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33 傷跡
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ウルス達と別れた後、2人は広場を進み、他の村人たちにも会って挨拶をした。
皆、アレス達のことを聞いて知っていたようで、体を心配されたり、山の向こう側の話を聞かれたりした。
誰もアレスの翼のことは聞いてこない。鳥人族だと聞いているはずなのに、翼がないことを聞かれなかったし馬鹿にされることもなかった。もしかしたら、山を越える際に無くなってしまったことを聞いているため、アレスに言ってこないのかもしれないが、それでもいままで生きてきた鳥人族の村では考えられないことだった。
普通に挨拶をして、普通に世間話をする。アレスがどれほど嬉しいか、きっとこの村の人達は分からないに違いない。
「みんな優しいね」
「ああ、この村はいろんな種族が集まっているためか、種族内での差別がないからいいな。同じ種族だと少しでも皆と違うところがあれば、すぐに排除の対象になってしまうからな」
「うん」
アレスは首が取れるほどの勢いで頷いた。
ルーカスもアレスと同じように嬉しいのだろう。獣狼族なのに、鳥人族の肉を食べず、獲物を甚振ることもしないルーカス。鳥人族なのに片方の翼がなく、空を飛べなかったアレス。どちらとも同じ種族しかいない村の中では爪弾きにされてきた。
しかし、この村ではそんなことはない。ここでは獣族も人族も一緒に生活をし、番になっている者たちだっている。食べられることも、逃げ隠れなければならないこともない。集会所でルーカスが「アレスを食べる奴がいるか」と聞いた時には、笑われたくらいだ。もちろん、この村では翼がなくても馬鹿にされない。だって、ここには翼のない種族も大勢いるのだから――
「そろそろ診療所に行くか」
「うん」
ルーカスの歩く振動を感じながら、アレスは幸せを噛み締めた。
「こんにちは」
「おお、来たか。体調は大丈夫じゃったかい?」
「一昨日の夜に熱が出たんだけど、朝には下がってもう大丈夫です」
「そうかい、そうかい。良かったよ。それじゃあ、包帯を取り替えようかの」
「お願いします」
アレスを椅子に座らせると、ルーカスも隣の椅子に座った。じっとアレスの方を見ている。
「えっと、ルーカス。ちょっと後ろを向いていてくれないか?」
「ん? どうしてだ?」
「その、傷跡を見られたくなくて――」
「大丈夫だ」
一体何が大丈夫なのだろうか。アレスが上の服を脱ぐのを躊躇っていると、先生がルーカスの体をポンと叩いた。
「本人が嫌がってるんじゃから、辞めるんじゃ。アレスに嫌われるぞ。それでもいいのか?」
「駄目だ」
そう返事をすると、ルーカスは勢いよく立ち上がり診療所の出口へと向かっていく。
「アレス、悪かった。外で待っているから、終わったら声をかけてくれ」
「あ、うん」
そう言い残すとルーカスは診療所の外へと出て行った。
「先生、ありがとうございます」
「いいんじゃよ。それじゃあ、見ようかね」
アレスは服を脱いで背中を見せる。先生は体に巻いた包帯を解いた後、布を取って患部を確認した。
「ちっとは良くなっておるな」
「はい、痛みも最初よりないです」
薬草を塗りなおした後、同じように包帯を巻かれる。足や他の怪我にも薬草を塗り終わった後、アレスは先生にお礼を言って診療所を出た。ルーカスを外で待たせているので、自然と早足になる。
「ルーカスお待たせ」
「ああ、俺のこと嫌いになったか?」
「こんなことで嫌いになるわけないじゃん。好きだよ」
「――そうか」
好きなんて、どんな意味でも今まで言ったことのなかったアレスは、恥ずかしくなりルーカスの肩に顔を埋めて口を閉じた。ルーカスも何も話さず、いつもより早い速度で自宅までの道を歩き続ける。
