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06 不安
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確実に森の中は以前と比べて明るくなっている。この植物が枯れていってしまっていることと、獣狼族が泉のほうまで姿を現したのには何か関係があるのだろうか。
泉はアレスがよく薬草を取りに行く範囲からそう遠くない場所にある。綺麗な水が湧いており、森に棲んでいる動物たちもよく利用している場所だ。アレスも何度か足を運んだことがある。
泉の上には木が生い茂ってなく、そこだけ切り取られたように青空が見えている。薄暗い森の中で薬草を探し回っていた時に偶然発見した。初めてその場所を訪れた時は、あまりの美しさに感動したのを覚えている。
上空からも泉は見えていたのだろう。だからこそ、飛んでいた鳥人達はそこに降り立ち休息を取る。その隙を狙われたのだ。
泉のある方角にはどうしても行けず、アレスは反対方向へ向かって進んだ。
小さめの赤い木の実を見つけて、腰籠の中に急いで入れ込む。奴らに見つかったら逃げられない。見つからないようにするしかないのだ。鳥人族は目と耳が良い。奴らがこちらを見つける前にこちらが向こうを見つけて隠れれば大丈夫だ。アレスはそう自分に言い聞かせながら慎重に森の中を進んだ。
数日分の食料を見つけたアレスは戻ろうとしたが、丁度その時目の前に綺麗な花が咲いているのを見つけた。その白くて綺麗な花をじっと見つめたアレスは、近づいていきその花を摘んだ。
そして、手ごろな石を見繕うと大きな木の根元に石を置き、そこに摘んだ白い花を供える。そして自分の翼から黒い羽根を1枚抜き、花の隣に置く。そしてその前に膝を突き両手を合わせた。
本当は泉の傍で弔ってやりたいが、今は近づくことができない。この森に入ってくるのは今はアレスぐらいだろう。顔も知らないが、同族だ。翼をやられて飛べなくなった上で食べられるなど、どれだけ苦しかっただろうか。もちろん辺りの警戒は怠らずに、アレスは数秒間目を閉じた。
森にある草木は枯れていっている。それは疑いようのない事実だ。
アレスが森に入っても、取れる薬草や木の実、果実は確実に減ってきている。今では、村に近い浅い場所では何も取れない。
それでも、山へ行けないアレスは森へと入るしかない。ただ、山のほうでも草木は枯れていっているようだ。このあたり一帯の植物が枯れているのだ。
先日また集会があった。
今回は緊急ではなかったが、最近の状況を不審に思っている鳥人族は皆広場へと話を聞きに集まってきた。そこで言われたのが、最近この地域一帯での植物の急激な枯死が観測されていること、原因は不明だが、近いうちにこのあたりの植物はすべてなくなってしまうだろうということだった。
長が獣狸族の商人に話を聞いたところ、どうやらこの村と西の森を挟んで反対側にある獣狼族たちも食料が不足してきており、そのせいでこちら側にまで積極的に出てきているとのことだった。獣狼族は、雑食な鳥人族と違い、基本的に肉を食す種族だ。そのため、今までは森や獣狼族側にある山で狩りを行っていたようだが、そもそも植物が枯れてきてしまったことで、その植物を食べて成長するはずだった動物たちの数も減ってきてしまい、食料が足りなくなってきているようだ。
アレスは日に日に森の奥深くまで行くようになっていた。
村に近い森の浅い部分ではどんどん枯れていっている植物が、奥のほうではまだ元気に育っている。どうやら、浅いほうから徐々に進行していっているようだ。もしかしたら、山でも同じように麓から枯れていっているのかもしれない。
アレスはまだ残っていることに安堵しながら果実を取っていったが、森の深い場所にいるということは、獣狼族に近づいて行っているということだ。
奴らも浅い場所では獲物を狩れずに、奥へ奥へと進んできているだろう。出会ってしまうのも時間の問題だ。
取れるときに取っておこうと目に入る薬草や果実はすべて収穫していく。果実は干せば長期間保存できるし、薬草は自宅に保管しておけばいい。多少古くなってしまっても交換してもらえるだろう。
今日は薬草の群生地を発見したお陰で、いつもより少しだけ気分が上がっていた。それに、ここまで深い場所に来ても今まで一度も獣狼族に出会ったことはない。姿を見かけたり、足跡や爪の後を見たこともない。もしかしたら、この辺りで獲物が取れないから森とは反対側にある山の方へと行っているのではないかと、アレスが少しだけ楽観的に思っていた時にそれは起こった。
