡した。すると、いつもルナールたちが帳簿を確認する横長の高い台の近くに、大きな箱が設置されている事に気づく。いつもは何もなかった場所に設置されているので気になったアレスが近づいて覗いてみると、そこにはいくつもの櫛が入っていた。
求めていたものが見つかって嬉しくなったアレスは早速手を伸ばして、一番上にあった櫛を手に取った。横幅の広い大きなものだ。これならルーカスの大きな体でもしっかりと梳かすことができそうだ。だが、色が茶色なのが少し気に入らない。
黒の櫛がないかとアレスは箱の中を覗きこみ、手で下のほうまで探る。
探していると、背後で扉が開く音がした。振り返ると、ルナールとペッツァ、それにルーカスまでいる。3人で一緒にやってきたようだ。
「あれ、アレスじゃないか! ごめんごめん。祭りの準備で2人とも出払っていたから、待たせたかな?」
「ううん、大丈夫! 祭りの準備?」
ルナールに聞き返したアレスの隣にルーカスがやってきて、アレスの髪を撫でる。
「アレス、商店に来てたんだな」
「ルーカス」
アレスは目を閉じて、ルーカスの手を受け入れた。
「うふふ。2人とも仲良しね!」
ペッツァがアレスを見てそうつぶやきながら、ルナールの腕に抱き着いた。
「そうだね! まぁ俺たちほどじゃないけどねハニー」
「そうね、ダーリン」
ペッツァと見つめあっていたルナールは、そこでようやくアレスに問われたことを思い出した。
「――あ、そうそう祭りの話だったね。この村では冬が終わって暖かくなってきた時に、無事に冬を越せたことを祝って祭りをするんだ。祭りと言っても、広場に木で大きなやぐらを組んで、火をつけてご馳走を食べるだけなんだけどね。まぁ、ただの祝宴って感じだよ。皆で集まって食べたり飲んだりするんだ!」
「へぇー、そんなのがあるんだ」
「うん! さっき祭りに必要なものを聞くために集会所に行ったら、丁度ルーカスもいたんだよ」
「ああ、木を組むのを手伝ってくれとティグリスに言われていたから、その打ち合わせをしていたんだ」
お祭り。聞くだけでワクワクと胸が高鳴る。広場に村の皆が集まり、食べたり飲んだりするのだろう。やぐらに火をつけるということは、夜に行われるのだろうか。アレスは櫛を手に持ったままルーカスを見上げた。
「お祭り楽しみだね!」
「ああ、そうだな。ところでアレスは櫛を探しに来たのか?」
「――うん」
アレスがルーカスの問いに頷いたところで、横からルナールが話しかけてきた。
「髪用の櫛なら別にあるよ! その箱には毛づくろい用の櫛しか入っていないんだ。最近交換に来る獣族が多いから、まとめて店内に出しておこうと思って箱にまとめてたんだ」
「いや、ルーカス用のを探しに来たから、これでいいんだ」
「ああ、そうだったんだ!」
納得したルナールと違い、横にいたルーカスは驚いて口を開いた。
「俺の?」
「うん、その、今朝ルーカスの毛が抜けているのに気づいて、慌てて先生に聞いたら換毛期だって言われたから」
「――ああ、そうだったのか。そうか鳥人族には換毛期がないのか。それで今朝色々聞いてきたんだな。言ってなくてすまなかった……家で毛を落とさないように外で払って帰っていたから、毛が落ちていたことに気づかなかった」
「ううん、オレが換毛期を知らなかっただけだから。それで、毛づくろい用の櫛で梳かしてあげれば喜ぶよって言われたから見に来たんだ!」
「ありがとう。アレスに梳かしてもらえると嬉しい」
「うん! どんな櫛がいいとかあるの?」
ルーカスと一緒に箱の中の櫛を吟味しながら、最終的に黒くて艶のある綺麗な櫛に決めた。
「あれ?」
いつもならどちらかは必ず商店の中にいるのに、どちらの姿も見えないことに不思議に思いながらもアレスは棚の籠を引き出して毛づくろい用の櫛を探した。
