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54 蓮専用!
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「ごめんなさいね。スカウトしたいのは本当よ。虎太郎君どう? 返事は今すぐじゃなくてもいいから考えてくれない?」
「ワン(はい)」
「早く帰れ」
「もう、うるさいわね」
いきなり突撃してきた百合子は、蓮に早々に追い出されてしまう。
部屋を出ていく前に百合子が虎太郎の前足を掴んで、「蓮をよろしくね」と言ってきたため虎太郎は元気よく返事をした。できれば人の姿に戻って見送りたかったが、服を着てくる暇はなかったので、ポメラニアンのまま玄関まで見送りに出る。どうやら忙しい仕事の合間を縫って訪れたようで、かかってきた電話に対応しながら百合子は慌ただしく出て行った。
最後に虎太郎へ手を振ってくれたので、虎太郎も両前足をあげて見送った。
蓮が恋人ができた事を事務所の副社長である母親に報告をした際に、虎太郎のポメラニアンの時の写真を送ったようだ。そのため、誤解が生まれてしまったのだろう。心配して急いで駆けつけてくれるなんて優しい母親のように見えたが、どうやら蓮とはあまり仲がよくないようだ。
「朝から悪かったな」
玄関で百合子を見送った虎太郎を、一緒に来なかった蓮が迎えに来た。
蓮は虎太郎を抱き上げてリビングまで移動し、膝に乗せて無言でお腹や胸の毛をモフモフと撫でてくる。前、蓮がポメラニアンの虎太郎に癒されると言っていた事があった。もしかしたら母親が来たことが嫌だったので癒されたいのかもしれないと思い、虎太郎は黙ってお腹を差し出した。
お腹を撫でた後は、前足をとられて肉球を親指でプニプニと触られる。ほど良い強さで触られ、まるでマッサージされているようだ。
しばらく触った後、大きなため息をついた蓮は虎太郎から手を離した。
「緊張して疲れただろ。少し休憩してからドッグランに行くか」
蓮にモデルの話で言いたいことがあった虎太郎は、一度頷いてから着替えるために蓮の膝から飛び降りた。
華麗に着地を決めた虎太郎は、床に落ちている自分の服を口に咥えてリビングから出て行こうとするが、上手く前に進めない。どうやら運んでいる服を自分の前足で踏んでしまっているようだ。ポメラニアンの小さい体では咥えて運ぶことは難しいようだったので、どうしようか考えていたら、蓮が立ち上がってきて虎太郎の服をまとめて運んでくれた。
「キュン(ありがとう)」
「洗面所でいいか」
運んでくれる蓮の後ろをついて行く。
洗面所の扉が閉められた瞬間、虎太郎は人に戻り急いで服を着始めた。
「蓮さん! さっきのお母さんのモデルの話なんですけど」
「ああ、気にしなくていい」
床に置きっぱなしになっていた名刺を取りながら、ソファに座っていた蓮の隣に腰かける。
「モデルって大変ですよね?」
「は? お前、俺以外のやつに尻尾振る気か?」
「ん? あの、僕――」
モデルという仕事は、きっととても大変だろう。宮下と一緒に蓮の撮影現場を覗いた時のことを思い返す。カメラのフラッシュが光る中で、あの時の蓮のようにポーズをとり、圧倒される程の魅力的な雰囲気を作り出すことは虎太郎には無理だ。それでも――
「もし、もし、蓮さんが撮影で犬と撮ることになったら、その時は僕と撮ってほしいんです。練習が必要なら、ちゃんと練習もします!」
「――ああ、なるほどな。俺専用か」
「はい! 蓮さんのお母さんに伝えてもらってもいいですか?」
「ああ、伝えとく」
もし、蓮が虎太郎以外の犬を膝にのせて写真を撮ることになったら、その時は虎太郎が代わりに出させてもらおう。蓮が他の小型犬を膝にのせて優しく撫でているところを想像するだけで胸の奥がモヤッとする。
大型犬の場合は、大きさが全然違うので虎太郎では代わりにならないかもしれない。その時は、撮影場所へ一緒に連れて行ってもらい見学させてもらおう。大型犬なら虎太郎の場所である蓮の膝の上が取られることもないはずだ。もしも取られそうになったら、絶対に妨害しに行ってやるぞ、と虎太郎は人知れず闘志を燃やした。
「ワン(はい)」
「早く帰れ」
「もう、うるさいわね」
いきなり突撃してきた百合子は、蓮に早々に追い出されてしまう。
部屋を出ていく前に百合子が虎太郎の前足を掴んで、「蓮をよろしくね」と言ってきたため虎太郎は元気よく返事をした。できれば人の姿に戻って見送りたかったが、服を着てくる暇はなかったので、ポメラニアンのまま玄関まで見送りに出る。どうやら忙しい仕事の合間を縫って訪れたようで、かかってきた電話に対応しながら百合子は慌ただしく出て行った。
最後に虎太郎へ手を振ってくれたので、虎太郎も両前足をあげて見送った。
蓮が恋人ができた事を事務所の副社長である母親に報告をした際に、虎太郎のポメラニアンの時の写真を送ったようだ。そのため、誤解が生まれてしまったのだろう。心配して急いで駆けつけてくれるなんて優しい母親のように見えたが、どうやら蓮とはあまり仲がよくないようだ。
「朝から悪かったな」
玄関で百合子を見送った虎太郎を、一緒に来なかった蓮が迎えに来た。
蓮は虎太郎を抱き上げてリビングまで移動し、膝に乗せて無言でお腹や胸の毛をモフモフと撫でてくる。前、蓮がポメラニアンの虎太郎に癒されると言っていた事があった。もしかしたら母親が来たことが嫌だったので癒されたいのかもしれないと思い、虎太郎は黙ってお腹を差し出した。
お腹を撫でた後は、前足をとられて肉球を親指でプニプニと触られる。ほど良い強さで触られ、まるでマッサージされているようだ。
しばらく触った後、大きなため息をついた蓮は虎太郎から手を離した。
「緊張して疲れただろ。少し休憩してからドッグランに行くか」
蓮にモデルの話で言いたいことがあった虎太郎は、一度頷いてから着替えるために蓮の膝から飛び降りた。
華麗に着地を決めた虎太郎は、床に落ちている自分の服を口に咥えてリビングから出て行こうとするが、上手く前に進めない。どうやら運んでいる服を自分の前足で踏んでしまっているようだ。ポメラニアンの小さい体では咥えて運ぶことは難しいようだったので、どうしようか考えていたら、蓮が立ち上がってきて虎太郎の服をまとめて運んでくれた。
「キュン(ありがとう)」
「洗面所でいいか」
運んでくれる蓮の後ろをついて行く。
洗面所の扉が閉められた瞬間、虎太郎は人に戻り急いで服を着始めた。
「蓮さん! さっきのお母さんのモデルの話なんですけど」
「ああ、気にしなくていい」
床に置きっぱなしになっていた名刺を取りながら、ソファに座っていた蓮の隣に腰かける。
「モデルって大変ですよね?」
「は? お前、俺以外のやつに尻尾振る気か?」
「ん? あの、僕――」
モデルという仕事は、きっととても大変だろう。宮下と一緒に蓮の撮影現場を覗いた時のことを思い返す。カメラのフラッシュが光る中で、あの時の蓮のようにポーズをとり、圧倒される程の魅力的な雰囲気を作り出すことは虎太郎には無理だ。それでも――
「もし、もし、蓮さんが撮影で犬と撮ることになったら、その時は僕と撮ってほしいんです。練習が必要なら、ちゃんと練習もします!」
「――ああ、なるほどな。俺専用か」
「はい! 蓮さんのお母さんに伝えてもらってもいいですか?」
「ああ、伝えとく」
もし、蓮が虎太郎以外の犬を膝にのせて写真を撮ることになったら、その時は虎太郎が代わりに出させてもらおう。蓮が他の小型犬を膝にのせて優しく撫でているところを想像するだけで胸の奥がモヤッとする。
大型犬の場合は、大きさが全然違うので虎太郎では代わりにならないかもしれない。その時は、撮影場所へ一緒に連れて行ってもらい見学させてもらおう。大型犬なら虎太郎の場所である蓮の膝の上が取られることもないはずだ。もしも取られそうになったら、絶対に妨害しに行ってやるぞ、と虎太郎は人知れず闘志を燃やした。
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