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49 違和感
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少し落ち着いてきたルーカスは、お茶を入れて、居間に座る。少しずつ飲みながら気持ちを落ち着かせていたルーカスは過去に聞いたある言葉を思い出して、手が止まった。
診療所にアレスの怪我の具合について相談に行った時、先生は『無理な力で引っ張られたように傷口が裂さけてしまっている』と言っていた。それを聞いた時に少しだけ違和感があった。
アレスの翼がなくなったのは崖から飛び降りて、川を流された後にルーカスが目覚めるまでの間のことだ。川の激流にのまれた際に、当たりどころが悪くなくなってしまったと思っていたが、それならば傷口が裂けているのはおかしいのではないか。どこかに翼が引っかかって裂けてしまったのだろうか。確かに川の流れは速かったが、翼はそんな簡単に引っ張られてなくなってしまうものなのだろうか――
もちろん、岩にぶつかった後、どこかに引っかかって根元から裂けてしまったなどの場合もあるだろうが、ルーカスは何かが引っかかり、考えるのを止められない。
ルーカスが目を覚ました時、アレスの翼は既になく、歩くのもフラフラの状態だった。そんな状態でルーカスを洞窟まで運べるのだろうか。
それに、あの時はアレスの怪我に動揺して気にしていなかったが、かなりの飢餓状態で気を失っていたにも関わらず、目が覚めた時にはそこまで空腹を感じなかった。逆に、力が漲ってさえいた。明らかにおかしい。
無理な力で引っ張られたアレスの翼。
歩くのさえフラフラな状態だったアレス。
それに、ルーカスの空腹がなくなったこと。
それらを総合すると、最悪なストーリーが浮かび上がってくる。
――洞窟まで必死に運んでくれたアレスの翼を、飢餓状態だった自分が引きちぎって食べたのではないか
ルーカスはその場面を想像し、あまりの悲惨さに吐き気を催した。片手を口に当て目をつぶり上を向く。
違うと言い切りたいのに、否定できるものは何もない。むしろ違和感のあった場所の説明がついてしまう。今まで食べたことがないと思っていた鳥人族の翼の味を知っていたことの説明もつく。
きっと、無意識に食料を求めて、襲いかかったに違いない。逃げるアレスをこの鋭い爪で押さえつけ、1つしかなかったあの綺麗な翼を無残にも引きちぎったのだろう。
アレスの悲痛な叫び声が聞こえるようだ。
そのまま、食べたのだろうか。泣き叫ぶアレスの目の前で彼の翼を――
ルーカスは耐え切れずに家を飛び出した。全力で走り、村の門から外に出てあの洞窟まで駆ける。
洞窟の中に入ると、当時のことをより思い出す。ルーカスが目覚めた時、アレスは喜んで泣いてくれていた。『目を覚ましてくれて良かった』と言ってくれたが、果たしてあれは本当に眠っていたルーカスが目を覚まして良かったという意味だったのだろうか。
もしかして意識のないまま襲ってきたルーカスの目が覚めたことによって、もう襲われることはない、食べられることはないという安堵の涙だったのではないか。
何か否定するものが欲しくて、動いていないと発狂しそうで、ルーカスは必死にあてもなく何かを探し続けた。
洞窟の奥まで来た時、ルーカスはそれを見つけてしまった――
端のほうに落ちていた黒い羽だ。よく見ないと分からない場所にそれはあった。
ルーカスは震えながらもそれを手に取り、洞窟の外へと出た。その黒い羽は、太陽にかざすと角度によっては青く光って見える。見たことのある羽だ。
――アレスの羽が洞窟に落ちていた。それも奥のほうに1枚だけ
否定するものが欲しいのに、肯定するものが見つかってしまった。
アレスの翼はこの洞窟にいたときにはまだ背中にあったんだ――
ルーカスは動くことができずに、羽を持ったまま日が暮れるまでその場で立ち尽くしていた。
診療所にアレスの怪我の具合について相談に行った時、先生は『無理な力で引っ張られたように傷口が裂さけてしまっている』と言っていた。それを聞いた時に少しだけ違和感があった。
アレスの翼がなくなったのは崖から飛び降りて、川を流された後にルーカスが目覚めるまでの間のことだ。川の激流にのまれた際に、当たりどころが悪くなくなってしまったと思っていたが、それならば傷口が裂けているのはおかしいのではないか。どこかに翼が引っかかって裂けてしまったのだろうか。確かに川の流れは速かったが、翼はそんな簡単に引っ張られてなくなってしまうものなのだろうか――
もちろん、岩にぶつかった後、どこかに引っかかって根元から裂けてしまったなどの場合もあるだろうが、ルーカスは何かが引っかかり、考えるのを止められない。
ルーカスが目を覚ました時、アレスの翼は既になく、歩くのもフラフラの状態だった。そんな状態でルーカスを洞窟まで運べるのだろうか。
それに、あの時はアレスの怪我に動揺して気にしていなかったが、かなりの飢餓状態で気を失っていたにも関わらず、目が覚めた時にはそこまで空腹を感じなかった。逆に、力が漲ってさえいた。明らかにおかしい。
無理な力で引っ張られたアレスの翼。
歩くのさえフラフラな状態だったアレス。
それに、ルーカスの空腹がなくなったこと。
それらを総合すると、最悪なストーリーが浮かび上がってくる。
――洞窟まで必死に運んでくれたアレスの翼を、飢餓状態だった自分が引きちぎって食べたのではないか
ルーカスはその場面を想像し、あまりの悲惨さに吐き気を催した。片手を口に当て目をつぶり上を向く。
違うと言い切りたいのに、否定できるものは何もない。むしろ違和感のあった場所の説明がついてしまう。今まで食べたことがないと思っていた鳥人族の翼の味を知っていたことの説明もつく。
きっと、無意識に食料を求めて、襲いかかったに違いない。逃げるアレスをこの鋭い爪で押さえつけ、1つしかなかったあの綺麗な翼を無残にも引きちぎったのだろう。
アレスの悲痛な叫び声が聞こえるようだ。
そのまま、食べたのだろうか。泣き叫ぶアレスの目の前で彼の翼を――
ルーカスは耐え切れずに家を飛び出した。全力で走り、村の門から外に出てあの洞窟まで駆ける。
洞窟の中に入ると、当時のことをより思い出す。ルーカスが目覚めた時、アレスは喜んで泣いてくれていた。『目を覚ましてくれて良かった』と言ってくれたが、果たしてあれは本当に眠っていたルーカスが目を覚まして良かったという意味だったのだろうか。
もしかして意識のないまま襲ってきたルーカスの目が覚めたことによって、もう襲われることはない、食べられることはないという安堵の涙だったのではないか。
何か否定するものが欲しくて、動いていないと発狂しそうで、ルーカスは必死にあてもなく何かを探し続けた。
洞窟の奥まで来た時、ルーカスはそれを見つけてしまった――
端のほうに落ちていた黒い羽だ。よく見ないと分からない場所にそれはあった。
ルーカスは震えながらもそれを手に取り、洞窟の外へと出た。その黒い羽は、太陽にかざすと角度によっては青く光って見える。見たことのある羽だ。
――アレスの羽が洞窟に落ちていた。それも奥のほうに1枚だけ
否定するものが欲しいのに、肯定するものが見つかってしまった。
アレスの翼はこの洞窟にいたときにはまだ背中にあったんだ――
ルーカスは動くことができずに、羽を持ったまま日が暮れるまでその場で立ち尽くしていた。
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