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56 泳ぎの練習!
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「虎太郎!」
蓮の慌てた声が聞こえた気がしたが、虎太郎は浮かんでいるので精一杯だ。
そんな虎太郎の首筋に何かがぶつかったような感覚があった後、体が動き始めた。涙目で虎太郎が後ろを振り返ると、クリーム色の体が見える。
そのまま虎太郎の体は、浅い場所まで運ばれる。蓮も近くまで助けに来てくれていたようで、膝下まで水に浸かっていた。
前足を蓮に向かって伸ばすと、抱き上げられる。蓮の腕の中で後ろを振り返ると、優しい顔をしたクリーム色のラブラドールレトリーバーがいた。虎太郎をここまで泳いで運んでくれたのだ。
「クゥーン(ありがとう)」
なんとかお礼を言った虎太郎は蓮の腕の中に顔を埋めた。タオルに包まれた虎太郎は、蓮の腕の中で恐怖に震える。
蓮がドッグランの人や助けてくれた犬の飼い主と話をしているようだったが、虎太郎の耳には何も入ってこなかった。
しばらくの間タオルの上から蓮に撫でられ、ようやく落ち着いてきた虎太郎は顔を上げた。
「落ち着いたか? 助かってよかったよ」
心配そうに見てくる蓮に虎太郎は謝った。
まさか泳げないとは思わなかったのだ。人の時には泳げるのに、犬の姿だと泳ぎ方が分からなかった。
「クゥーン(ごめんなさい)」
「犬の姿では泳げなかったんだな」
「クン(うん)」
「まぁ、海じゃなくてプールで分かって良かったよ」
もし海で同じように溺れてしまっていたら、助からなかったかもしれない。沈んでしまった虎太郎がそのまま流されてしまったら、虎太郎の場所が分からなくて助けに来てもらえないだろう。今回のように泳ぎが得意な犬が都合よく近くにいることもない。
「泳ぎの練習するか」
「キュン?(え、するの?)」
正直、虎太郎はもう家に帰りたかった。泳ぐ練習は今度でいいかもしれない。乗り気でない虎太郎とは反対に、蓮は泳ぐ練習をさせる気満々だ。虎太郎を抱きかかえたまま、虎太郎が溺れてしまったプールの隣にある小さなプールへ向かっていく。
こちらのプールはビニールプールで水も深くなさそうだ。
「今後何があるか分かんないし、早めに泳げるように頑張ろうな」
「クン(うん)」
蓮が近くで支えてくれるなら練習を頑張ろうと虎太郎は覚悟を決めた。虎太郎のお腹の下に蓮が手を差し入れて、プールの水面に向かって下ろされる。虎太郎は必死で四つ足をバタバタと動かした。
「――まだ、水に浸かってないぞ」
蓮の言葉に虎太郎が下を見てみると、まだ水面は遠かった。どうやら空中で泳いでいたようだ。恥ずかしかったので、虎太郎は笑いながら言われた蓮の指摘が聞こえていないふりをした。
「足は交互に動かすんじゃないか?」
「キュン?(こう?)」
次はちゃんと体の半分が水に浸かってから足を動かし始める。蓮が手で支えてくれているので沈むことはない。安心して蓮のアドバイスを聞きながら練習を続けた。
段々とコツがつかめてきて前に進めているように感じるが、蓮の支えてくれる手が無くなってしまうのが心配で、中々補助なしで泳ぐことができない。蓮が手を外そうとすると、泳ぐのをやめて必死にしがみついてしまう。
少し休憩して水分補給をしていると、プールで助けてくれたラブラドールレトリーバーが虎太郎の近くに来てくれた。どうやら、心配して見に来てくれたようだ。
「キュンキュン(さっきはありがとう)」
「ワン」
改めてお礼を言った虎太郎の顔をペロと舐めてくる。どうやら『気にしなくていいよ』と言ってくれているようだ。
「どう、ポメちゃんは泳げるようになったかしら?」
「あー、練習して泳げそうなんですけど、俺が手を離すのが怖いみたいで」
ラブラドールレトリーバーの飼い主が蓮と話している。ふくよかな女性で、蓮の母親と同じくらいの年齢に見える。レトリ―バーと同じ優しい顔だ。
「そうなのね。売店に犬用のライフジャケットが売っていたから、使ってみてもいいかもしれないわ」
その後、虎太郎を撫でながら「泳げるようになるといいわね。頑張って」と言って飼い犬と一緒に去っていった。
売店でライフジャケットを購入して、虎太郎に装着する。溺れないことを確認した虎太郎は蓮の補助なしでも浮かぶことができた。
「反対側に行くから、泳いで来い」
そう言った蓮が小さいビニールプールの反対側に行ってしまったので、虎太郎は勢いよくプールに飛び込んだ。
蓮のいる場所を確認して、そちら側に向かって泳いでいく。足を交互に動かして前へと進む。
無事に反対側までたどり着いた虎太郎を、蓮がプールから引き上げた。
