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11 木の実
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「ルーカス!」
「アレス」
あの日から、2人は数日おきに会い続けている。
初めて会ったときは暑かったが、最近では気温も段々と下がり始め、朝方は肌寒く感じるほどだ。いつもより厚着をしたアレスはルーカスの銀色の毛を見つけて駆け寄った。
「この薬草は獣族が使う物らしいんだけど、足りてる?」
アレスは持ってきていた薬草を腰籠から取り出した。
「ああ、これも足りなかったんだ。ありがとう。よく知ってるな」
「獣狸族の商人に教えてもらったんだ」
「ああ、アイツか」
「知っているの?」
村に定期的に来てくれる商人に聞いたことを伝えると、ルーカスが嫌そうな顔をしたため、アレスは疑問に思った。
「獣狼族の方にも来てるんだ。多分同じ奴だろう。いつもそいつから薬草類は交換してもらっていたんだが、最近薬草の取れる量が少ないからいつもの3倍の肉の量でしか交換しないと言ってきたんだ」
「え、そうだったんだ」
「獣狸族はそういうところがあるからな。利益になると気づくと容赦がない」
「本当に少ない訳じゃないの?」
「ああ、アイツらは独自の交易ルートを持っているから、こことは別の森や山で取れたものを運んでもらうこともできるんだ。枯れているのはこの付近の森と山だけで、他の場所は何ともないからな」
確かに、交換の際に見ていた箱の中にはこの辺りでは見ないような物も沢山入っていた。あれは別の場所から持ってきていた物だったのだろう。
ただ、この場所に留まっている者達は商人の言った量で交換するしかない。アレスは最近食料を交換しに行っていなかったので分からないが、もしかしたら、鳥人族の方でも交換する量が変わっているのかもしれない。
「この先に、木の実があったからそこ行くか」
「うん、お願い」
ルーカスの後に続いて、緑から茶色に変わりつつある森の中を進む。ルーカスが一緒ならこの森は楽だ。万が一野生の獣に出会ったとしても、一撃で撃退できるだろう。獣狼族の設置した落とし穴や罠も回避できる。
森の奥へと進むと、そこには高い木が聳え立っており、見上げた先に赤い木の実がなっているのが見える。地面には殆ど実は落ちておらず、普段のアレスなら諦めて次の木を探しに行くだろう。
「揺らしてくる」
そう言ったルーカスは、1度の跳躍で高い場所にある太い木の枝に降り立ち、そこで飛び跳ねた。たくさんの赤い木の実が上からまるで雨のように降ってくる。
ルーカスが枝から飛び降りてくるのが見えると、少し離れた場所に避難していたアレスは近寄った。
「大量だね! ありがとう」
地面には沢山の木の実が落ちている。どれも今落ちたので綺麗なものばかりだ。
アレスはその場にしゃがんで木の実を拾い始める。ルーカスも一緒になって拾おうとしてくれているが、木の実は小さいためなかなか上手く拾えないようだ。
大きな体でしゃがみながら、爪先で潰さないように拾っている姿を見て、アレスは笑いを堪えながら、拾い続けた。
ある程度拾い終えると、アレスの腰籠には溢れそうなほど木の実が詰まっていた。
「これで、暫くは食べるのに困らなさそう」
「こんな量で大丈夫なのか?」
「うん」
アレスにとっては十分な量だが、ルーカスほどの体格ならすぐに食べてしまうほどの量なのだろう。
「鳥人族は――」
「ん?」
言葉が途切れたので不思議に思い見上げると、ルーカスは少し悩みながら言葉を続けた。
「失礼なことを聞いていたらすまないが、その、鳥人族は木の実以外も食べるのか? ――肉とか」
最後の方は声が小さくなっていたが、アレスの耳にはしっかりと届いていた。
