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30 新しい家
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ポカンと口を空けていた3人は次の瞬間笑い始めた。
「食べるなんて、そんな奴いるわけ無いでしょ」
「なんだ、君たちも番で他の奴に手を出されないか心配してんのか?」
「ああ、そういうこと? 確かにアレスは小さくて美人だからな」
今度はアレス達がポカンと口を空ける番だった。
「い、いや、俺たちは番ではなくて……」
「そ、そうです」
ルーカスの否定にアレスも慌てて頷く。どうやらこの村には鳥人族を食べる種族は存在しておらず、その存在も知られていないようだ。
ルーカスがニヤニヤと笑っていた3人に、真面目に返す。
「本当に食べる奴はいるんです。俺以外のガル村の獣狼族も、現に雪山で獣鬣犬達に襲われた時もアレスを非常食として認識して、置いていけと言われたんだ」
ルーカスの話を聞いているうちに、3人の顔が真剣なものへと変わっていった。
「本当に? 食べちゃうの?」
クニーは震えながら、隣のウルスにしがみついた。ウルスはそんなクニーを抱きしめる。
「種族によるかもしれないが、兎人族は多分……」
「そんな……」
ルーカスの返答にクニーは顔を曇らせた。
「そうなのか、まずいな。今まで被害はなかったから楽観視していたが、獣鬣犬は早めにこの近くから追い払わないと」
「ああ。近々、駆逐隊を募って追い払いに行くか」
「そうだな」
「――俺も行きます」
ルーカスがアレスの翼のなくなった背中を見つめながら力強く言った。
「ああ、頼む。急いで村の外に出る時は警戒するように知らせを出そう。門の内側にも書いた札を立てておいてくれ」
「分かった」
ティグリスの話にウルスが頷いていると、集会所の入り口で音がなり、誰かが入ってきた。
「準備できましたよ」
そう言って近づいてきたのは、診療所まで案内してくれた人族の女だった。
「ミレーヌか、丁度よかった。ルーカスとアレスはこの村には住むってことでいいんだよな?」
「ああ、よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
ティグリスの言葉に、2人揃って頭を下げる。
「空き家があるからそこを使ってくれ。2人は一緒の家でいいか?」
アレスは「はい」と返事をしながら、ルーカスを見る。ルーカスも一緒に頷いていた。
「家に服と食料を届けてもらったから、村に慣れるまでの間はそれで生活できるだろう。場所はミレーヌに案内してもらえ」
「ありがとうございます」
お礼を言った2人は集会所を出てミレーヌの後について行った。
「私、まだ自己紹介してなかったわよね、ごめんなさいね。犬人族のミレーヌよ。よろしくね」
「よろしくお願いします。オレはアレスで、こっちがルーカスです。すぐに診療所に連れて行ってもらって助かりました」
「いいのよ。ビックリしちゃって慌てたわ――ああ、ここよ」
広場から伸びている小道の1つを進んで行った先に、木でできた小ぶりな家があった。
「気に入らなければ改築とかもしていいらしいわ。それじゃ私はこれで」
手を振って小道を戻って行くミレーヌにお礼を言って、2人は家の中に入って行った。
入り口はルーカスには少し小さく、屈まなければ入れなかったが中は思ったよりも広かった。入ってすぐの場所には厨があり、横には大きな水瓶も設置してある。
その奥は少し床が高くなっており、ひと部屋分のスペースがある。暖炉や低い机があり、居間のようだ。机の傍らには服や食料が山になり置かれている。居間の奥には扉があり、開いた扉の先には布団が見える。あちらは寝室のようだ。
早速暖炉に火をつけようと思いルーカスの腕から降りようとしたアレスは、止められてしまった。
「俺がやるから、アレスはしばらく安静にしていてくれ。足の裏も怪我しているんだろ?」
「そんなに痛く無いよ」
「駄目だ」
真剣な顔で制止され暖炉の側に降ろされたので、アレスはルーカスの言葉に甘えてじっとしておく。
ルーカスがボロボロの服を脱ぎ捨てて、新しく用意された服を着ているのを見たアレスは気づいたことがあった。ルーカスの毛は艶がなくなりパサパサになっているし、体も少し小さくなってしまっているように見える。
アレスの翼片方だけでは、完全に回復できなかったのだろう。置いてもらっている食料の中には大きめの肉の塊もあった。早くルーカスに食べて元に戻って欲しくて、アレスはルーカスに声をかけた。
「ねえねえ、お腹減ってない? ご飯にしようよ」
着替え終わったルーカスへとそう声をかけると、「そうだな」と返事をしたルーカスがいくつかの肉の塊と果実を持って近づいてきた。
「部屋がもう少し温まったらアレスも着替えよう」
「うん」
隣に座ったルーカスから果実を受けとり口に運ぶ。横を見るとルーカスも大きな口で肉を頬張っているのが見えたので、アレスはホッとした。
「こんな家に住めるなんて、この村に来てよかったね」
「ああ、そうだな」
ルーカスと一緒の村に住みたいと思っていた夢がこんな形で叶うなんて。しかも同じ村というだけではなく、同じ家に住んでいる。
――まるで番のようだ
集会所で番同士だと勘違いされたことで、変なことを考えてしまいアレスは慌てて頭を振った。
