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34 伝える
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この村にやってきて1週間ほどが過ぎ、とうとう獣鬣犬の駆逐日になった。
駆逐に参加する者が村の入り口に集まるため、アレスは見送りに来ていた。基本的には獣族が参加しており、中には何人か人族の姿も見える。
「じゃあ、いってくるな」
「うん、気をつけてね」
「アレスも。何か異変があったらすぐに逃げるんだ」
「うん」
頭を優しく撫でた後、ルーカスは集まっている駆逐隊の元へ駆けていった。
今回の駆逐は、山付近に居座っている獣鬣犬を別の場所に移動させることが目的だが、反撃してきたら容赦なく討伐することになっている。
奴らは、別の場所から群れごと移動してきたようで、この近くの獣を狩り尽くそうとしている。遊びで狩った場合はその場に放置しているようで、獣の死体があちこちで見つかっていた。そのため、この村でとれる数が少なくなっているようだ。
一度村長であるティグリスと補佐のウルスが話し合いに行ったようだが、この村の人族全員を差し出したら考えると言われたらしく、激怒して帰ってきたのが昨日のことだ。
そのまま村中に話があり、早めに駆逐しなければ、獣も取れなくなるし村の人族が危険だということで急遽今日行くことに決まった。
出発した駆逐隊を見送って、村の門を閉じ、残っている者達で協力して大きな閂を取り付ける。
アレスは背中の怪我が完全に治りきっていないため見てるだけだったが、完治したとしても体が小柄で軽いアレスはあまり役に立たなかったかもしれない。
「よし、これでみんなが戻るのを待っておこう」
一仕事終えたと額の汗を拭いながらクニーがアレスの元へとやってきた。
「うん、そうだね」
「アレスは僕の家においで」
「え、いいよ」
「いいからいいから。ルーカスにも頼まれてるしね。ペッツァも行こう」
「ええ、そうね」
クニーに手を引かれながらアレスはクニーの家へと歩き始めた。ルーカスに頼まれていると言っていた。きっと、アレスが不安に思っていることを感じて、頼んでくれたんだろう。心配性だなと呆れる一方で、嬉しくて心がじんわりと温かくなる。
着いたのは広場から少し歩いた場所にある大きな家だ。入り口が大きく、ウルスの背に合わせて作られたことがわかる。
「さあさあ、入って」
「お邪魔します――」
他人の家に入るのは初めてだ。ドキドキと緊張しながらアレスは足を踏み入れた。
作りはアレスの住んでいる家と似ていたが、置いてある物や飾ってある物が沢山あり、賑やかな家だ。
「木の実とナッツを用意しているよ」
居間に案内され座っていると、クニーが厨から戻ってきた。大きなお椀に沢山の種類の木の実やナッツがこれでもかと盛られている。クニーはそのお椀をアレスやペッツァの前にドンと音を立てながら置いた。
「食べながらお話ししようよ」
「あら、いいわね」
ペッツァは早速前に置かれたお椀に手を伸ばし、いくつか摘んだナッツを口に入れる。
「アレスも食べて食べて」
「あ、うん。ありがとう」
ペッツァと同じように摘んだ木の実を食べる。一緒の食事を一緒に食べることができるのが嬉しい。まるで友達のようだ。
最近知ったことだが、獣狼族は木の実は食べないらしい。ルーカスは食べられないこともないとは言っていたが、それは緊急事態で他に食べるものがない場合に仕方なく食べるものなのだろう。今まで何度か渡した木の実はすべて食べてくれていたが、この村では好きな物を食べて欲しくて木の実を渡すことは控えるようにしていた。ルーカスは優しいので、アレスが渡すと食べてくれるから――
「最近、近くでは肉が取れなくなってウルスも悲しんでいたから、これでようやく逃げていた動物達も戻ってきてくれるね」
「ええ、私も狩りにいく時にいつもの場所じゃ取れなくて、困っていたのよ。やっと大きい獲物が狩れるようになるわ」
「うん、無事に終わってくれればいいけど……」
「アレスは心配しすぎだよ。みんな強いから大丈夫」
ルーカスもこの村の獣族達が強いのは分かるが、何があるか分からない。獣鬣犬族に追いかけられ、ルーカスが噛みつかれていた雪山でのことを何度も思い出してしまう。あの時の絶望も一緒に。
