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43 勘違い?
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朝起きた虎太郎がリビングへ向かうと、蓮が朝食を用意している最中だった。
「起きたか」
「クウ(おはよう)」
「ご飯食べられそうか」
「ワン(うん)」
昨日寝る前にたくさん考えたことで、なんとなく理由が分かり、暴れまわって多少スッキリした虎太郎は、お腹が減っていたので蓮の問いかけに頷いた。
慣れた手つきで虎太郎にご飯を食べさせてくれる蓮に甘えつつ、虎太郎は用意された朝食を完食した。
「よし、全部食べれたな。今日、俺は出かけるけど、宮下を呼んでるから」
「ワン(うん)」
返事をした虎太郎は蓮の膝から床に飛び降りた。犬の姿のままでもお留守番はできると思ったが、蓮が心配しているのが分かったため、受け入れた。出かける準備のため動き回る蓮の後ろを、虎太郎はついて回る。
蓮の後姿を見ながらついて回っていた虎太郎は、突然立ち止まった。
蓮は出かけると言っていた。一体どこに行くのだろう。もしかしたら彼女のところかもしれない、そう考えた虎太郎は蓮の外出を止めるべく、急いで玄関へと向かった。
到着した玄関には虎太郎がいつも履いているスニーカーと、蓮がよく履いている革靴が並べて置いてある。
蓮の革靴の片方を咥えた虎太郎は、踵を返す。廊下を歩くときに爪音が立たないように、ゆっくりと短い4本の足を動かした。蓮の革靴は大きかったため、つま先部分はほとんど引きずるような形で寝室まで持ってきた虎太郎は、開けっぱなしだった扉をくぐりベッド下まで運んだ。
これで大丈夫だ、と安心した虎太郎は、見張るため自分もベッド下に入った。
蓮が取りに来ても渡さないぞと革靴を前足で押さえながら意気込んでいた虎太郎の耳に、玄関の扉が開く音が聞こえた。
慌ててベッドの下から出た虎太郎は、寝室から廊下へ飛び出た。
廊下の先に見える玄関では、蓮が外に出ており、まさに今、玄関扉が閉められるところだった。
廊下の端にたたずんでいる虎太郎を見つけた蓮は「行ってくるな」と言い残し、玄関の扉を閉めた。
閉まる扉の向こう側にいた蓮が履いていたのは、革靴ではなく、靴箱にしまわれていたスニーカーだった――
慌てて玄関まで向かい、鍵を開けようとジャンプして触ろうとするが、もちろんポメラニアンのままの虎太郎には開けることができない。
玄関でウロウロしていると、突然玄関の扉が開いた。
蓮が返ってきてくれたと思った虎太郎は、急いで入ってきた人に突撃すると足にしがみついた。これでもう出かけられないぞと思った虎太郎だったが、鼻に届く匂いがいつもの蓮のものではなかった。
虎太郎が顔を上げて確認すると、しがみついている相手は宮下だった。
「虎太郎くん、1人で寂しかったのかな?」
蓮じゃなくてがっかりした虎太郎は、宮下に抱き上げられリビングまで連れていかれた。
「蓮さんに聞いたんだけど、また、人に戻れなくなっちゃったんだって?」
頷いて返事を返した虎太郎は、ソファに座った宮下の隣で丸くなった。
「虎太郎くん、蓮さんのために凄く頑張ってくれていたみたいだから、疲れちゃったのかな? 蓮さんが新しいアシスタントを入れることを納得してくれたり、別のモデルとの絡みのある撮影もできるようになって、本当に嬉しいよ。ありがとうね。虎太郎くんが色々してくれているのは蓮さんから聞いてるよ」
褒めながら背中を撫でられ、虎太郎は嬉しくなって尻尾を振りながらワンと鳴いた。
「ただ、今まで人と全然関わってこなかった蓮さんがいきなり関わってきたことで、勘違いをした人も現れてね……この前も週刊誌に勝手に恋人がいるだなんて取り上げられてさ、酷いよね」
虎太郎は大きな耳を宮下のほうに動かした。
今、宮下は恋人がいるのは勘違いと言ったのだろうか。目を丸くして宮下を見上げた虎太郎を撫でながら、宮下がさらに言葉を続ける。
「この家に来たこともないのに、自称恋人を名乗る人がたくさんいるんだよ」
本当に蓮には恋人がいないようだ。週刊誌に載っていたのは間違った記事だったのだ。
安心した虎太郎は大きく吸った息を鼻から吐き出した。
