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03 商人
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1週間の間に集めた薬草を持って、アレスは広場へと向かう。
今日は商人が来る日だからだ。ただ、商人は1週間に1度しかトト村を訪れないため、この日は村中の者が広場に集まる。
アレスは目立つ。皆が空を飛んできている中、1人で歩いてくるし、何より片側しかない翼はどうしても目立ってしまう。村には片翼で飛べないアレスを揶揄って馬鹿にしてくる者もいれば、興味深く見てくる者もいる。そのため、アレスは村人にできるだけ会わなくて済むように、いつも商人が立ち去るギリギリの時間に行くようにしていた。
人気な物は早めに交換されてしまうので、交換できる物の種類は減ってしまうが、仕方がない。
「やあ、アレス」
「こんにちは」
広場にはいつもの獣狸族の男の商人がいた。鳥人族は、『人』という字がつく通り、見た目は人に近い。逆に獣狸族は『獣』という字のつく通り、見た目は獣に近い。
商人の男も、見た目は人ではなく狸だ。全身に濃い茶色の毛が生えている。顔も同じく茶色の毛が生えているが、目の周りの毛は黒に近い。後ろからは太い先の丸くなった尻尾が出てきている。
「おじさん、これ今週の薬草。傷に効くやつと、腹痛に効くやつ」
「おお、どれどれ」
アレスは手に持っていた薬草の入った袋を手渡した。
商人の近くでは、荷車を引いてきたであろう馬が数頭おり、水を飲んでいた。もう直ぐ出発するので、準備をしているのだろう。
商人が袋の中の薬草を確認する間、横に置いてある籠の中を順番に覗き込む。
中には商人が持ってきた品物や、この村で交換したであろう品物がいくつも入っている。
アレスはいつものように食料の入った籠を最初に覗き込んで、森では取れない種類の木の実や、鳥肉を手に取る。
続いて雑貨が入っている籠を覗いた。目ぼしい物はもう取られてしまったようで、あまり残っていない。体を拭く用の布が裂けてきていたことを思い出したアレスは、手頃な布を手に取る。そして、次の籠を覗き込んだ。
そこには幾つかの羽づくろい用の幅の広い櫛が入っていた。持ち手が黒くて艶のある櫛があるのを見て、アレスは目を止めた。そして、辺りを見渡し近くに鳥人族がいないことを確認すると、素早く櫛を手に取り、腕に抱えていた布の間に押し込んだ。
「決まったかい?」
「うん」
そこで丁度商人から声がかかったため、アレスは急いで商人の元へ戻り、腕に抱えていた品物を渡した。商人は1つずつ確認しながら帳簿に記録していく。
「よしよし、いいだろう。じゃあ、この薬草と交換だな」
「ありがとう」
例を言ったアレスは、交換したものを持ってきていた袋の中に急いでしまい込む。
「そうだ、アレスは森に行ってるんだったな」
「うん、そうだよ」
「良ければ次はこの薬草を取ってきて欲しいんだ」
そう言って商人が見せてきたのは、青っぽい草だった。なんとなく見覚えがある。きっと森の中に生えていたはずだ。
「分かった。取ってくる」
草の形状を覚えるためじっと見つめながら、アレスはそう返事した。
「助かるよ。この薬草は森のこっち側によく生えているらしいからな」
「一体なんの薬草なの?」
「まぁ、傷薬だよ。獣族のね」
「ふーん」
獣族ということは、『獣』のつく種族が使う傷薬なのだろう。鳥人族とは使う薬草の種類まで違うのか、とアレスは納得し、明日からはこの薬草を集めることにした。
広場から森の近くにある自宅まで歩いて戻る。
途中、交換した物を誰かに見られないように、片手で袋の口を握りしめながら歩いた。最後の方は小走りになりながら自宅へと着く。
中に入り簡易的な木でできた鍵を閉めた後、アレスは交換してきたものを順番に出す。木の実に果実、鳥肉に布。そして櫛だ。
飛べない翼だが、アレスはしっかりと手入れをしている。櫛を買って手入れしていたことが広まってしまえば確実に馬鹿にされるだろう。
自分の髪や目、羽と同じ黒で艶のある櫛。アレスは櫛を手に持ち、早速羽を梳き始めた。引っ掛けないように慎重に梳いていく。翼に力を入れて少しだけ開き、丁寧に手を動かし続けた。
黒で艶のある翼。翼を広げた先の方の羽は一部が白だ。黒の羽は根元の方に光が当たると青や緑に光って見えとても綺麗だ。アレスはこんな自分の翼がお気に入りだった。
櫛で梳いた後は、専用の油を丁寧に塗りこんでいく。さらに艶が出た翼を広げながらアレスは満足した。
鳥人族では、翼が綺麗で大きい個体がモテる。ただ、アレスの場合は恋愛の対象にすらならないようで、今までアプローチを受けたこともなく、好きになった人もいない。もしも、両翼そろっていたら、アレスはモテていただろう。いつもそう考えてしまい、その度にため息がでる。
2人で手を繋ぎ回転しながら飛んでいる村の番達を見ると、勿論羨ましい。この村の鳥人達とは番になれそうにないため、他の種族で探すしかないが、この村に来るのは商人くらいだ。
村の西側には森が広がり、森の反対側には恐ろしい者達が住んでいる。他の3方向は山に囲まれているため、訪れる者は極端に少なく、飛べないアレスには出ていくことも難しい。
