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しおりを挟む「そう言えば、どうしてルーカスは翼を食べたことに気づいたの?」
洞窟を出て村へと帰る途中。アレスはルーカスに抱き上げられながら、不思議に思い聞いた。
「ああ、商店で珍しい干し肉をもらってな、なんとなく食べたことがあるような気がしたんだが――」
「え、もしかしてそれが……」
「そう、後日聞きに行ったら商人が山の向こうで『ごちそう』と呼ばれている肉だって言ってたって聞いてな、そこからもしかしてと思って――」
「え、まって、鳥人族の肉が出回ってるってこと?」
驚いたアレスはルーカスの話の途中で口を挟んだ。そんなアレスに、ルーカスは首を横に振る。
「いや、冷静になった今なら分かるが、あれはいくつかの肉を合わせて作ったものなのだろう。そもそも商人が獣狼族の『ごちそう』を知っていたとは思えない。獣狼族は他種族にばれないように隠していたからな。それに、もし本当に鳥人族のものならば、こんな場所で交換せずに獣狼族の移動した先に持っていけばいい。そのほうがいい条件で交換できるだろう。商人がただ『ごちそう』という言葉を使っただけだろうな。たまたまその言葉が獣狼族の使っていたものと合ってしまったんだ」
「あー、確かにね」
ほかの地域で『ごちそう』と呼ばれている肉だと言えば、交換したがる人はいるだろう。もしも本当に鳥人族の肉ならば、獣狼族の村に持っていけば大量の肉と交換できるはずだ。今は鳥人族の村と獣狼族の村はお互いに遠くなってしまっているので、希少性も上がっている。
アレスはルーカスの話を聞いて、少しの安堵と共に納得した。
確かに鳥人族の村ではいい思いはしなかったが、それでも同族だ。孤児院では大人になるまで育ててもらった。
もう二度と彼らと会うことはないだろう。それでも、鳥人族の皆が獣狼族に襲われることがないよう、別の種族に食べられることがないようにアレスは祈る。
こんなことを考えられるようになったのも、ルーカスと幸せに暮らせるようになったからだ。
「だが、それがきっかけで考えてみたら、色々と引っかかることが出てきたんだ。診療所でアレスの背中の傷が『無理な力で引っ張られたように傷口が裂さけてしまっている』と言われていたし、俺が目覚めたときに空腹感も無くなっていたからな……」
「それで、自分でやったと思ったんだ」
「ああ、それに、昼間洞窟に来た時にアレスの黒い羽を見つけたんだ。奥のほうで。それで間違いないと思ってな」
「そうだったんだ。オレが羽を回収し忘れていたんだね……帰ってきたときに元気がなかったのはそのせいだったんだ」
「ああ。そして、アレスに確かめたときの反応で確信して、絶望のまま飛び出してしまった。アレスが来てくれて良かったよ。もし来てくれていなかったら、朝まで洞窟で考え続けていただろうな」
「ルーカスが家を飛び出していったとき本当に怖かったんだから。もうやめてよ」
「ああ、悪かった」
「あ、そうそうクニーとウルスが助けてくれたんだ。ウルスはここまで運んでくれて、灯りまで置いていってくれて」
雲が出て月が隠れておりあたりは真っ暗だが、灯りのおかげでルーカスの顔は見える。なぜかルーカスの顔は不満げだ。
「どうしたの?」
「アレスを抱き上げていいのは俺だけだ」
「ふふっ、うん。やっぱりルーカスじゃないとしっくりこないよ」
「緊急事態以外は断ってくれ」
「分かった。今回は緊急事態?」
「ああ、明日2人にお礼に行かないとな。最近、2人には何かと世話になってるな」
「うん。助けられてるね」
困ったときは助けてくれる村の仲間がいる。クニーとウルスにはルーカスと番になる前からお世話になりっぱなしだ。クニーはアレスのことを友達と言ってくれた。アレスも勝手に友達だと思っていたけれど、相手からも言われたのでこれで友達だと胸を張って言える。
「俺のことは怖くないのか?」
「ん?」
「アレスは俺のことを優しいと言ってくれるが、所詮俺は獣狼族だ――アレスを食べてしまえる生き物なんだ。アレスが本気で抵抗しても敵うことはない……」
「うん。でも、ルーカスがオレを故意に傷つけることはないって分かってるし、その力でオレを守ってくれるんでしょ?」
「――ああ、守るよ。今後アレスにどんな怪我もさせないと誓う」
真剣な顔でルーカスに言われて、アレスは慌てた。灯りに照らされたルーカスの瞳が決意に燃えている。
「小さな怪我は別にしてもいいでしょ! そんなこと言ってたら、オレは外を出歩けなくなっちゃうじゃないか」
「俺としてはそれがいい。アレスにはずっと安全な場所で暮らしてほしいんだ」
「えー、やだ! 村のために色々したいし、ルーカスとも色んな場所に出かけたいもん」
歩みを止めたルーカスが、アレスを見つめる。
「ああ、もちろん無理強いなんてしないし、アレスには自由にしてほしいが、心配なんだ。俺の目が届かない場所で傷ついたらと思うと……」
「もう、ルーカスは心配しすぎだよ。確かにオレはルーカスと比べたら弱いけど、それでも大丈夫だから」
「ああ、分かっているが、それでも心配なんだ」
「――うん。でもオレだってルーカスが心配だよ」
「俺がか?」
「そう。だってルーカスは力も強いから自分で何とか出来ちゃうでしょ? オレを守ろうとしてくれるのは嬉しいけど、1人で頑張りすぎないか心配なんだ。オレは力は弱いけど、だからこそ精神面ではルーカスを助けたいし、頼りにしてほしいよ」
アレスの思いを込めた言葉に、少しだけ目を見開いたルーカスは顔を近づけてきて頬ずりした。
「――ああ、アレスは心が誰よりも強い。そうだなこれから先、困ったことや思うことがあれば相談する。だからアレスも何かあったら隠さずに言ってくれ」
「うん。お互いに思ってることは言い合おうね。番なんだもん」
「ああ」
アレスはルーカスの首元へ抱き着いて力を込めた。
2人は番だ。これから先ずっと一緒に生きていく。困難なことがあっても一緒に乗り越えていくのだ。
「番って両翼みたいじゃない?」
「両翼?」
「そう! 片翼じゃ飛べないけど、2人なら、両翼なら空だって飛べるんだ。一緒に力を合わせて動かせば、壁を乗り越えていけるんだよ!」
「なるほどな」
ちょうど雲から顔を出した月が2人を照らす。アレスは月を見上げた後、ルーカスを見た。こちらを見ていたルーカスと目が合う。金の目が慈しむように細められた。
「――愛してるよアレス」
「え、急にどうしたの!?」
「なんとなく言いたくなったんだ」
「え、お、オレも、あ、愛してる」
急に言われて顔が真っ赤になったアレスは、恥ずかしくてもしっかりルーカスへ返した。
気持ちはしっかり伝えるんだ――ずっと一緒にいるためには必要なのだから
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