60 / 66
60 換毛期
しおりを挟む
いつも通りの朝。眠りから目覚めかけたアレスは違和感を感じた。
――握りしめた手の中に何かが入っている
まだ眠く、うまく開かない目を無理やりあけて確認すると、握りしめた手の隙間から毛が見えた。
一瞬で眠気が吹き飛んだアレスは慌てて手を開く。毛は銀色でルーカスのものだ。
上半身を起こして下にあるルーカスの体を見える範囲で確認するが、特に毛がなくなっている部分はない。眠っている間に寝ぼけてルーカスの体毛を毟ってしまったかと思ったが、どうやら違うようだ。それなら一体この毛は何処から――とアレスが考えていると、ルーカスが動いた。
「んっ、アレス」
「――あ、ルーカス、おはよう」
アレスは慌てて手の中にある毛を握りしめて隠す。
「布団片づけとくから、先に顔洗ってきなよ」
「……ああ、ありがとう」
まだ完全に起きていないルーカスの背中を押しながら背中側も確認するが、特に毛がなくなっている場所はない。ルーカスを寝室から出した後、首をかしげながら布団へ目をやったアレスは動きを止めた。
――毛の塊が落ちている
アレスの手の中にあるものと同じくらいの毛が布団の上にもぽつんと落ちている。急いで拾い上げたアレスはどちらとも服の中に仕舞って布団をたたんだ。
鳥人族で羽が抜ける時と言えば、病気の時かストレスがある時だ。
もしかしてルーカスは何か不調があるのだろうか。心配に思いながら、直接聞いてもいいものなのか悩みつつアレスは寝室から出た。
「ルーカス、体調はどう?」
「ん? 特に悪いとこもなく、元気だがどうした?」
朝食を食べながらさりげなく体調を尋ねる。見たところ朝食も元気に食べているため、食欲もありそうだ。本当に不調はなさそうに見える。
「ううん。なんとなく」
「そうか。アレスはどうだ?」
「うん。元気だよ! 悩み事とかもない?」
「ああ。大丈夫だ。何かあればアレスに直ぐ言う」
ルーカスの腕がアレスへと伸びてきて、頭を優しく撫でてくる。一度頷いたアレスは手元の果実を見つめて口に入れた。
******
「ああ、それは換毛期じゃな」
「かんもうき?」
ストレスではないなら病気かもしれないと思ったアレスが診療所で先生に相談すると、直ぐに答えが返ってきた。
「冬が終わって気温が上がってきたときに――ちょうど今くらいの時期じゃな、冬用の毛が一気に抜けるんじゃよ。病気じゃないから心配せんでもよい。毎年あるもんじゃ」
「――はぁ、よかった」
アレスは先生に見せるために手に持っていた毛の塊を見ながら、安堵の息を吐いた。
病気でもストレスでもなく、ルーカスの毛は毎年同じ時期に抜けるようだ。昨年のこの時期は一緒にいなかったので知らなかった。
「毛づくろい用の櫛で梳かしてあげればよい。ルーカスも喜ぶじゃろ」
「そうなんだ! 先生ありがとう」
診療所の手伝いが終わったら早速商店に行って櫛を探そうと決めたアレスは、毛の塊を服に仕舞った。
――握りしめた手の中に何かが入っている
まだ眠く、うまく開かない目を無理やりあけて確認すると、握りしめた手の隙間から毛が見えた。
一瞬で眠気が吹き飛んだアレスは慌てて手を開く。毛は銀色でルーカスのものだ。
上半身を起こして下にあるルーカスの体を見える範囲で確認するが、特に毛がなくなっている部分はない。眠っている間に寝ぼけてルーカスの体毛を毟ってしまったかと思ったが、どうやら違うようだ。それなら一体この毛は何処から――とアレスが考えていると、ルーカスが動いた。
「んっ、アレス」
「――あ、ルーカス、おはよう」
アレスは慌てて手の中にある毛を握りしめて隠す。
「布団片づけとくから、先に顔洗ってきなよ」
「……ああ、ありがとう」
まだ完全に起きていないルーカスの背中を押しながら背中側も確認するが、特に毛がなくなっている場所はない。ルーカスを寝室から出した後、首をかしげながら布団へ目をやったアレスは動きを止めた。
――毛の塊が落ちている
アレスの手の中にあるものと同じくらいの毛が布団の上にもぽつんと落ちている。急いで拾い上げたアレスはどちらとも服の中に仕舞って布団をたたんだ。
鳥人族で羽が抜ける時と言えば、病気の時かストレスがある時だ。
もしかしてルーカスは何か不調があるのだろうか。心配に思いながら、直接聞いてもいいものなのか悩みつつアレスは寝室から出た。
「ルーカス、体調はどう?」
「ん? 特に悪いとこもなく、元気だがどうした?」
朝食を食べながらさりげなく体調を尋ねる。見たところ朝食も元気に食べているため、食欲もありそうだ。本当に不調はなさそうに見える。
「ううん。なんとなく」
「そうか。アレスはどうだ?」
「うん。元気だよ! 悩み事とかもない?」
「ああ。大丈夫だ。何かあればアレスに直ぐ言う」
ルーカスの腕がアレスへと伸びてきて、頭を優しく撫でてくる。一度頷いたアレスは手元の果実を見つめて口に入れた。
******
「ああ、それは換毛期じゃな」
「かんもうき?」
ストレスではないなら病気かもしれないと思ったアレスが診療所で先生に相談すると、直ぐに答えが返ってきた。
「冬が終わって気温が上がってきたときに――ちょうど今くらいの時期じゃな、冬用の毛が一気に抜けるんじゃよ。病気じゃないから心配せんでもよい。毎年あるもんじゃ」
「――はぁ、よかった」
アレスは先生に見せるために手に持っていた毛の塊を見ながら、安堵の息を吐いた。
病気でもストレスでもなく、ルーカスの毛は毎年同じ時期に抜けるようだ。昨年のこの時期は一緒にいなかったので知らなかった。
「毛づくろい用の櫛で梳かしてあげればよい。ルーカスも喜ぶじゃろ」
「そうなんだ! 先生ありがとう」
診療所の手伝いが終わったら早速商店に行って櫛を探そうと決めたアレスは、毛の塊を服に仕舞った。
83
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説

オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。
篠崎笙
BL
薬学部に通う理人は植物採集に山に行った際、救世主として異世界に召喚されるが、熊の獣人に拾われてツガイにされてしまい、もう元の世界には帰れない身体になったと言われる。そして、世界の終わりの原因は伝染病だと判明し……。

【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行
うずみどり
BL
異世界に転移しちゃってこっちの世界は甘いものなんて全然ないしもう絶望的だ……と嘆いていた甘党男子大学生の柚木一哉(ゆのきいちや)は、自分の身体から甘い匂いがすることに気付いた。
(あれ? これは俺が大好きなみよしの豆大福の匂いでは!?)
なんと一哉は気分次第で食べたことのあるスイーツの味がする身体になっていた。
甘いものなんてろくにない世界で狙われる一哉と、甘いものが嫌いなのに一哉の護衛をする黒豹獣人のロク。
二人は一哉が狙われる理由を無くす為に甘味を探す旅に出るが……。
《人物紹介》
柚木一哉(愛称チヤ、大学生19才)甘党だけど肉も好き。一人暮らしをしていたので簡単な料理は出来る。自分で作れるお菓子はクレープだけ。
女性に「ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと」と言われてこちらの女性が苦手になった。
ベルモント・ロクサーン侯爵(通称ロク)黒豹の獣人。甘いものが嫌い。なので一哉の護衛に抜擢される。真っ黒い毛並みに見事なプルシアン・ブルーの瞳。
顔は黒豹そのものだが身体は二足歩行で、全身が天鵞絨のような毛に覆われている。爪と牙が鋭い。
※)こちらはムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
※)Rが含まれる話はタイトルに記載されています。

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
【完結】黒兎は、狼くんから逃げられない。
N2O
BL
狼の獣人(異世界転移者)×兎の獣人(童顔の魔法士団団長)
お互いのことが出会ってすぐ大好きになっちゃう話。
待てが出来ない狼くんです。
※独自設定、ご都合主義です
※予告なくいちゃいちゃシーン入ります
主人公イラストを『しき』様(https://twitter.com/a20wa2fu12ji)に描いていただき、表紙にさせていただきました。
美しい・・・!

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる