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31 熱
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食事が終わった後は、アレスが新しい服に着替えることになった。背中に負荷をかけないように慎重に服を脱いで行く。
「体を拭いてやるよ。当分湯を浴びることはできないだろうから」
「ありがとう」
暖炉の前で服を脱ぎ下ばきだけになったアレスは、ルーカスに体を拭いてもらう。お湯に浸した布で拭かれてとても温かく気持ちがいい。ルーカスが指先でそっとアレスの腕を掴み布を当てる。力を入れすぎないように真剣な顔で慎重に拭いてくれているが、逆に力が入っていなさすぎてこそばゆい。
「ふふっ、くすぐったい。もう少し強くていいよ」
「これぐらいか?」
「うん、丁度いい」
体を拭いていたルーカスの手が背中に差し掛かったところで動きが止まった。包帯で巻かれているので傷口は見えないが、気にしているのだろう。
「多分、ルーカスが思っているほど痛く無いよ」
「――ああ」
「すぐに包帯も取れて動けるようになるから、気にしなくていいよ」
「――ああ」
ルーカスから力無く返事が返ってくる。気にしないのは無理だろう。もし逆の立場だったら、もしもルーカスの牙や腕がなくなっていたとしたら絶対にアレスは気にしてしまうだろう。ルーカスのためにも自分のためにも、早く怪我を治して元気な姿を見せなければとアレスは心に誓った。
居間の奥にある寝室には、布団が大きいものと小さいもの1つずつ用意されていたが、大きい方にルーカスが横になった後にアレスは近寄って行き、ルーカスの上によいしょと乗った。
ルーカスが固まる。
「アレス、しばらくは別で寝ないと、背中に手が当たってしまったら……」
「でも、この方がよく眠れるから、早く治るかも」
「――そうか。できるだけ動かないようにしよう」
「でも、今までルーカスの体から落ちたこともないし、途中で起きたこともないよ。大丈夫じゃない?」
うつ伏せでルーカスの胸元に顔を埋める。ルーカスの力強い心臓の音が聞こえてくる。暖かな体温も感じてアレスは安心して目を瞑った。
「おやすみ、ルーカス」
「ああ、おやすみアレス」
******
夜中、アレスは熱さに目が覚めた。
「――うっ」
背中が燃えるように熱くて、冬なのに全身から汗が噴き出してくる。
熱により上手く働かない頭で、昼間診療所で熱さましの薬草を渡されたことを思い出し取りに行こうとするが、体が重くて動かない。
「――ん? アレス?」
ルーカスの体の上でごそごそと動いていたので起こしてしまったようだ。
「……る、ルーカス」
弱弱しいアレスの呼びかけに慌てて体を起こしかけたルーカスは途中で止まり、アレスの額に手を当ててきた。
「熱だ」
アレスを慎重に体から降ろしたルーカスは居間の方へと去っていき、熱さましの薬草を取ってきた。うつ伏せになっていたアレスの体を背中の怪我に注意して仰向けにして抱き寄せたルーカスは、すりつぶして水と混ぜたものをスプーンに乗せてアレスの口元へと持ってくる。
「ほら、薬草だ」
「……んっ」
アレスが口を開けると、スプーンが入ってきて薬草の苦みが口の中に広がった。苦みに顔をしかめながらも何とか飲み込む。
汗をかいた額や首筋も水でぬらして絞った布で拭かれた。
「辛そうだな……アレスの布団を敷いてくるな」
そう言ってアレスを布団に降ろそうとしたルーカスを、アレスは腕をつかみ止めた。
「――やだ。ルーカスの上がいい」
「いや、だが――」
ルーカスは少し迷った様子を見せたが、最終的には折れてくれて、アレスを抱いたまま横になった。
背中の痛みも熱さも消えていないが、ルーカスの体にくっついて鼓動を聞いていると安心できる。アレスはルーカスの銀の毛を握りしめながら、荒く熱い息を吐いた。