「うん、食べるよ! オレたちは雑食なんだ。生肉の塊とかは食べれないけど、鶏肉を焼いて食べることもあるよ。まぁ、基本的には木の実とか果実を食べることが多いかな」
「そうなのか……鶏肉」
「あ、今、共食いだって思ったでしょ! オレたちは翼はあるけど、人に近いから!」
アレスが笑いながらそう言うと、ルーカスも笑ってくれた。
種族でみると捕食者と被食者の関係なはずなのに、こんな話をして笑っているなんて、アレスはなんだか不思議な気分だった。
******
ルーカスと別れ、アレスが自宅へと帰ると、そこには4人の鳥人族が立っていた。
「何してるの?」
声をかけると振り返ってきたが、皆一様に怖い顔をしている。アレスは警戒しながら近づく。自宅の中から音がして、中から1人出てきた。手には食べ物を持っている。アレスが貯めていたものだ。
「――え」
「貴様、食料を盗んだな」
4人がアレスに近づいてきて、腰籠へと手を伸ばしてきた。急いで後ずさり逃げようとしたが、飛べないアレスはすぐに包囲され捕まった。
腰籠を取り上げられる。奪い取られた拍子に中に入っていた赤い木の実が地面へいくつも落ちた。
「木の実だ」
「こんなに沢山」
「一体どこで盗んできた」
怒鳴られて詰められるが、一体何を言われているのか分からなかった。
「――森で取ってきました。盗んでなんかいません」
盗んだものだと勘違いされているようだが、すべて森で取ってきたものだ。
「森でこれだけのものが取れる訳ないだろう」
「なぜ、飛べもしない貴様が奴らに食われてないんだ」
「これらはすべて没収する」
どうして疑われているのだろう。そもそもアレスが食料を持っている事など誰も知らないはずだ。
「待って」
取られた物を取り返そうと向かっていったが、手を伸ばしたアレスの腹部が勢いよく蹴られた。
「――うっ」
蹲ったアレスの背中も蹴り飛ばされる。翼に痛みが走った。
「『かたよく』のくせに生意気なんだよ!」
全員で寄ってたかって蹴られ、アレスは体を丸め、耐えるしかなかった。
「アレス」
あの日から、2人は数日おきに会い続けている。
初めて会ったときは暑かったが、最近では気温も段々と下がり始め、朝方は肌寒く感じるほどだ。いつもより厚着をしたアレスはルーカスの銀色の毛を見つけて駆け寄った。
「この薬草は獣族が使う物らしいんだけど、足りてる?」
アレスは持ってきていた薬草を腰籠から取り出した。
「ああ、これも足りなかったんだ。ありがとう。よく知ってるな」
「獣狸族の商人に教えてもらったんだ」
「ああ、アイツか」
「知っているの?」
村に定期的に来てくれる商人に聞いたことを伝えると、ルーカスが嫌そうな顔をしたため、アレスは疑問に思った。
「獣狼族の方にも来てるんだ。多分同じ奴だろう。いつもそいつから薬草類は交換してもらっていたんだが、最近薬草の取れる量が少ないからいつもの3倍の肉の量でしか交換しないと言ってきたんだ」
「え、そうだったんだ」
「獣狸族はそういうところがあるからな。利益になると気づくと容赦がない」
「本当に少ない訳じゃないの?」
「ああ、アイツらは独自の交易ルートを持っているから、こことは別の森や山で取れたものを運んでもらうこともできるんだ。枯れているのはこの付近の森と山だけで、他の場所は何ともないからな」
確かに、交換の際に見ていた箱の中にはこの辺りでは見ないような物も沢山入っていた。あれは別の場所から持ってきていた物だったのだろう。
ただ、この場所に留まっている者達は商人の言った量で交換するしかない。アレスは最近食料を交換しに行っていなかったので分からないが、もしかしたら、鳥人族の方でも交換する量が変わっているのかもしれない。
「この先に、木の実があったからそこ行くか」
「うん、お願い」