詳しい話を聞きたかった虎太郎は、今なら人に戻れるかもと思い、ソファを元気よく飛び降りてカーペットの上をスキップしながら通り、自分の部屋に戻った。
「起きたか」
「クウ(おはよう)」
「ご飯食べられそうか」
「ワン(うん)」
昨日寝る前にたくさん考えたことで、なんとなく理由が分かり、暴れまわって多少スッキリした虎太郎は、お腹が減っていたので蓮の問いかけに頷いた。
慣れた手つきで虎太郎にご飯を食べさせてくれる蓮に甘えつつ、虎太郎は用意された朝食を完食した。
「よし、全部食べれたな。今日、俺は出かけるけど、宮下を呼んでるから」
「ワン(うん)」
返事をした虎太郎は蓮の膝から床に飛び降りた。犬の姿のままでもお留守番はできると思ったが、蓮が心配しているのが分かったため、受け入れた。出かける準備のため動き回る蓮の後ろを、虎太郎はついて回る。
蓮の後姿を見ながらついて回っていた虎太郎は、突然立ち止まった。
蓮は出かけると言っていた。一体どこに行くのだろう。もしかしたら彼女のところかもしれない、そう考えた虎太郎は蓮の外出を止めるべく、急いで玄関へと向かった。
到着した玄関には虎太郎がいつも履いているスニーカーと、蓮がよく履いている革靴が並べて置いてある。
蓮の革靴の片方を咥えた虎太郎は、踵を返す。廊下を歩くときに爪音が立たないように、ゆっくりと短い4本の足を動かした。蓮の革靴は大きかったため、つま先部分はほとんど引きずるような形で寝室まで持ってきた虎太郎は、開けっぱなしだった扉をくぐりベッド下まで運んだ。
これで大丈夫だ、と安心した虎太郎は、見張るため自分もベッド下に入った。
蓮が取りに来ても渡さないぞと革靴を前足で押さえながら意気込んでいた虎太郎の耳に、玄関の扉が開く音が聞こえた。
慌ててベッドの下から出た虎太郎は、寝室から廊下へ飛び出た。
廊下の先に見える玄関では、蓮が外に出ており、まさに今、玄関扉が閉められるところだった。
廊下の端にたたずんでいる虎太郎を見つけた蓮は「行ってくるな」と言い残し、玄関の扉を閉めた。
閉まる扉の向こう側にいた蓮が履いていたのは、革靴ではなく、靴箱にしまわれていたスニーカーだった――
慌てて玄関まで向かい、鍵を開けようとジャンプして触ろうとするが、もちろんポメラニアンのままの虎太郎には開けることができない。
玄関でウロウロしていると、突然玄関の扉が開いた。
蓮が返ってきてくれたと思った虎太郎は、急いで入ってきた人に突撃すると足にしがみついた。これでもう出かけられないぞと思った虎太郎だったが、鼻に届く匂いがいつもの蓮のものではなかった。
虎太郎が顔を上げて確認すると、しがみついている相手は宮下だった。
「虎太郎くん、1人で寂しかったのかな?」
蓮じゃなくてがっかりした虎太郎は、宮下に抱き上げられリビングまで連れていかれた。
「蓮さんに聞いたんだけど、また、人に戻れなくなっちゃったんだって?」
頷いて返事を返した虎太郎は、ソファに座った宮下の隣で丸くなった。
「虎太郎くん、蓮さんのために凄く頑張ってくれていたみたいだから、疲れちゃったのかな? 蓮さんが新しいアシスタントを入れることを納得してくれたり、別のモデルとの絡みのある撮影もできるようになって、本当に嬉しいよ。ありがとうね。虎太郎くんが色々してくれているのは蓮さんから聞いてるよ」
褒めながら背中を撫でられ、虎太郎は嬉しくなって尻尾を振りながらワンと鳴いた。
「ただ、今まで人と全然関わってこなかった蓮さんがいきなり関わってきたことで、勘違いをした人も現れてね……この前も週刊誌に勝手に恋人がいるだなんて取り上げられてさ、酷いよね」
虎太郎は大きな耳を宮下のほうに動かした。
今、宮下は恋人がいるのは勘違いと言ったのだろうか。目を丸くして宮下を見上げた虎太郎を撫でながら、宮下がさらに言葉を続ける。
「この家に来たこともないのに、自称恋人を名乗る人がたくさんいるんだよ」
本当に蓮には恋人がいないようだ。週刊誌に載っていたのは間違った記事だったのだ。
安心した虎太郎は大きく吸った息を鼻から吐き出した。
詳しい話を聞きたかった虎太郎は、今なら人に戻れるかもと思い、ソファを元気よく飛び降りてカーペットの上をスキップしながら通り、自分の部屋に戻った。
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