――帰り道で、突然体が下に落ちたのだ
泉はアレスがよく薬草を取りに行く範囲からそう遠くない場所にある。綺麗な水が湧いており、森に棲んでいる動物たちもよく利用している場所だ。アレスも何度か足を運んだことがある。
泉の上には木が生い茂ってなく、そこだけ切り取られたように青空が見えている。薄暗い森の中で薬草を探し回っていた時に偶然発見した。初めてその場所を訪れた時は、あまりの美しさに感動したのを覚えている。
上空からも泉は見えていたのだろう。だからこそ、飛んでいた鳥人達はそこに降り立ち休息を取る。その隙を狙われたのだ。
泉のある方角にはどうしても行けず、アレスは反対方向へ向かって進んだ。
小さめの赤い木の実を見つけて、腰籠の中に急いで入れ込む。奴らに見つかったら逃げられない。見つからないようにするしかないのだ。鳥人族は目と耳が良い。奴らがこちらを見つける前にこちらが向こうを見つけて隠れれば大丈夫だ。アレスはそう自分に言い聞かせながら慎重に森の中を進んだ。
数日分の食料を見つけたアレスは戻ろうとしたが、丁度その時目の前に綺麗な花が咲いているのを見つけた。その白くて綺麗な花をじっと見つめたアレスは、近づいていきその花を摘んだ。
そして、手ごろな石を見繕うと大きな木の根元に石を置き、そこに摘んだ白い花を供える。そして自分の翼から黒い羽根を1枚抜き、花の隣に置く。そしてその前に膝を突き両手を合わせた。
本当は泉の傍で弔ってやりたいが、今は近づくことができない。この森に入ってくるのは今はアレスぐらいだろう。顔も知らないが、同族だ。翼をやられて飛べなくなった上で食べられるなど、どれだけ苦しかっただろうか。もちろん辺りの警戒は怠らずに、アレスは数秒間目を閉じた。
森にある草木は枯れていっている。それは疑いようのない事実だ。
アレスが森に入っても、取れる薬草や木の実、果実は確実に減ってきている。今では、村に近い浅い場所では何も取れない。
それでも、山へ行けないアレスは森へと入るしかない。ただ、山のほうでも草木は枯れていっているようだ。このあたり一帯の植物が枯れているのだ。
先日また集会があった。
今回は緊急ではなかったが、最近の状況を不審に思っている鳥人族は皆広場へと話を聞きに集まってきた。そこで言われたのが、最近この地域一帯での植物の急激な枯死が観測されていること、原因は不明だが、近いうちにこのあたりの植物はすべてなくなってしまうだろうということだった。
長が獣狸族の商人に話を聞いたところ、どうやらこの村と西の森を挟んで反対側にある獣狼族たちも食料が不足してきており、そのせいでこちら側にまで積極的に出てきているとのことだった。獣狼族は、雑食な鳥人族と違い、基本的に肉を食す種族だ。そのため、今までは森や獣狼族側にある山で狩りを行っていたようだが、そもそも植物が枯れてきてしまったことで、その植物を食べて成長するはずだった動物たちの数も減ってきてしまい、食料が足りなくなってきているようだ。
アレスは日に日に森の奥深くまで行くようになっていた。
村に近い森の浅い部分ではどんどん枯れていっている植物が、奥のほうではまだ元気に育っている。どうやら、浅いほうから徐々に進行していっているようだ。もしかしたら、山でも同じように麓から枯れていっているのかもしれない。
アレスはまだ残っていることに安堵しながら果実を取っていったが、森の深い場所にいるということは、獣狼族に近づいて行っているということだ。
奴らも浅い場所では獲物を狩れずに、奥へ奥へと進んできているだろう。出会ってしまうのも時間の問題だ。
取れるときに取っておこうと目に入る薬草や果実はすべて収穫していく。果実は干せば長期間保存できるし、薬草は自宅に保管しておけばいい。多少古くなってしまっても交換してもらえるだろう。
今日は薬草の群生地を発見したお陰で、いつもより少しだけ気分が上がっていた。それに、ここまで深い場所に来ても今まで一度も獣狼族に出会ったことはない。姿を見かけたり、足跡や爪の後を見たこともない。もしかしたら、この辺りで獲物が取れないから森とは反対側にある山の方へと行っているのではないかと、アレスが少しだけ楽観的に思っていた時にそれは起こった。
――帰り道で、突然体が下に落ちたのだ
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