奴らが待ち伏せをしていて後ろから襲われたら、卑怯な手を使って攻撃を仕掛けてきたらどうしようと、悪い想像ばかりが頭に浮かんでしまう――
「そう言えば、アレスとルーカスは番じゃないんでしょ?」
「――あ、うん」
「僕、2人はお似合いだと思うな」
「私もそう思うわ。見かけるたびにアレスは抱き上げられてるしね」
クニーの話にペッツァも頷いてくる。
「いや、怪我が治るまでは、ってルーカスに言われて……番なんて」
「考えたことないの?」
「別の人に取られちゃったらどうするのよ。私なんて、ダーリンを見つけた瞬間、猛アタックしたのよ」
ルーカスが他の人に取られてしまう。それは嫌だ。このままずっと一緒に過ごしていたい。一緒にご飯を食べて、出かけて、そして同じ家に帰ってきて一緒に眠る。ルーカスには嫌な思いをして欲しくないし、楽しく過ごしてほしい。
もしかして、これが好きという感情なのかもしれない。
(オレは、ルーカスのことが好きなんだ。番になりたいという意味で)
今まで漠然と番が欲しいと思っていたけれど、違ったんだ。番が欲しいんじゃなくて、好きな人がいてその人に自分を好きになってもらってそして、一緒に幸せに暮らしていきたかったんだ――
そして、その相手はルーカスがいい。
自覚したアレスの顔はみるみる赤くなっていった。慌てて、木の実を数粒口に放り込む。
「あらあら、真っ赤じゃない」
「ふふふっ、アレスかわいい」
2人に揶揄われて、アレスの顔はますます赤くなった。
「どうしたら……」
消えそうな小さな声でアレスは呟く。ルーカスを好きなことを自覚したのはいいが、この先どうすればいいのだろうか。
「そんなの、ルーカスに愛してると伝えるのよ! そして押し倒せばいいわ」
「えー、押し倒すのは早いよ! そもそも体格からして無理でしょ。まずは伝えればいいよ」
「……伝える。断られたら――」
「いや、ないない。ぜっっっっったいに大丈夫!!」
「ええ、そんな心配はいらないわ」
「……うん」
ルーカスにこの思いを伝える。できるだろうか。
(いや、やるしかない。これから先、ルーカスとずっと一緒にいたいならやるしかないんだ)
アレスは覚悟を決めた。
駆逐に参加する者が村の入り口に集まるため、アレスは見送りに来ていた。基本的には獣族が参加しており、中には何人か人族の姿も見える。
「じゃあ、いってくるな」
「うん、気をつけてね」
「アレスも。何か異変があったらすぐに逃げるんだ」
「うん」
頭を優しく撫でた後、ルーカスは集まっている駆逐隊の元へ駆けていった。
今回の駆逐は、山付近に居座っている獣鬣犬を別の場所に移動させることが目的だが、反撃してきたら容赦なく討伐することになっている。
奴らは、別の場所から群れごと移動してきたようで、この近くの獣を狩り尽くそうとしている。遊びで狩った場合はその場に放置しているようで、獣の死体があちこちで見つかっていた。そのため、この村でとれる数が少なくなっているようだ。
一度村長であるティグリスと補佐のウルスが話し合いに行ったようだが、この村の人族全員を差し出したら考えると言われたらしく、激怒して帰ってきたのが昨日のことだ。
そのまま村中に話があり、早めに駆逐しなければ、獣も取れなくなるし村の人族が危険だということで急遽今日行くことに決まった。
出発した駆逐隊を見送って、村の門を閉じ、残っている者達で協力して大きな閂を取り付ける。
アレスは背中の怪我が完全に治りきっていないため見てるだけだったが、完治したとしても体が小柄で軽いアレスはあまり役に立たなかったかもしれない。
「よし、これでみんなが戻るのを待っておこう」
一仕事終えたと額の汗を拭いながらクニーがアレスの元へとやってきた。
「うん、そうだね」
「アレスは僕の家においで」
「え、いいよ」
「いいからいいから。ルーカスにも頼まれてるしね。ペッツァも行こう」
「ええ、そうね」
クニーに手を引かれながらアレスはクニーの家へと歩き始めた。ルーカスに頼まれていると言っていた。きっと、アレスが不安に思っていることを感じて、頼んでくれたんだろう。心配性だなと呆れる一方で、嬉しくて心がじんわりと温かくなる。