日差しで雪は完全に溶けており、日中は気温も上がっている。
――短い冬はもうすぐ終わり、春がやってくるだろう
皆、アレス達のことを聞いて知っていたようで、体を心配されたり、山の向こう側の話を聞かれたりした。
誰もアレスの翼のことは聞いてこない。鳥人族だと聞いているはずなのに、翼がないことを聞かれなかったし馬鹿にされることもなかった。もしかしたら、山を越える際に無くなってしまったことを聞いているため、アレスに言ってこないのかもしれないが、それでもいままで生きてきた鳥人族の村では考えられないことだった。
普通に挨拶をして、普通に世間話をする。アレスがどれほど嬉しいか、きっとこの村の人達は分からないに違いない。
「みんな優しいね」
「ああ、この村はいろんな種族が集まっているためか、種族内での差別がないからいいな。同じ種族だと少しでも皆と違うところがあれば、すぐに排除の対象になってしまうからな」
「うん」
アレスは首が取れるほどの勢いで頷いた。
ルーカスもアレスと同じように嬉しいのだろう。獣狼族なのに、鳥人族の肉を食べず、獲物を甚振ることもしないルーカス。鳥人族なのに片方の翼がなく、空を飛べなかったアレス。どちらとも同じ種族しかいない村の中では爪弾きにされてきた。
しかし、この村ではそんなことはない。ここでは獣族も人族も一緒に生活をし、番になっている者たちだっている。食べられることも、逃げ隠れなければならないこともない。集会所でルーカスが「アレスを食べる奴がいるか」と聞いた時には、笑われたくらいだ。もちろん、この村では翼がなくても馬鹿にされない。だって、ここには翼のない種族も大勢いるのだから――
「そろそろ診療所に行くか」
「うん」
ルーカスの歩く振動を感じながら、アレスは幸せを噛み締めた。
「こんにちは」
「おお、来たか。体調は大丈夫じゃったかい?」
「一昨日の夜に熱が出たんだけど、朝には下がってもう大丈夫です」
「そうかい、そうかい。良かったよ。それじゃあ、包帯を取り替えようかの」
「お願いします」
アレスを椅子に座らせると、ルーカスも隣の椅子に座った。じっとアレスの方を見ている。
「えっと、ルーカス。ちょっと後ろを向いていてくれないか?」
「ん? どうしてだ?」
「その、傷跡を見られたくなくて――」
「大丈夫だ」
一体何が大丈夫なのだろうか。アレスが上の服を脱ぐのを躊躇っていると、先生がルーカスの体をポンと叩いた。
「本人が嫌がってるんじゃから、辞めるんじゃ。アレスに嫌われるぞ。それでもいいのか?」
「駄目だ」
そう返事をすると、ルーカスは勢いよく立ち上がり診療所の出口へと向かっていく。
「アレス、悪かった。外で待っているから、終わったら声をかけてくれ」
「あ、うん」
そう言い残すとルーカスは診療所の外へと出て行った。
「先生、ありがとうございます」
「いいんじゃよ。それじゃあ、見ようかね」
アレスは服を脱いで背中を見せる。先生は体に巻いた包帯を解いた後、布を取って患部を確認した。
「ちっとは良くなっておるな」
「はい、痛みも最初よりないです」
薬草を塗りなおした後、同じように包帯を巻かれる。足や他の怪我にも薬草を塗り終わった後、アレスは先生にお礼を言って診療所を出た。ルーカスを外で待たせているので、自然と早足になる。
「ルーカスお待たせ」
「ああ、俺のこと嫌いになったか?」
「こんなことで嫌いになるわけないじゃん。好きだよ」
「――そうか」
好きなんて、どんな意味でも今まで言ったことのなかったアレスは、恥ずかしくなりルーカスの肩に顔を埋めて口を閉じた。ルーカスも何も話さず、いつもより早い速度で自宅までの道を歩き続ける。
日差しで雪は完全に溶けており、日中は気温も上がっている。
――短い冬はもうすぐ終わり、春がやってくるだろう
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