ルーカスの後に続いて、緑から茶色に変わりつつある森の中を進む。ルーカスが一緒ならこの森は楽だ。万が一野生の獣に出会ったとしても、一撃で撃退できるだろう。獣狼族の設置した落とし穴や罠も回避できる。
森の奥へと進むと、そこには高い木が聳え立っており、見上げた先に赤い木の実がなっているのが見える。地面には殆ど実は落ちておらず、普段のアレスなら諦めて次の木を探しに行くだろう。
「揺らしてくる」
そう言ったルーカスは、1度の跳躍で高い場所にある太い木の枝に降り立ち、そこで飛び跳ねた。たくさんの赤い木の実が上からまるで雨のように降ってくる。
ルーカスが枝から飛び降りてくるのが見えると、少し離れた場所に避難していたアレスは近寄った。
「大量だね! ありがとう」
地面には沢山の木の実が落ちている。どれも今落ちたので綺麗なものばかりだ。
アレスはその場にしゃがんで木の実を拾い始める。ルーカスも一緒になって拾おうとしてくれているが、木の実は小さいためなかなか上手く拾えないようだ。
大きな体でしゃがみながら、爪先で潰さないように拾っている姿を見て、アレスは笑いを堪えながら、拾い続けた。
ある程度拾い終えると、アレスの腰籠には溢れそうなほど木の実が詰まっていた。
「これで、暫くは食べるのに困らなさそう」
「こんな量で大丈夫なのか?」
「うん」
アレスにとっては十分な量だが、ルーカスほどの体格ならすぐに食べてしまうほどの量なのだろう。
「鳥人族は――」
「ん?」
言葉が途切れたので不思議に思い見上げると、ルーカスは少し悩みながら言葉を続けた。
「失礼なことを聞いていたらすまないが、その、鳥人族は木の実以外も食べるのか? ――肉とか」
最後の方は声が小さくなっていたが、アレスの耳にはしっかりと届いていた。
「うん、食べるよ! オレたちは雑食なんだ。生肉の塊とかは食べれないけど、鶏肉を焼いて食べることもあるよ。まぁ、基本的には木の実とか果実を食べることが多いかな」
「そうなのか……鶏肉」
「あ、今、共食いだって思ったでしょ! オレたちは翼はあるけど、人に近いから!」
アレスが笑いながらそう言うと、ルーカスも笑ってくれた。
種族でみると捕食者と被食者の関係なはずなのに、こんな話をして笑っているなんて、アレスはなんだか不思議な気分だった。
******
ルーカスと別れ、アレスが自宅へと帰ると、そこには4人の鳥人族が立っていた。
「何してるの?」
声をかけると振り返ってきたが、皆一様に怖い顔をしている。アレスは警戒しながら近づく。自宅の中から音がして、中から1人出てきた。手には食べ物を持っている。アレスが貯めていたものだ。
「――え」
「貴様、食料を盗んだな」
4人がアレスに近づいてきて、腰籠へと手を伸ばしてきた。急いで後ずさり逃げようとしたが、飛べないアレスはすぐに包囲され捕まった。
腰籠を取り上げられる。奪い取られた拍子に中に入っていた赤い木の実が地面へいくつも落ちた。
「木の実だ」
「こんなに沢山」
「一体どこで盗んできた」
怒鳴られて詰められるが、一体何を言われているのか分からなかった。
「――森で取ってきました。盗んでなんかいません」
盗んだものだと勘違いされているようだが、すべて森で取ってきたものだ。
「森でこれだけのものが取れる訳ないだろう」
「なぜ、飛べもしない貴様が奴らに食われてないんだ」
「これらはすべて没収する」
どうして疑われているのだろう。そもそもアレスが食料を持っている事など誰も知らないはずだ。
「待って」
取られた物を取り返そうと向かっていったが、手を伸ばしたアレスの腹部が勢いよく蹴られた。
「――うっ」
蹲ったアレスの背中も蹴り飛ばされる。翼に痛みが走った。
「『かたよく』のくせに生意気なんだよ!」
全員で寄ってたかって蹴られ、アレスは体を丸め、耐えるしかなかった。
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