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13 絶望
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壊されて倒壊しかかっている自宅で眠るようになって、数日が経った。
今のところ、彼らがまたやって来ることは無かったが、外で物音がするたびにビクついてしまう。
前は自宅では安心して、森では緊張していたのに、今では逆に森で安心して、自宅で緊張してしまっている。あんなに森で歩くのが怖かったのに、今では森に行きルーカスに会えることが楽しみになっていた。
今日もそろそろ森へ向かおうかと思ったタイミングで、召集がかかった。広場で鳴らされる鐘の音が村中に響き渡る。
緊急用の音ではないので、何か大切な話があるのだろう。最近は寒くなって更に食料が取れなくなっており、山の方は森よりも酷いとルーカスに聞いたことがあった。もしかしたら、植物が枯れる原因が分かったのかもしれないとアレスは急いで広場へと走って向かった。
広場には前回の招集の時と同じように、村の皆が集まっていた。
アレスと同じことを考えている者もいるようで、何か分かったんじゃないかと明るく話している声も聞こえる。
長が広場の端の方にある高くなっている場所へと降り立ち、話を始めた。
「ここ最近、さらに植物は枯れていっておる。原因の解明もできておらぬ。これから本格的な冬もやってきて益々食べるものに困るじゃろう。ここで待っていてもよくなることはないだろうと判断したため、村ごと移動するぞ」
あたりがザワザワとし始めた。原因も分からず、このままここにいては食料が尽きてしまう。その前に皆で移動するのだ。
「東側の山を越える。山の反対側では植物も枯れておらぬそうじゃ。越えた先で新たに村を作り住むことにする。大雪が降る前に山を越えるため、出発は2週間後じゃ。各自装備と荷造りを行うこと。春になれば荷物を取りに一度戻ってきても良いから、早めに山を越え今後に備えて食糧の確保を急ぐぞ。まだ飛ぶ練習中の幼児たちは早めに飛べるように練習を。その前の赤子達は抱えて飛んでいくこととする。以上だ」
広場に集まっていた者たちは返事をして、準備をするために一斉に帰っていった。
アレスは急いで長の元へと駆け寄る。
「すみません、オレは、オレはどうすればいいですか」
アレスは飛べない。山を越えることができないのだ。誰かに抱えて飛んでもらえるほど小さくもない。
焦った様子で近寄ってきたアレスを、長は冷たい目で一瞥した。
「アレス、お前食料を盗んだらしいな」
「え、違います。あれは森で取ったもので――」
「なら、ずっと森にいるといい」
「……」
「それか、歩いて山を越えて来るかどちらかだ。飛べない盗人に手をかす余裕は今の我々にはない」
アレスは力無くその場に座り込んだ。
――飛べないアレスは鳥人族に見捨てられたのだ
アレスは重たい体を引きずるようにして自宅へ戻り、布団に倒れ込み、毛布に包まった。片方しかない翼で自分の体を包み込む。
無性にルーカスに会いたかった。会って相談したかった。
だが、次の日、アレスは森へ行ったがルーカスには会うことができなかった。
その次の日も次の日も――
獣狼族も忙しいのかもしれない。もうすぐ本格的な冬がやって来るのに食料がうまく集まらないのはどちらの村も同じだ。
アレスだって何も考えていないわけじゃ無かった。奪われてしまったが、冬に向けて少しの食料は貯めていた。ただ、鳥人族の村にいるから、周りに皆がいるから、どこか楽観的に考えてしまっていたのだろう。どうにかなるだろうと。
アレスは、皆が飛び立っていった後、1人で冬を越さなければならない。商人も1人しかいない場所には当然やってこないだろう。
******
次の日、アレスはあきらめきれず、東の山へと行ってみることにした。今まで東の山へは行ったことがなかったため、もしかすると歩いて山を越えることができるかもしれないと考えたからだ。
朝早くから自宅を出発し、昼頃には山の麓へ到着した。
山はとても高く、頂は遥か上だ。山の上の方は白くなっており、雪が降り始めているのが分かる。歩いていく場合は、皆よりも更に早く出発しなければ雪によって山の中に閉じ込められてしまうだろう。
