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しおりを挟む虎太郎はスキップしながらご機嫌に自分のアパートに帰ってきた。
蓮との同居が決まったが、蓮が今住んでいるマンションの住人が他人に蓮が住んでいることを漏らしたことが重要視され、別のマンションに引っ越すことになった。その引っ越し先に虎太郎も一緒に住むことになっているのだ。
蓮に支払う家賃は、今虎太郎が住んでいるぼろいアパートの金額で良いと言われている。
最初はそんなに安い金額ではダメだと虎太郎は反対したが、虎太郎が同居しなかったとしても同じマンションに引っ越すし、金には困ってないと蓮にきっぱりと言われたため甘えてしまっている。
虎太郎のアパートにはあまりものがないので、荷造りは比較的すぐに終わった。宮下がいくつか段ボール箱をアパートに運んでくれたので、そこに入れていくだけだ。
家具や家電もアパートに元々設置されていたものが多く、虎太郎の引っ越し準備は簡単だった。
蓮のマンションは、ものが多くあるようには見えなかったが、如何せん部屋が広いためそれなりに色々なものがある。
虎太郎は蓮の家に行くたびに荷造りを手伝っていたが、箱に詰める色んなものに興味を持ってしまい作業がまったく進まなかったので、蓮から戦力外通告をされてしまい、応援するだけになってしまった。
リビングにドンドンと段ボール箱が積みあがっていき、テンションが上がった虎太郎はポメラニアンの姿で箱の間を走り抜ける。
「キャンキャン(わーい)」
助走して段ボール箱に飛び乗った虎太郎は、少し離れた場所に置いてある段ボール箱に向かって跳んだ。
上手く着地したと思った瞬間、虎太郎の体は箱の中に沈んだ。
「――キュ!(わ!)」
飛び乗った段ボール箱は空で、蓋はガムテープで閉じられていなかったようだ。
段ボール箱にはまってしまった虎太郎は、ジャンプして抜け出そうとするが、箱が狭くて上手く出られない。
箱の縁を爪で引っ搔いていると、虎太郎の体が浮かんだ。
「お前、なにやってんだ」
別の部屋で引っ越し作業をしていた蓮が戻ってきて、虎太郎を救出してくれた。呆れたようにため息をつき、床に下ろされる。
段ボール箱から出してもらった虎太郎は、蓮の足元でお座りしてお礼を伝えた。
「ワン!(ありがとう!)」
「積み上げた段ボール箱が崩れると危ないから、箱の近くには寄るな」
蓮に注意された虎太郎は、頷いてソファのほうに駆け出した。
ソファの近くには最近蓮に買ってもらった、ぬいぐるみがある。
蓮のモデルの仕事についていった際に宮下に撮ってもらった写真を虎太郎はとても気に入っており、よく見返していた。蓮にも見せながら、ライオンみたいでかっこいい、と言っていたら、なぜか蓮がライオンのぬいぐるみを買ってきたのだ。虎太郎がライオン好きだと思ったのかもしれない。もちろんライオンも好きではあるが、かっこいいもの全般が好きなので、特別好きなわけではなかった。ただ、蓮がわざわざ買ってきてくれたぬいぐるみだ。大切に扱っていたはずだったのに――
ソファの近くにある箱へ向かった虎太郎は、箱の中からライオンのぬいぐるみを引っ張り出して、口で咥えてブンブンと振り回した。その後、前足でしっかりと押さえつけて口で引っ張る。何度も引っ張り、振り回したことで満足した虎太郎は、転がってそのまま昼寝を始めた。
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