「よし、泳げたな。凄いぞ」
「ワン(できました)」
自信がついた虎太郎は、その後ライフジャケットなしでもしっかり泳げるようになった。
蓮の慌てた声が聞こえた気がしたが、虎太郎は浮かんでいるので精一杯だ。
そんな虎太郎の首筋に何かがぶつかったような感覚があった後、体が動き始めた。涙目で虎太郎が後ろを振り返ると、クリーム色の体が見える。
そのまま虎太郎の体は、浅い場所まで運ばれる。蓮も近くまで助けに来てくれていたようで、膝下まで水に浸かっていた。
前足を蓮に向かって伸ばすと、抱き上げられる。蓮の腕の中で後ろを振り返ると、優しい顔をしたクリーム色のラブラドールレトリーバーがいた。虎太郎をここまで泳いで運んでくれたのだ。
「クゥーン(ありがとう)」
なんとかお礼を言った虎太郎は蓮の腕の中に顔を埋めた。タオルに包まれた虎太郎は、蓮の腕の中で恐怖に震える。
蓮がドッグランの人や助けてくれた犬の飼い主と話をしているようだったが、虎太郎の耳には何も入ってこなかった。
しばらくの間タオルの上から蓮に撫でられ、ようやく落ち着いてきた虎太郎は顔を上げた。
「落ち着いたか? 助かってよかったよ」
心配そうに見てくる蓮に虎太郎は謝った。
まさか泳げないとは思わなかったのだ。人の時には泳げるのに、犬の姿だと泳ぎ方が分からなかった。
「クゥーン(ごめんなさい)」
「犬の姿では泳げなかったんだな」
「クン(うん)」
「まぁ、海じゃなくてプールで分かって良かったよ」
もし海で同じように溺れてしまっていたら、助からなかったかもしれない。沈んでしまった虎太郎がそのまま流されてしまったら、虎太郎の場所が分からなくて助けに来てもらえないだろう。今回のように泳ぎが得意な犬が都合よく近くにいることもない。
「泳ぎの練習するか」
「キュン?(え、するの?)」
正直、虎太郎はもう家に帰りたかった。泳ぐ練習は今度でいいかもしれない。乗り気でない虎太郎とは反対に、蓮は泳ぐ練習をさせる気満々だ。虎太郎を抱きかかえたまま、虎太郎が溺れてしまったプールの隣にある小さなプールへ向かっていく。
こちらのプールはビニールプールで水も深くなさそうだ。
「今後何があるか分かんないし、早めに泳げるように頑張ろうな」
「クン(うん)」
蓮が近くで支えてくれるなら練習を頑張ろうと虎太郎は覚悟を決めた。虎太郎のお腹の下に蓮が手を差し入れて、プールの水面に向かって下ろされる。虎太郎は必死で四つ足をバタバタと動かした。
「――まだ、水に浸かってないぞ」
蓮の言葉に虎太郎が下を見てみると、まだ水面は遠かった。どうやら空中で泳いでいたようだ。恥ずかしかったので、虎太郎は笑いながら言われた蓮の指摘が聞こえていないふりをした。
「足は交互に動かすんじゃないか?」
「キュン?(こう?)」
次はちゃんと体の半分が水に浸かってから足を動かし始める。蓮が手で支えてくれているので沈むことはない。安心して蓮のアドバイスを聞きながら練習を続けた。
段々とコツがつかめてきて前に進めているように感じるが、蓮の支えてくれる手が無くなってしまうのが心配で、中々補助なしで泳ぐことができない。蓮が手を外そうとすると、泳ぐのをやめて必死にしがみついてしまう。
少し休憩して水分補給をしていると、プールで助けてくれたラブラドールレトリーバーが虎太郎の近くに来てくれた。どうやら、心配して見に来てくれたようだ。
「キュンキュン(さっきはありがとう)」
「ワン」
改めてお礼を言った虎太郎の顔をペロと舐めてくる。どうやら『気にしなくていいよ』と言ってくれているようだ。
「どう、ポメちゃんは泳げるようになったかしら?」
「あー、練習して泳げそうなんですけど、俺が手を離すのが怖いみたいで」
ラブラドールレトリーバーの飼い主が蓮と話している。ふくよかな女性で、蓮の母親と同じくらいの年齢に見える。レトリ―バーと同じ優しい顔だ。
「そうなのね。売店に犬用のライフジャケットが売っていたから、使ってみてもいいかもしれないわ」
その後、虎太郎を撫でながら「泳げるようになるといいわね。頑張って」と言って飼い犬と一緒に去っていった。
売店でライフジャケットを購入して、虎太郎に装着する。溺れないことを確認した虎太郎は蓮の補助なしでも浮かぶことができた。
「反対側に行くから、泳いで来い」
そう言った蓮が小さいビニールプールの反対側に行ってしまったので、虎太郎は勢いよくプールに飛び込んだ。
蓮のいる場所を確認して、そちら側に向かって泳いでいく。足を交互に動かして前へと進む。
無事に反対側までたどり着いた虎太郎を、蓮がプールから引き上げた。
「よし、泳げたな。凄いぞ」
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