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52 蓮の母親
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「今日はまたドッグランにでも行くか?」
「んっ、はい!」
虎太郎は口の中に詰め込んでいたご飯を急いで飲み込んでから返事をした。前回は『ポメの会』に参加しに行ったので、ポメラニアンばかりだった。今回はポメラニアン以外とも遊ぶことができそうだ。大型犬は少し怖いので、小型犬のお友達ができると嬉しいな、と思いながら虎太郎は朝ご飯の残りを口に運んだ。
今日は土曜日で虎太郎は大学が休みだし、蓮も一日仕事が入っていないので時間を気にせず遊ぶことができる。
虎太郎が朝食を食べ終わった時、突然玄関のチャイム音が響き渡った。リビングにかかっている時計を確認するとまだ朝の8時前だ。
「こんな朝から誰だ? 無視でいい」
どうやら誰かが訪ねてくる予定はなかったらしく、蓮は座ったままだ。蓮が人嫌いだったため、この家にはほとんど人が来ない。今まで見たことがあるのは宮下と配達員くらいだ。
もう一度チャイムが鳴る。時間を置いて何度もチャイムが鳴らされたので、虎太郎は気になりモニターまで見に行った。そこに写っていたのは、虎太郎が一度も見たことのない女の人。赤い洋服に黒髪、真っ赤な口紅が目に入る。腕を組んでイライラしているように見える。
「蓮さん、赤い女の人が来てます」
「は? 誰だ?」
「んー? 僕の知ってる人ではないです」
蓮が確認するために虎太郎の隣にやってきて、モニターを覗き込んだ。
「げっ」
蓮が応答スイッチを押した瞬間に、相手が「ちょっと、今すぐ開けなさい」と叫んでくる。蓮が無言で解錠スイッチを押した。
正体が気になり蓮を見上げた虎太郎に、蓮が一言「母親だ」と告げてきた。
先程モニターに写っていた女の人が蓮の母親だと理解した瞬間、虎太郎は大慌てで着替えに向かった。恋人の親に会う時に一体何を着たらいいのだろうか。とにかく、今着ている寝巻きのままではダメだと急いで普段着に着替えた。
着替え終わり走ってリビングに戻ると、蓮が片手で頭を押さえていた。
「恋人ができたと伝えたからな、その件だろ」
虎太郎はピンと背筋を伸ばした。人は第一印象が大切だ。蓮の母親に気に入ってもらえるように礼儀正しく挨拶をしようと意気込んだが、ジッとしていられずその辺をウロウロと歩き回る。
ガチガチに緊張してしまっている虎太郎の背を押して、蓮がリビングのソファに誘導した。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。どこかに隠れとくか?」
蓮の提案に虎太郎は首をブンブンと横に振り、座りなおした。頭の中で自己紹介のセリフを唱えながら、待ち構える。
もう一度チャイムが鳴った。次はマンションの入り口の方ではなく、この部屋の入り口の方だ。蓮が応答しているが、緊張している虎太郎の耳には声が入ってこない。
リビングの扉が開いた瞬間、虎太郎は立ち上がり息を大きく吸い込んだ。
「こんにち――」
「ちょっと、蓮。これどういうことよ!」
虎太郎の挨拶は蓮の母親の大声にかき消されていった。スマホ持った手を蓮へ突き出しながら近づいてくる。
「うるせぇな。聞こえてるからもっと小さな声で話せよ」
蓮の母親は足元をキョロキョロと見渡している。何かを探しているようだ。そのまま、固まっている虎太郎の横を通り過ぎ、ソファの裏側を覗き込んでいる。
「人間が無理だからって、動物に手を出すなんて正気なの? 写真のワンちゃんはどこにいるのよ? 私が引き取るから連れてきなさい!」
「――は? なんだその勘違いは、俺をなんだと思ってんだよ。ちゃんと説明も読んだのか?」
「え、説明?」
「んっ、はい!」
虎太郎は口の中に詰め込んでいたご飯を急いで飲み込んでから返事をした。前回は『ポメの会』に参加しに行ったので、ポメラニアンばかりだった。今回はポメラニアン以外とも遊ぶことができそうだ。大型犬は少し怖いので、小型犬のお友達ができると嬉しいな、と思いながら虎太郎は朝ご飯の残りを口に運んだ。
今日は土曜日で虎太郎は大学が休みだし、蓮も一日仕事が入っていないので時間を気にせず遊ぶことができる。
虎太郎が朝食を食べ終わった時、突然玄関のチャイム音が響き渡った。リビングにかかっている時計を確認するとまだ朝の8時前だ。
「こんな朝から誰だ? 無視でいい」
どうやら誰かが訪ねてくる予定はなかったらしく、蓮は座ったままだ。蓮が人嫌いだったため、この家にはほとんど人が来ない。今まで見たことがあるのは宮下と配達員くらいだ。
もう一度チャイムが鳴る。時間を置いて何度もチャイムが鳴らされたので、虎太郎は気になりモニターまで見に行った。そこに写っていたのは、虎太郎が一度も見たことのない女の人。赤い洋服に黒髪、真っ赤な口紅が目に入る。腕を組んでイライラしているように見える。
「蓮さん、赤い女の人が来てます」
「は? 誰だ?」
「んー? 僕の知ってる人ではないです」
蓮が確認するために虎太郎の隣にやってきて、モニターを覗き込んだ。
「げっ」
蓮が応答スイッチを押した瞬間に、相手が「ちょっと、今すぐ開けなさい」と叫んでくる。蓮が無言で解錠スイッチを押した。
正体が気になり蓮を見上げた虎太郎に、蓮が一言「母親だ」と告げてきた。
先程モニターに写っていた女の人が蓮の母親だと理解した瞬間、虎太郎は大慌てで着替えに向かった。恋人の親に会う時に一体何を着たらいいのだろうか。とにかく、今着ている寝巻きのままではダメだと急いで普段着に着替えた。
着替え終わり走ってリビングに戻ると、蓮が片手で頭を押さえていた。
「恋人ができたと伝えたからな、その件だろ」
虎太郎はピンと背筋を伸ばした。人は第一印象が大切だ。蓮の母親に気に入ってもらえるように礼儀正しく挨拶をしようと意気込んだが、ジッとしていられずその辺をウロウロと歩き回る。
ガチガチに緊張してしまっている虎太郎の背を押して、蓮がリビングのソファに誘導した。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。どこかに隠れとくか?」
蓮の提案に虎太郎は首をブンブンと横に振り、座りなおした。頭の中で自己紹介のセリフを唱えながら、待ち構える。
もう一度チャイムが鳴った。次はマンションの入り口の方ではなく、この部屋の入り口の方だ。蓮が応答しているが、緊張している虎太郎の耳には声が入ってこない。
リビングの扉が開いた瞬間、虎太郎は立ち上がり息を大きく吸い込んだ。
「こんにち――」
「ちょっと、蓮。これどういうことよ!」
虎太郎の挨拶は蓮の母親の大声にかき消されていった。スマホ持った手を蓮へ突き出しながら近づいてくる。
「うるせぇな。聞こえてるからもっと小さな声で話せよ」
蓮の母親は足元をキョロキョロと見渡している。何かを探しているようだ。そのまま、固まっている虎太郎の横を通り過ぎ、ソファの裏側を覗き込んでいる。
「人間が無理だからって、動物に手を出すなんて正気なの? 写真のワンちゃんはどこにいるのよ? 私が引き取るから連れてきなさい!」
「――は? なんだその勘違いは、俺をなんだと思ってんだよ。ちゃんと説明も読んだのか?」
「え、説明?」
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