上 下
44 / 64

44 恥ずかしい!

しおりを挟む
 予想通り人になれた虎太郎は、服を着て急いで宮下のもとに戻る。

「宮下さん!」
「あれ、虎太郎くん。変な動きで出て行ったと思ったら、人に戻れたの?」
「蓮さんの恋人の記事は嘘なんですよね!」
「え、う、うん。そうだよ」
「よかったー」

 しっかりと宮下に確認した虎太郎は、ようやく心から安堵することができた。そんな虎太郎を見ていた宮下が、虎太郎が人に戻れなかった理由を察したようで笑顔になる。

「蓮さんの記事を見て、不安になったんだね」
「そうなんです! この家を追い出されたらどうしようとか色々考えて――ホントに良かったです」
「蓮さんの事が好きなんだねー」
「はい!」

 虎太郎が人に戻れたことで、宮下がこの家にいる必要はなくなってしまった。しばらく虎太郎と話した後、宮下は帰っていった。わざわざ来てもらったのに、すぐに人に戻れてしまい申し訳なくなりながらも、虎太郎はお礼を言って見送る。

 宮下が帰った後、虎太郎はソファに横になった。今回は蓮に恋人ができたというのは嘘だったが、いつか本当に恋人ができてしまうかもしれない。
 人嫌いが無くなることはいいことだが、恋人ができて蓮が取られてしまうのは嫌だ。
 
 自分はいったい今後どうしたいんだろうと色々考えていたが、考えすぎて疲れた虎太郎はそのまま眠りに落ちていた。




 頭をやさしく撫でられる感覚に、虎太郎は目を覚ました。
 目を開くと蓮がこちらを見下ろしているのが見える。虎太郎は欠伸をしながら体を起こした。

「……蓮さん、おかえりなさい」
「ああ、ただいま」

 寝起きでポヤポヤしている虎太郎に、蓮が笑いながら話しかけてきた。

「俺に恋人ができたと勘違いして、人に戻れなかったんだってな」
「――え゛」

 どうして蓮がそのことを知っているのか。話した覚えはないのに。そう考えた虎太郎は、宮下に話した後に口止めすることを忘れていたことを思い出した。
 あの時はとにかく蓮に恋人ができたことが嘘だということが分かって安心して、その後のことを何も考えていなかった。原因が判明した宮下が、蓮に報告をするなんて考えれば分かることだったのに。
 そんなことで人に戻れなかったことが蓮に知られてしまい、恥ずかしくなった虎太郎はその場から慌てて逃げ出した。
 寝室まで逃げて、ベッドの下に潜り込む。逃げた虎太郎を追って蓮が寝室へと入ってきた音が聞こえた。

「なんだ恥ずかしかったのか?」

 隠れている場所が見つからないように、虎太郎は口を抑えて黙り込む。
 虎太郎の頭上から軋む音が聞こえた。どうやら蓮がベッドに腰かけたようだ。

「俺は嬉しかったけどな」
「――え」

 反射的に声を出してしまい、虎太郎は慌てて口を両手で覆ったが遅かった。

「足先がベッドの下から出ているぞ。いいから出てこい」

 隠れていた場所がバレていたため、虎太郎は観念してベッド下から出てきた。片手には、先程ベッド下に潜り込んだ時に発見して思い出した蓮の革靴を持ったまま。気まずく思いながら虎太郎はベッドに座っている蓮の横に腰かけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

処理中です...