53 / 64
53
しおりを挟む
一旦蓮の母親が落ち着いたところで、蓮が虎太郎を紹介した。
「こいつが、恋人の虎太郎だ」
「は、はじめまして! 犬丸虎太郎です!」
虎太郎は頭を下げながら元気よく挨拶をした。
「――あら、まあ! 挨拶もせずにごめんなさいね。蓮の母の黒崎百合子です」
挨拶を返してきた百合子は、よく見ると確かに鼻や目など蓮に似ている部分があった。更に、蓮と同じく美形でスタイルがよい。身長も虎太郎より高いだろう。
カチコチに緊張している虎太郎を他所に、百合子は虎太郎の隣に立っていた蓮に向けて、片手で持っていたスマホを突きつける。
「事務所的に恋人ができたら報告してほしいとは言っていたけど――いきなり恋人ができたなんてメッセージ送ってきて、一緒にポメラニアンの写真を送ってきたから、ビックリしたじゃない」
突きつけられたスマホの画面を見てみると、芝生の上を駆け回っている毛玉が映っている。ポメラニアン姿の虎太郎だ。黒のスカーフもしっかりつけている。きっと、初めてドッグランに行った時の写真だろう。あの時、蓮に写真を撮られていたなんて全く気がつかなかった。
「いや、この写真しかなかったんだよな」
「なに? 2人で一緒に飼っているワンちゃんなの?」
「はぁ、ちゃんと写真の後のメッセージまで全部読んでから来いよ。虎太郎はポメラニアンになる体質なんだよ。で、その写真の犬は虎太郎」
「――え? あなた犬になれるの?」
「は、はい! なれます」
「ちょっと、今ここでなって見せてくれる?」
「わ、分かりました!」
返事をした虎太郎は、目をつぶりポメラニアンの自分を想像して力を入れる。虎太郎が蓮と出会って犬になれると伝えたときに、蓮から「今すぐ犬になってみろ」と言われたことを思いだした。信じずに全く話を聞こうとしないのではなく、とりあえず変わるところを見てみようというところも親子だから似ているのかもしれない。
ポメラニアンになった虎太郎は、自分の服の中から出てきて百合子に向かい元気よく鳴いた。
「ワン!」
口も目も大きく開きっぱなしだった百合子だったが、虎太郎が足元によるとしゃがんで撫でてきた。
「凄いわ! ポメラニアンになれる人っているのね」
「ポメガバースって言うらしい。あんまり他の人には言わないようにってことも一緒に送ったはずだけどな……」
「あら、かわいいわね!」
両手でワサワサと体全体を撫でられた後、毛並みを整えるかのように優しく梳かれる。虎太郎は目をつぶって堪能した。
「言葉は通じているの?」
「ワン(はい)」
「お手して、一回転できる?」
「ワン(はい)」
虎太郎は差し出された手に前足でタッチした後、その場でクルッと一回転をして、百合子のほうを見て行儀よくお座りした。
「おい、虎太郎に何やらせてんだ」
「ちょっと、凄いじゃない!」
「――は?」
「虎太郎君。あなたモデルに興味ない?」
「クウ?(もでる?)」
首を傾げた虎太郎に、百合子がポケットから名刺入れを取り出し、虎太郎の目の前に差し出した。
「私、蓮の所属している事務所の副社長をしているのよ。意思疎通のできるワンちゃんなんて、一緒に写真を撮るのがとても楽だわ。噛まれる心配もないし、指示も的確に伝わるなんて素晴らしいわ。どう? 興味ないかしら?」
「おい、俺の恋人をスカウトするな」
虎太郎が名刺を見て真剣に話を聞いていたら、いきなり蓮から抱き上げられた。
「ちょっと、今虎太郎君としゃべっているのよ」
「虎太郎に何させようとしてんだ。金儲けに使うつもりか?」
「違うわよ。素晴らしい逸材がいたからスカウトしているのよ。もちろん断ってもらってもいいわ。何? 恋人にはモデルしてほしくないの? あら、もしかして他人に見せたくないタイプだったの? かわいいところあるじゃない」
「そんな話してねぇだろ。いきなり押しかけてきて息子の恋人をスカウトするなんて馬鹿じゃねぇの? 早く帰れよ!」
「キュンキュン(おちついてください)」
なぜか2人のやり取りがヒートアップしてきてしまったため、虎太郎は慌てて止めに入った。
「こいつが、恋人の虎太郎だ」
「は、はじめまして! 犬丸虎太郎です!」
虎太郎は頭を下げながら元気よく挨拶をした。
「――あら、まあ! 挨拶もせずにごめんなさいね。蓮の母の黒崎百合子です」
挨拶を返してきた百合子は、よく見ると確かに鼻や目など蓮に似ている部分があった。更に、蓮と同じく美形でスタイルがよい。身長も虎太郎より高いだろう。
カチコチに緊張している虎太郎を他所に、百合子は虎太郎の隣に立っていた蓮に向けて、片手で持っていたスマホを突きつける。
「事務所的に恋人ができたら報告してほしいとは言っていたけど――いきなり恋人ができたなんてメッセージ送ってきて、一緒にポメラニアンの写真を送ってきたから、ビックリしたじゃない」
突きつけられたスマホの画面を見てみると、芝生の上を駆け回っている毛玉が映っている。ポメラニアン姿の虎太郎だ。黒のスカーフもしっかりつけている。きっと、初めてドッグランに行った時の写真だろう。あの時、蓮に写真を撮られていたなんて全く気がつかなかった。
「いや、この写真しかなかったんだよな」
「なに? 2人で一緒に飼っているワンちゃんなの?」
「はぁ、ちゃんと写真の後のメッセージまで全部読んでから来いよ。虎太郎はポメラニアンになる体質なんだよ。で、その写真の犬は虎太郎」