アレスは登っていくことができる場所がないか探すことにした。
岩があちこちにあり全く整備されておらず、道とは言えない場所を上を目指して歩いていく。途中、岩をよじ登らなければ進めない場所もあったが、手足を必死に動かし何とか越えて行った。
もしかしたら、長は本当にアレスが歩いて山を越えることができると思って、言ったのかもしれない。このまま進んでいけそうだ。そうアレスが思いながら坂を登り切った時、それは突然目の前に現れた。
――深い深い渓谷
下を覗いて見るが、あまりにも深い。近寄ったアレスの足元の石が音を立てて崖下へと落ちていく。アレスは慌てて後ろに下がった。左右を確認しても遥か彼方まで続いており、途中で向こう側へ渡ることのできる場所はありそうもない。向こう側へ渡るには飛んでいくしかないのだ。この切り立った険しい断崖を降りて、更に反対側をよじ登ることもアレスには不可能だ。
もう諦めるしかなかった。東の山を越えることはアレスにはできない。
自宅へ戻れたのは、日が落ちて暫くしてからだった。
気落ちしながら帰り道を進んでいたが、このままでは日が落ちてしまう前に自宅へ辿り着かないかもしれないと焦り、途中から走ってきた。真っ暗になってしまう前にはなんとか帰ってこれたが、息は切れ、足は震えて疲労を訴えていた。
慣れない道を進み、岩を越えて、最後は走って帰ってきたためヘトヘトだ。飛ぶことができなければ東の山を越えることができないという現実を突きつけられ、精神的にも疲れていた。
何もする気になれず、アレスはそのまま眠った。
翌日は、全身の疲労が残っており、ベッドから降りるのがやっとだった。
山へ行く前日に森へ隠していた食料を少しだけ取ってきていたので、それで何とかしのぐ。
明日は森へ行って食料を探さなければならない。山を越えることができないとなると、冬の間の食料を集めておかなければならないからだ。
できればルーカスにも会いたい、そう思いながらアレスは眠りについた。
森へ入っても、食料はあまり取れなかった。見つけたのは、落ちて腐りかけていた木の実を数個と薬草が少しだ。大岩の下で日が落ちるギリギリまで待っていたが、ルーカスが来ることは無かった。
今のところ、彼らがまたやって来ることは無かったが、外で物音がするたびにビクついてしまう。
前は自宅では安心して、森では緊張していたのに、今では逆に森で安心して、自宅で緊張してしまっている。あんなに森で歩くのが怖かったのに、今では森に行きルーカスに会えることが楽しみになっていた。
今日もそろそろ森へ向かおうかと思ったタイミングで、召集がかかった。広場で鳴らされる鐘の音が村中に響き渡る。
緊急用の音ではないので、何か大切な話があるのだろう。最近は寒くなって更に食料が取れなくなっており、山の方は森よりも酷いとルーカスに聞いたことがあった。もしかしたら、植物が枯れる原因が分かったのかもしれないとアレスは急いで広場へと走って向かった。
広場には前回の招集の時と同じように、村の皆が集まっていた。
アレスと同じことを考えている者もいるようで、何か分かったんじゃないかと明るく話している声も聞こえる。
長が広場の端の方にある高くなっている場所へと降り立ち、話を始めた。
「ここ最近、さらに植物は枯れていっておる。原因の解明もできておらぬ。これから本格的な冬もやってきて益々食べるものに困るじゃろう。ここで待っていてもよくなることはないだろうと判断したため、村ごと移動するぞ」
あたりがザワザワとし始めた。原因も分からず、このままここにいては食料が尽きてしまう。その前に皆で移動するのだ。
「東側の山を越える。山の反対側では植物も枯れておらぬそうじゃ。越えた先で新たに村を作り住むことにする。大雪が降る前に山を越えるため、出発は2週間後じゃ。各自装備と荷造りを行うこと。春になれば荷物を取りに一度戻ってきても良いから、早めに山を越え今後に備えて食糧の確保を急ぐぞ。まだ飛ぶ練習中の幼児たちは早めに飛べるように練習を。その前の赤子達は抱えて飛んでいくこととする。以上だ」
広場に集まっていた者たちは返事をして、準備をするために一斉に帰っていった。
アレスは急いで長の元へと駆け寄る。
「すみません、オレは、オレはどうすればいいですか」
アレスは飛べない。山を越えることができないのだ。誰かに抱えて飛んでもらえるほど小さくもない。
焦った様子で近寄ってきたアレスを、長は冷たい目で一瞥した。
「アレス、お前食料を盗んだらしいな」
「え、違います。あれは森で取ったもので――」
「なら、ずっと森にいるといい」
「……」
「それか、歩いて山を越えて来るかどちらかだ。飛べない盗人に手をかす余裕は今の我々にはない」
アレスは力無くその場に座り込んだ。
――飛べないアレスは鳥人族に見捨てられたのだ
アレスは重たい体を引きずるようにして自宅へ戻り、布団に倒れ込み、毛布に包まった。片方しかない翼で自分の体を包み込む。
無性にルーカスに会いたかった。会って相談したかった。
だが、次の日、アレスは森へ行ったがルーカスには会うことができなかった。
その次の日も次の日も――
獣狼族も忙しいのかもしれない。もうすぐ本格的な冬がやって来るのに食料がうまく集まらないのはどちらの村も同じだ。
アレスだって何も考えていないわけじゃ無かった。奪われてしまったが、冬に向けて少しの食料は貯めていた。ただ、鳥人族の村にいるから、周りに皆がいるから、どこか楽観的に考えてしまっていたのだろう。どうにかなるだろうと。
アレスは、皆が飛び立っていった後、1人で冬を越さなければならない。商人も1人しかいない場所には当然やってこないだろう。
******
次の日、アレスはあきらめきれず、東の山へと行ってみることにした。今まで東の山へは行ったことがなかったため、もしかすると歩いて山を越えることができるかもしれないと考えたからだ。
朝早くから自宅を出発し、昼頃には山の麓へ到着した。
山はとても高く、頂は遥か上だ。山の上の方は白くなっており、雪が降り始めているのが分かる。歩いていく場合は、皆よりも更に早く出発しなければ雪によって山の中に閉じ込められてしまうだろう。
アレスは登っていくことができる場所がないか探すことにした。
岩があちこちにあり全く整備されておらず、道とは言えない場所を上を目指して歩いていく。途中、岩をよじ登らなければ進めない場所もあったが、手足を必死に動かし何とか越えて行った。
もしかしたら、長は本当にアレスが歩いて山を越えることができると思って、言ったのかもしれない。このまま進んでいけそうだ。そうアレスが思いながら坂を登り切った時、それは突然目の前に現れた。
――深い深い渓谷
下を覗いて見るが、あまりにも深い。近寄ったアレスの足元の石が音を立てて崖下へと落ちていく。アレスは慌てて後ろに下がった。左右を確認しても遥か彼方まで続いており、途中で向こう側へ渡ることのできる場所はありそうもない。向こう側へ渡るには飛んでいくしかないのだ。この切り立った険しい断崖を降りて、更に反対側をよじ登ることもアレスには不可能だ。
もう諦めるしかなかった。東の山を越えることはアレスにはできない。
自宅へ戻れたのは、日が落ちて暫くしてからだった。
気落ちしながら帰り道を進んでいたが、このままでは日が落ちてしまう前に自宅へ辿り着かないかもしれないと焦り、途中から走ってきた。真っ暗になってしまう前にはなんとか帰ってこれたが、息は切れ、足は震えて疲労を訴えていた。
慣れない道を進み、岩を越えて、最後は走って帰ってきたためヘトヘトだ。飛ぶことができなければ東の山を越えることができないという現実を突きつけられ、精神的にも疲れていた。
何もする気になれず、アレスはそのまま眠った。
翌日は、全身の疲労が残っており、ベッドから降りるのがやっとだった。
山へ行く前日に森へ隠していた食料を少しだけ取ってきていたので、それで何とかしのぐ。
明日は森へ行って食料を探さなければならない。山を越えることができないとなると、冬の間の食料を集めておかなければならないからだ。
できればルーカスにも会いたい、そう思いながらアレスは眠りについた。
森へ入っても、食料はあまり取れなかった。見つけたのは、落ちて腐りかけていた木の実を数個と薬草が少しだ。大岩の下で日が落ちるギリギリまで待っていたが、ルーカスが来ることは無かった。
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