着いたのは広場から少し歩いた場所にある大きな家だ。入り口が大きく、ウルスの背に合わせて作られたことがわかる。
「さあさあ、入って」
「お邪魔します――」
他人の家に入るのは初めてだ。ドキドキと緊張しながらアレスは足を踏み入れた。
作りはアレスの住んでいる家と似ていたが、置いてある物や飾ってある物が沢山あり、賑やかな家だ。
「木の実とナッツを用意しているよ」
居間に案内され座っていると、クニーが厨から戻ってきた。大きなお椀に沢山の種類の木の実やナッツがこれでもかと盛られている。クニーはそのお椀をアレスやペッツァの前にドンと音を立てながら置いた。
「食べながらお話ししようよ」
「あら、いいわね」
ペッツァは早速前に置かれたお椀に手を伸ばし、いくつか摘んだナッツを口に入れる。
「アレスも食べて食べて」
「あ、うん。ありがとう」
ペッツァと同じように摘んだ木の実を食べる。一緒の食事を一緒に食べることができるのが嬉しい。まるで友達のようだ。
最近知ったことだが、獣狼族は木の実は食べないらしい。ルーカスは食べられないこともないとは言っていたが、それは緊急事態で他に食べるものがない場合に仕方なく食べるものなのだろう。今まで何度か渡した木の実はすべて食べてくれていたが、この村では好きな物を食べて欲しくて木の実を渡すことは控えるようにしていた。ルーカスは優しいので、アレスが渡すと食べてくれるから――
「最近、近くでは肉が取れなくなってウルスも悲しんでいたから、これでようやく逃げていた動物達も戻ってきてくれるね」
「ええ、私も狩りにいく時にいつもの場所じゃ取れなくて、困っていたのよ。やっと大きい獲物が狩れるようになるわ」
「うん、無事に終わってくれればいいけど……」
「アレスは心配しすぎだよ。みんな強いから大丈夫」
ルーカスもこの村の獣族達が強いのは分かるが、何があるか分からない。獣鬣犬族に追いかけられ、ルーカスが噛みつかれていた雪山でのことを何度も思い出してしまう。あの時の絶望も一緒に。
奴らが待ち伏せをしていて後ろから襲われたら、卑怯な手を使って攻撃を仕掛けてきたらどうしようと、悪い想像ばかりが頭に浮かんでしまう――
「そう言えば、アレスとルーカスは番じゃないんでしょ?」
「――あ、うん」
「僕、2人はお似合いだと思うな」
「私もそう思うわ。見かけるたびにアレスは抱き上げられてるしね」
クニーの話にペッツァも頷いてくる。
「いや、怪我が治るまでは、ってルーカスに言われて……番なんて」
「考えたことないの?」
「別の人に取られちゃったらどうするのよ。私なんて、ダーリンを見つけた瞬間、猛アタックしたのよ」
ルーカスが他の人に取られてしまう。それは嫌だ。このままずっと一緒に過ごしていたい。一緒にご飯を食べて、出かけて、そして同じ家に帰ってきて一緒に眠る。ルーカスには嫌な思いをして欲しくないし、楽しく過ごしてほしい。
もしかして、これが好きという感情なのかもしれない。
(オレは、ルーカスのことが好きなんだ。番になりたいという意味で)
今まで漠然と番が欲しいと思っていたけれど、違ったんだ。番が欲しいんじゃなくて、好きな人がいてその人に自分を好きになってもらってそして、一緒に幸せに暮らしていきたかったんだ――
そして、その相手はルーカスがいい。
自覚したアレスの顔はみるみる赤くなっていった。慌てて、木の実を数粒口に放り込む。
「あらあら、真っ赤じゃない」
「ふふふっ、アレスかわいい」
2人に揶揄われて、アレスの顔はますます赤くなった。
「どうしたら……」
消えそうな小さな声でアレスは呟く。ルーカスを好きなことを自覚したのはいいが、この先どうすればいいのだろうか。
「そんなの、ルーカスに愛してると伝えるのよ! そして押し倒せばいいわ」
「えー、押し倒すのは早いよ! そもそも体格からして無理でしょ。まずは伝えればいいよ」
「……伝える。断られたら――」
「いや、ないない。ぜっっっっったいに大丈夫!!」
「ええ、そんな心配はいらないわ」
「……うん」
ルーカスにこの思いを伝える。できるだろうか。
(いや、やるしかない。これから先、ルーカスとずっと一緒にいたいならやるしかないんだ)
アレスは覚悟を決めた。
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