「どうした? どこか痛いとこでもあるのか?」
「え、ううん、違う。大丈夫」
「食べるなんて、そんな奴いるわけ無いでしょ」
「なんだ、君たちも番で他の奴に手を出されないか心配してんのか?」
「ああ、そういうこと? 確かにアレスは小さくて美人だからな」
今度はアレス達がポカンと口を空ける番だった。
「い、いや、俺たちは番ではなくて……」
「そ、そうです」
ルーカスの否定にアレスも慌てて頷く。どうやらこの村には鳥人族を食べる種族は存在しておらず、その存在も知られていないようだ。
ルーカスがニヤニヤと笑っていた3人に、真面目に返す。
「本当に食べる奴はいるんです。俺以外のガル村の獣狼族も、現に雪山で獣鬣犬達に襲われた時もアレスを非常食として認識して、置いていけと言われたんだ」
ルーカスの話を聞いているうちに、3人の顔が真剣なものへと変わっていった。
「本当に? 食べちゃうの?」
クニーは震えながら、隣のウルスにしがみついた。ウルスはそんなクニーを抱きしめる。
「種族によるかもしれないが、兎人族は多分……」
「そんな……」
ルーカスの返答にクニーは顔を曇らせた。
「そうなのか、まずいな。今まで被害はなかったから楽観視していたが、獣鬣犬は早めにこの近くから追い払わないと」
「ああ。近々、駆逐隊を募って追い払いに行くか」
「そうだな」
「――俺も行きます」
ルーカスがアレスの翼のなくなった背中を見つめながら力強く言った。
「ああ、頼む。急いで村の外に出る時は警戒するように知らせを出そう。門の内側にも書いた札を立てておいてくれ」
「分かった」
ティグリスの話にウルスが頷いていると、集会所の入り口で音がなり、誰かが入ってきた。
「準備できましたよ」
そう言って近づいてきたのは、診療所まで案内してくれた人族の女だった。
「ミレーヌか、丁度よかった。ルーカスとアレスはこの村には住むってことでいいんだよな?」
「ああ、よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
ティグリスの言葉に、2人揃って頭を下げる。
「空き家があるからそこを使ってくれ。2人は一緒の家でいいか?」
アレスは「はい」と返事をしながら、ルーカスを見る。ルーカスも一緒に頷いていた。
「家に服と食料を届けてもらったから、村に慣れるまでの間はそれで生活できるだろう。場所はミレーヌに案内してもらえ」
「ありがとうございます」
お礼を言った2人は集会所を出てミレーヌの後について行った。
「私、まだ自己紹介してなかったわよね、ごめんなさいね。犬人族のミレーヌよ。よろしくね」
「よろしくお願いします。オレはアレスで、こっちがルーカスです。すぐに診療所に連れて行ってもらって助かりました」
「いいのよ。ビックリしちゃって慌てたわ――ああ、ここよ」
広場から伸びている小道の1つを進んで行った先に、木でできた小ぶりな家があった。
「気に入らなければ改築とかもしていいらしいわ。それじゃ私はこれで」
手を振って小道を戻って行くミレーヌにお礼を言って、2人は家の中に入って行った。
入り口はルーカスには少し小さく、屈まなければ入れなかったが中は思ったよりも広かった。入ってすぐの場所には厨があり、横には大きな水瓶も設置してある。
その奥は少し床が高くなっており、ひと部屋分のスペースがある。暖炉や低い机があり、居間のようだ。机の傍らには服や食料が山になり置かれている。居間の奥には扉があり、開いた扉の先には布団が見える。あちらは寝室のようだ。
早速暖炉に火をつけようと思いルーカスの腕から降りようとしたアレスは、止められてしまった。
「俺がやるから、アレスはしばらく安静にしていてくれ。足の裏も怪我しているんだろ?」
「そんなに痛く無いよ」
「駄目だ」
真剣な顔で制止され暖炉の側に降ろされたので、アレスはルーカスの言葉に甘えてじっとしておく。
ルーカスがボロボロの服を脱ぎ捨てて、新しく用意された服を着ているのを見たアレスは気づいたことがあった。ルーカスの毛は艶がなくなりパサパサになっているし、体も少し小さくなってしまっているように見える。
アレスの翼片方だけでは、完全に回復できなかったのだろう。置いてもらっている食料の中には大きめの肉の塊もあった。早くルーカスに食べて元に戻って欲しくて、アレスはルーカスに声をかけた。
「ねえねえ、お腹減ってない? ご飯にしようよ」
着替え終わったルーカスへとそう声をかけると、「そうだな」と返事をしたルーカスがいくつかの肉の塊と果実を持って近づいてきた。
「部屋がもう少し温まったらアレスも着替えよう」
「うん」
隣に座ったルーカスから果実を受けとり口に運ぶ。横を見るとルーカスも大きな口で肉を頬張っているのが見えたので、アレスはホッとした。
「こんな家に住めるなんて、この村に来てよかったね」
「ああ、そうだな」
ルーカスと一緒の村に住みたいと思っていた夢がこんな形で叶うなんて。しかも同じ村というだけではなく、同じ家に住んでいる。
――まるで番のようだ
集会所で番同士だと勘違いされたことで、変なことを考えてしまいアレスは慌てて頭を振った。
「どうした? どこか痛いとこでもあるのか?」
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