【完結】虎太郎君はポメラニアン!

結城れい

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39 ウィンウィンの関係!

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――最近蓮さんが優しい気がする

 元々優しい人ではあったが、それでもどこか冷たい対応をされることが多かった。だが、ドッグランにいったあの日から、なんとなく冷たさが少なくなった気がするのだ。

 いままでは観察するように見られていたのが、優しく見守るような目で見られている気がして、虎太郎はソワソワドキドキしてしまう。

 一体何があったのか分からないが、甘えやすくなって虎太郎にとってはとても嬉しい。
 今まではポメラニアンになれることを気安く他人に言えなかったので、甘えることのできる対象が必然的に両親のみとなっていた。
 だが、虎太郎だって思春期の男だ。ポメラニアンになったからといって、両親に甘えるなんてなかなかできなかった。
 
 なぜか、蓮になら甘えられるのだ。
 蓮は虎太郎を蔑ろにしたことは今まで一度もなかった。虎太郎が何かするたびに呆れたように見てきた事もあったが、それでも対応して助けてくれる。
 虎太郎は、それが無意識に分かっているのかもしれない。
 蓮が優しくなって、虎太郎はますます甘えるようになった。

 積極的にポメラニアンになり、蓮の傍にずっとくっついている。暑苦しいと言われることもなく、蓮について回っても迷惑そうにされることもない。

 蓮の人嫌い克服のためには人間の姿のほうがいいのではないかと思うが、蓮の膝に乗ったり、大胆に甘えることができるのはポメラニアンの方なので、どちらでもいい時はポメラニアンになるようになっていた。

 それに、虎太郎は最近気づいてしまった。
 
――蓮にとって虎太郎はもはや他人ではなくなっているのではないか

 人嫌い克服のためにアルバイトとして虎太郎はやってきたはずだったが、人間の時も蓮が嫌がっている様子を見せたことはない。蓮の中では、虎太郎はもう他人ではなく、宮下と同じような扱いになってしまっているのではないだろうか。
 それならば、虎太郎で行う克服訓練は意味がないのでは……




 色々と考えた末に、虎太郎は蓮を外に連れ出して、虎太郎以外の人と交流を持ってもらうことが一番いいのではないかと閃いた。

 虎太郎がポメラニアンの姿だと、万が一相手が急に蓮に近づいてきたり迫ってきた場合には、吠えて威嚇したり追い払ったりできるはずだ。
 
「蓮さん!」

 虎太郎は夜ご飯を食べているときに、早速考えていたことを蓮に伝えてみることにした。

「なんだ?」
「最近、僕だと蓮さんは慣れてしまっている気がするんです」
「ん? 何の話だ?」
「他人嫌いの克服の話ですよ!」
「……ああ」
「そこでですね、僕以外の人と接してみるのがいいと思うんですけど、この前のドッグランの女の人みたいな急に距離を詰めてくる人もいるかもしれないので、僕がポメラニアンになって一緒についていけばいいと思うんです」
「お前がポメラニアンになってついてくると、どうなるんだ?」
「危ない人が近づいてきた場合は、僕が追い払います!」
「――ふふっ、そうか。頼もしいな」
「えへへ、任せてください」

 これで、蓮の人嫌いの克服にもなるし、虎太郎は番犬として一緒にいれるし、まさに一石二鳥だ。虎太郎は大きくうなずいて満足した。

「――あ、でも、そしたら僕のアルバイトってなくなるんですかね?」

 元々、蓮の苦手な人間の姿で接触を増やせるようになることがアルバイトの目的だった。虎太郎が人間ではなく、ポメラニアンのままでいるということは雇ってもらった目的とは違うものになってしまう。そもそも、今の虎太郎では蓮は慣れてしまっているはずなので、人のままでも成立していない。
 お金は必要なので、別のアルバイトをしなくてはならないかと虎太郎は悩み始めた。

「いや、アルバイトは継続でいいだろう」
「え、でも……」
「内容が変わっただけだ。俺の番犬として頑張ってくれるんだろう?」
「もちろんです!」
「ポメラニアンの癒し代として払ってもいいぞ。どっちでもいい」
「癒されてくれてるんですか!」
「ああ」
「嬉しいです」

 蓮が、ポメラニアンとしての虎太郎と接することで癒されているなんて、こんなに嬉しいことはない。

「僕も、蓮さんにポメラニアンの時に甘やかしてもらって、とても嬉しいです。ウィンウィンの関係ってやつですね」
「Win-Winか。まぁ、そうだな」

 虎太郎にとってはそれ以上かもしれない。アルバイトとして継続してもらえるので、蓮といる時間は今まで通り確保できるし、ポメラニアンとしてついて回れる。更に、蓮を癒すこともできるし、虎太郎も甘えることができるのだ。いいことしかない。
 蓮にお金を貰うことは少し申し訳ないが、お金はたくさんあると言っていたので、きっと大丈夫だろう。
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