いつかは番をと夢見るが、相手の顔も種族も想像できないままだった。
今日は商人が来る日だからだ。ただ、商人は1週間に1度しかトト村を訪れないため、この日は村中の者が広場に集まる。
アレスは目立つ。皆が空を飛んできている中、1人で歩いてくるし、何より片側しかない翼はどうしても目立ってしまう。村には片翼で飛べないアレスを揶揄って馬鹿にしてくる者もいれば、興味深く見てくる者もいる。そのため、アレスは村人にできるだけ会わなくて済むように、いつも商人が立ち去るギリギリの時間に行くようにしていた。
人気な物は早めに交換されてしまうので、交換できる物の種類は減ってしまうが、仕方がない。
「やあ、アレス」
「こんにちは」
広場にはいつもの獣狸族の男の商人がいた。鳥人族は、『人』という字がつく通り、見た目は人に近い。逆に獣狸族は『獣』という字のつく通り、見た目は獣に近い。
商人の男も、見た目は人ではなく狸だ。全身に濃い茶色の毛が生えている。顔も同じく茶色の毛が生えているが、目の周りの毛は黒に近い。後ろからは太い先の丸くなった尻尾が出てきている。
「おじさん、これ今週の薬草。傷に効くやつと、腹痛に効くやつ」
「おお、どれどれ」
アレスは手に持っていた薬草の入った袋を手渡した。
商人の近くでは、荷車を引いてきたであろう馬が数頭おり、水を飲んでいた。もう直ぐ出発するので、準備をしているのだろう。
商人が袋の中の薬草を確認する間、横に置いてある籠の中を順番に覗き込む。
中には商人が持ってきた品物や、この村で交換したであろう品物がいくつも入っている。
アレスはいつものように食料の入った籠を最初に覗き込んで、森では取れない種類の木の実や、鳥肉を手に取る。
続いて雑貨が入っている籠を覗いた。目ぼしい物はもう取られてしまったようで、あまり残っていない。体を拭く用の布が裂けてきていたことを思い出したアレスは、手頃な布を手に取る。そして、次の籠を覗き込んだ。
そこには幾つかの羽づくろい用の幅の広い櫛が入っていた。持ち手が黒くて艶のある櫛があるのを見て、アレスは目を止めた。そして、辺りを見渡し近くに鳥人族がいないことを確認すると、素早く櫛を手に取り、腕に抱えていた布の間に押し込んだ。
「決まったかい?」
「うん」
そこで丁度商人から声がかかったため、アレスは急いで商人の元へ戻り、腕に抱えていた品物を渡した。商人は1つずつ確認しながら帳簿に記録していく。
「よしよし、いいだろう。じゃあ、この薬草と交換だな」
「ありがとう」
例を言ったアレスは、交換したものを持ってきていた袋の中に急いでしまい込む。
「そうだ、アレスは森に行ってるんだったな」
「うん、そうだよ」
「良ければ次はこの薬草を取ってきて欲しいんだ」
そう言って商人が見せてきたのは、青っぽい草だった。なんとなく見覚えがある。きっと森の中に生えていたはずだ。
「分かった。取ってくる」
草の形状を覚えるためじっと見つめながら、アレスはそう返事した。
「助かるよ。この薬草は森のこっち側によく生えているらしいからな」
「一体なんの薬草なの?」
「まぁ、傷薬だよ。獣族のね」
「ふーん」
獣族ということは、『獣』のつく種族が使う傷薬なのだろう。鳥人族とは使う薬草の種類まで違うのか、とアレスは納得し、明日からはこの薬草を集めることにした。
広場から森の近くにある自宅まで歩いて戻る。
途中、交換した物を誰かに見られないように、片手で袋の口を握りしめながら歩いた。最後の方は小走りになりながら自宅へと着く。
中に入り簡易的な木でできた鍵を閉めた後、アレスは交換してきたものを順番に出す。木の実に果実、鳥肉に布。そして櫛だ。
飛べない翼だが、アレスはしっかりと手入れをしている。櫛を買って手入れしていたことが広まってしまえば確実に馬鹿にされるだろう。
自分の髪や目、羽と同じ黒で艶のある櫛。アレスは櫛を手に持ち、早速羽を梳き始めた。引っ掛けないように慎重に梳いていく。翼に力を入れて少しだけ開き、丁寧に手を動かし続けた。
黒で艶のある翼。翼を広げた先の方の羽は一部が白だ。黒の羽は根元の方に光が当たると青や緑に光って見えとても綺麗だ。アレスはこんな自分の翼がお気に入りだった。
櫛で梳いた後は、専用の油を丁寧に塗りこんでいく。さらに艶が出た翼を広げながらアレスは満足した。
鳥人族では、翼が綺麗で大きい個体がモテる。ただ、アレスの場合は恋愛の対象にすらならないようで、今までアプローチを受けたこともなく、好きになった人もいない。もしも、両翼そろっていたら、アレスはモテていただろう。いつもそう考えてしまい、その度にため息がでる。
2人で手を繋ぎ回転しながら飛んでいる村の番達を見ると、勿論羨ましい。この村の鳥人達とは番になれそうにないため、他の種族で探すしかないが、この村に来るのは商人くらいだ。
村の西側には森が広がり、森の反対側には恐ろしい者達が住んでいる。他の3方向は山に囲まれているため、訪れる者は極端に少なく、飛べないアレスには出ていくことも難しい。
いつかは番をと夢見るが、相手の顔も種族も想像できないままだった。
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