ルーカスがアレスの額に手をあて熱を確かめながら、定期的に布で汗を拭いてくれる。こんなに献身的に看病されたのは初めてだ。アレスはルーカスの気配を感じながら目を閉じた。
「体を拭いてやるよ。当分湯を浴びることはできないだろうから」
「ありがとう」
暖炉の前で服を脱ぎ下ばきだけになったアレスは、ルーカスに体を拭いてもらう。お湯に浸した布で拭かれてとても温かく気持ちがいい。ルーカスが指先でそっとアレスの腕を掴み布を当てる。力を入れすぎないように真剣な顔で慎重に拭いてくれているが、逆に力が入っていなさすぎてこそばゆい。
「ふふっ、くすぐったい。もう少し強くていいよ」
「これぐらいか?」
「うん、丁度いい」
体を拭いていたルーカスの手が背中に差し掛かったところで動きが止まった。包帯で巻かれているので傷口は見えないが、気にしているのだろう。
「多分、ルーカスが思っているほど痛く無いよ」
「――ああ」
「すぐに包帯も取れて動けるようになるから、気にしなくていいよ」
「――ああ」
ルーカスから力無く返事が返ってくる。気にしないのは無理だろう。もし逆の立場だったら、もしもルーカスの牙や腕がなくなっていたとしたら絶対にアレスは気にしてしまうだろう。ルーカスのためにも自分のためにも、早く怪我を治して元気な姿を見せなければとアレスは心に誓った。
居間の奥にある寝室には、布団が大きいものと小さいもの1つずつ用意されていたが、大きい方にルーカスが横になった後にアレスは近寄って行き、ルーカスの上によいしょと乗った。
ルーカスが固まる。
「アレス、しばらくは別で寝ないと、背中に手が当たってしまったら……」
「でも、この方がよく眠れるから、早く治るかも」
「――そうか。できるだけ動かないようにしよう」
「でも、今までルーカスの体から落ちたこともないし、途中で起きたこともないよ。大丈夫じゃない?」
うつ伏せでルーカスの胸元に顔を埋める。ルーカスの力強い心臓の音が聞こえてくる。暖かな体温も感じてアレスは安心して目を瞑った。
「おやすみ、ルーカス」
「ああ、おやすみアレス」
******
夜中、アレスは熱さに目が覚めた。
「――うっ」
背中が燃えるように熱くて、冬なのに全身から汗が噴き出してくる。
熱により上手く働かない頭で、昼間診療所で熱さましの薬草を渡されたことを思い出し取りに行こうとするが、体が重くて動かない。
「――ん? アレス?」
ルーカスの体の上でごそごそと動いていたので起こしてしまったようだ。
「……る、ルーカス」
弱弱しいアレスの呼びかけに慌てて体を起こしかけたルーカスは途中で止まり、アレスの額に手を当ててきた。
「熱だ」
アレスを慎重に体から降ろしたルーカスは居間の方へと去っていき、熱さましの薬草を取ってきた。うつ伏せになっていたアレスの体を背中の怪我に注意して仰向けにして抱き寄せたルーカスは、すりつぶして水と混ぜたものをスプーンに乗せてアレスの口元へと持ってくる。
「ほら、薬草だ」
「……んっ」
アレスが口を開けると、スプーンが入ってきて薬草の苦みが口の中に広がった。苦みに顔をしかめながらも何とか飲み込む。
汗をかいた額や首筋も水でぬらして絞った布で拭かれた。
「辛そうだな……アレスの布団を敷いてくるな」
そう言ってアレスを布団に降ろそうとしたルーカスを、アレスは腕をつかみ止めた。
「――やだ。ルーカスの上がいい」
「いや、だが――」
ルーカスは少し迷った様子を見せたが、最終的には折れてくれて、アレスを抱いたまま横になった。
背中の痛みも熱さも消えていないが、ルーカスの体にくっついて鼓動を聞いていると安心できる。アレスはルーカスの銀の毛を握りしめながら、荒く熱い息を吐いた。
ルーカスがアレスの額に手をあて熱を確かめながら、定期的に布で汗を拭いてくれる。こんなに献身的に看病されたのは初めてだ。アレスはルーカスの気配を感じながら目を閉じた。
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