いくつか覗いてみたが、食料や布などしか入っていない。残念に思ったアレスは誰もいない商店内を見渡した。すると、いつもルナールたちが帳簿を確認する横長の高い台の近くに、大きな箱が設置されている事に気づく。いつもは何もなかった場所に設置されているので気になったアレスが近づいて覗いてみると、そこにはいくつもの櫛が入っていた。
求めていたものが見つかって嬉しくなったアレスは早速手を伸ばして、一番上にあった櫛を手に取った。横幅の広い大きなものだ。これならルーカスの大きな体でもしっかりと梳かすことができそうだ。だが、色が茶色なのが少し気に入らない。
黒の櫛がないかとアレスは箱の中を覗きこみ、手で下のほうまで探る。
探していると、背後で扉が開く音がした。振り返ると、ルナールとペッツァ、それにルーカスまでいる。3人で一緒にやってきたようだ。
「あれ、アレスじゃないか! ごめんごめん。祭りの準備で2人とも出払っていたから、待たせたかな?」
「ううん、大丈夫! 祭りの準備?」
ルナールに聞き返したアレスの隣にルーカスがやってきて、アレスの髪を撫でる。
「アレス、商店に来てたんだな」
「ルーカス」
アレスは目を閉じて、ルーカスの手を受け入れた。
「うふふ。2人とも仲良しね!」
ペッツァがアレスを見てそうつぶやきながら、ルナールの腕に抱き着いた。
「そうだね! まぁ俺たちほどじゃないけどねハニー」
「そうね、ダーリン」
ペッツァと見つめあっていたルナールは、そこでようやくアレスに問われたことを思い出した。
「――あ、そうそう祭りの話だったね。この村では冬が終わって暖かくなってきた時に、無事に冬を越せたことを祝って祭りをするんだ。祭りと言っても、広場に木で大きなやぐらを組んで、火をつけてご馳走を食べるだけなんだけどね。まぁ、ただの祝宴って感じだよ。皆で集まって食べたり飲んだりするんだ!」
「へぇー、そんなのがあるんだ」
「うん! さっき祭りに必要なものを聞くために集会所に行ったら、丁度ルーカスもいたんだよ」
「ああ、木を組むのを手伝ってくれとティグリスに言われていたから、その打ち合わせをしていたんだ」
お祭り。聞くだけでワクワクと胸が高鳴る。広場に村の皆が集まり、食べたり飲んだりするのだろう。やぐらに火をつけるということは、夜に行われるのだろうか。アレスは櫛を手に持ったままルーカスを見上げた。
「お祭り楽しみだね!」
「ああ、そうだな。ところでアレスは櫛を探しに来たのか?」
「――うん」
アレスがルーカスの問いに頷いたところで、横からルナールが話しかけてきた。
「髪用の櫛なら別にあるよ! その箱には毛づくろい用の櫛しか入っていないんだ。最近交換に来る獣族が多いから、まとめて店内に出しておこうと思って箱にまとめてたんだ」
「いや、ルーカス用のを探しに来たから、これでいいんだ」
「ああ、そうだったんだ!」
納得したルナールと違い、横にいたルーカスは驚いて口を開いた。
「俺の?」
「うん、その、今朝ルーカスの毛が抜けているのに気づいて、慌てて先生に聞いたら換毛期だって言われたから」
「――ああ、そうだったのか。そうか鳥人族には換毛期がないのか。それで今朝色々聞いてきたんだな。言ってなくてすまなかった……家で毛を落とさないように外で払って帰っていたから、毛が落ちていたことに気づかなかった」
「ううん、オレが換毛期を知らなかっただけだから。それで、毛づくろい用の櫛で梳かしてあげれば喜ぶよって言われたから見に来たんだ!」
「ありがとう。アレスに梳かしてもらえると嬉しい」
「うん! どんな櫛がいいとかあるの?」
ルーカスと一緒に箱の中の櫛を吟味しながら、最終的に黒くて艶のある綺麗な櫛に決めた。
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