「――え? あなた犬になれるの?」
「は、はい! なれます」
「ちょっと、今ここでなって見せてくれる?」
「わ、分かりました!」
返事をした虎太郎は、目をつぶりポメラニアンの自分を想像して力を入れる。虎太郎が蓮と出会って犬になれると伝えたときに、蓮から「今すぐ犬になってみろ」と言われたことを思いだした。信じずに全く話を聞こうとしないのではなく、とりあえず変わるところを見てみようというところも親子だから似ているのかもしれない。
ポメラニアンになった虎太郎は、自分の服の中から出てきて百合子に向かい元気よく鳴いた。
「ワン!」
口も目も大きく開きっぱなしだった百合子だったが、虎太郎が足元によるとしゃがんで撫でてきた。
「凄いわ! ポメラニアンになれる人っているのね」
「ポメガバースって言うらしい。あんまり他の人には言わないようにってことも一緒に送ったはずだけどな……」
「あら、かわいいわね!」
両手でワサワサと体全体を撫でられた後、毛並みを整えるかのように優しく梳かれる。虎太郎は目をつぶって堪能した。
「言葉は通じているの?」
「ワン(はい)」
「お手して、一回転できる?」
「ワン(はい)」
虎太郎は差し出された手に前足でタッチした後、その場でクルッと一回転をして、百合子のほうを見て行儀よくお座りした。
「おい、虎太郎に何やらせてんだ」
「ちょっと、凄いじゃない!」
「――は?」
「虎太郎君。あなたモデルに興味ない?」
「クウ?(もでる?)」
首を傾げた虎太郎に、百合子がポケットから名刺入れを取り出し、虎太郎の目の前に差し出した。
「私、蓮の所属している事務所の副社長をしているのよ。意思疎通のできるワンちゃんなんて、一緒に写真を撮るのがとても楽だわ。噛まれる心配もないし、指示も的確に伝わるなんて素晴らしいわ。どう? 興味ないかしら?」
「おい、俺の恋人をスカウトするな」
虎太郎が名刺を見て真剣に話を聞いていたら、いきなり蓮から抱き上げられた。
「ちょっと、今虎太郎君としゃべっているのよ」
「虎太郎に何させようとしてんだ。金儲けに使うつもりか?」
「違うわよ。素晴らしい逸材がいたからスカウトしているのよ。もちろん断ってもらってもいいわ。何? 恋人にはモデルしてほしくないの? あら、もしかして他人に見せたくないタイプだったの? かわいいところあるじゃない」
「そんな話してねぇだろ。いきなり押しかけてきて息子の恋人をスカウトするなんて馬鹿じゃねぇの? 早く帰れよ!」
「キュンキュン(おちついてください)」
なぜか2人のやり取りがヒートアップしてきてしまったため、虎太郎は慌てて止めに入った。
83
お気に入りに追加
185
あなたにおすすめの小説
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします
真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。
攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w
◇◇◇
「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」
マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。
ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。
(だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?)
マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。
王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。
だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。
事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。
もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。
だがマリオンは知らない。
「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」
王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
氷の魔術師は狼獣人と巣ごもりしたい
ぷかり
BL
魔塔所属のエリート魔術師サリウスは任務の帰り吹雪に合って行き倒れたところを狼獣人のリルに拾われた。
リルの献身的な手当てによりサリウスは英気を養い職場のある王都に帰るが、もう会うことのないと思っていたリルの温かさが恋しくなり、度々リルの元を訪れるようになる。
そんなある日、サリウスはリルの発情に巻き込まれてしまう。
オメガバースの設定をお借りしております
ムーンライトノベルズさまにて別タイトルで完結済です
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる