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「宮下さん、こんにちは! こちらの姿では初めまして。虎太郎です」
「虎太郎さん、こんにちは。イメージ通りの方で安心しました」
虎太郎が自分の部屋から蓮の部屋に荷物を運ぶために、車を出してくれるということで宮下が迎えに来てくれた。
人の姿で会うのは初めてなので、虎太郎は玄関まで宮下を迎えに行き挨拶を交わした。
その後、蓮と一緒に宮下の運転する車に乗り、虎太郎の住んでいるアパートまで向かう。
「とりあえず、対処できるまで当分の間こっちにいることになるから、大学で使うものとか着替えも持ってこないとな」
「はい!」
「虎太郎さんが送られた封筒は、こちらで預かってよろしいでしょうか?」
「大丈夫ですけど、全部はないです。最初の分は捨ててしまっていて……」
「今あるだけで構いませんよ」
「分かりました」
アパートについた虎太郎は、家に入る前にポストを確認することにした。
蓮と宮下も一緒にいてくれるし、今なら何が入っていても大丈夫だと意気揚々と自分のポストへ向かう。
「――!」
ポストを勢いよく開けた瞬間、茶色のものが大量に零れ落ちてきて、地面に散乱した。
「虎太郎、大丈夫――」「セミの抜け殻だ!」
心配して声をかけてきた蓮に、驚いて固まっていた虎太郎は声を張り上げた。
「手紙だけじゃなくて、別のものまでポストに入れるようになりましたか……」
宮下が地面に落ちたセミの抜け殻を指先でつまみながら、眉をひそめた。いくつもの茶色の物体が辺りに散らばっている。直接的に危害を加えるものではないが、嫌がらせは続いているようだ。
「――もしかして、謝ろうとしていたのかな?」
「……は?」
「……え?」
虎太郎が、地面に落ちずにポストに入ったままになっているセミの抜け殻を見つめながら、ポツリと呟いた。言葉の意味が分からずに固まっている2人に対し、虎太郎は目をキラキラさせながら振り向いた。
「こんなにたくさん集めてきてくれるなんて!」
「……いや、あの、これも嫌がらせかと……」
「……え? そうなの?」
3人は見つめあったまま、数秒固まった。
「――とりあえず、このセミの抜け殻は近くの茂みにでも捨てましょうか……」
「え、捨てちゃうんですか? こんなにあるなら、カーテンにつけ放題なのに!」
「――おい、俺の家でそんなことをするな。全部ここで捨てろ」
虎太郎はしょんぼりしながら、セミの抜け殻を集めてアパートの近くにある茂みに捨てに行った。蓮の家にお世話になるのなら、家主のいうことは聞かないといけない。虎太郎はたくさんあるセミの抜け殻を名残惜しげに眺めた。
全部はダメだけど1つだけなら――そう思った虎太郎は一番大きくて立派なものを1つだけ、潰れないように注意しながらポケットにそっと入れた。
虎太郎がポストの前に駆け戻ると、蓮と宮下がセミの抜け殻以外の物を確認しているところだった。2人の手にはいつもの白い封筒が見える。宮下が白い封筒の中身を確認しながら虎太郎に声をかけてきた。
「虎太郎さん、やっぱり嫌がらせは終わってないようですよ」
「そうみたいですね」
「――なぁ、お前。リュック見せてみろ」
「リュックですか? 分かりました」
背負っていたリュックを下ろそうとした虎太郎に、蓮が「やっぱりいい」と返してきたので、虎太郎は首を傾げた。
「ポケットの中身出せ」
「――え゛!」
「はぁ、やっぱりか。全部捨ててこい」
「1個だけでもダメですか?」
「ダメだ」
早々に見破られてしまった虎太郎は、ごめんなさいと素直に謝って、ポケットの中に入れていた大きいセミの抜け殻も捨てに行った。
「蓮さん、よく分かりましたね」
捨てに行った虎太郎の背中を見送りながら、宮下が蓮に話しかけた。
「残念そうに捨てに行ったのに、戻ってきたときに元気だったからな」
「なるほど……。よく見てますね」
「……何が言いたい」
蓮に睨まれた宮下は、慌てて口を閉じた。
「虎太郎さん、こんにちは。イメージ通りの方で安心しました」
虎太郎が自分の部屋から蓮の部屋に荷物を運ぶために、車を出してくれるということで宮下が迎えに来てくれた。
人の姿で会うのは初めてなので、虎太郎は玄関まで宮下を迎えに行き挨拶を交わした。
その後、蓮と一緒に宮下の運転する車に乗り、虎太郎の住んでいるアパートまで向かう。
「とりあえず、対処できるまで当分の間こっちにいることになるから、大学で使うものとか着替えも持ってこないとな」
「はい!」
「虎太郎さんが送られた封筒は、こちらで預かってよろしいでしょうか?」
「大丈夫ですけど、全部はないです。最初の分は捨ててしまっていて……」
「今あるだけで構いませんよ」
「分かりました」
アパートについた虎太郎は、家に入る前にポストを確認することにした。
蓮と宮下も一緒にいてくれるし、今なら何が入っていても大丈夫だと意気揚々と自分のポストへ向かう。
「――!」
ポストを勢いよく開けた瞬間、茶色のものが大量に零れ落ちてきて、地面に散乱した。
「虎太郎、大丈夫――」「セミの抜け殻だ!」
心配して声をかけてきた蓮に、驚いて固まっていた虎太郎は声を張り上げた。
「手紙だけじゃなくて、別のものまでポストに入れるようになりましたか……」
宮下が地面に落ちたセミの抜け殻を指先でつまみながら、眉をひそめた。いくつもの茶色の物体が辺りに散らばっている。直接的に危害を加えるものではないが、嫌がらせは続いているようだ。
「――もしかして、謝ろうとしていたのかな?」
「……は?」
「……え?」
虎太郎が、地面に落ちずにポストに入ったままになっているセミの抜け殻を見つめながら、ポツリと呟いた。言葉の意味が分からずに固まっている2人に対し、虎太郎は目をキラキラさせながら振り向いた。
「こんなにたくさん集めてきてくれるなんて!」
「……いや、あの、これも嫌がらせかと……」
「……え? そうなの?」
3人は見つめあったまま、数秒固まった。
「――とりあえず、このセミの抜け殻は近くの茂みにでも捨てましょうか……」
「え、捨てちゃうんですか? こんなにあるなら、カーテンにつけ放題なのに!」
「――おい、俺の家でそんなことをするな。全部ここで捨てろ」
虎太郎はしょんぼりしながら、セミの抜け殻を集めてアパートの近くにある茂みに捨てに行った。蓮の家にお世話になるのなら、家主のいうことは聞かないといけない。虎太郎はたくさんあるセミの抜け殻を名残惜しげに眺めた。
全部はダメだけど1つだけなら――そう思った虎太郎は一番大きくて立派なものを1つだけ、潰れないように注意しながらポケットにそっと入れた。
虎太郎がポストの前に駆け戻ると、蓮と宮下がセミの抜け殻以外の物を確認しているところだった。2人の手にはいつもの白い封筒が見える。宮下が白い封筒の中身を確認しながら虎太郎に声をかけてきた。
「虎太郎さん、やっぱり嫌がらせは終わってないようですよ」
「そうみたいですね」
「――なぁ、お前。リュック見せてみろ」
「リュックですか? 分かりました」
背負っていたリュックを下ろそうとした虎太郎に、蓮が「やっぱりいい」と返してきたので、虎太郎は首を傾げた。
「ポケットの中身出せ」
「――え゛!」
「はぁ、やっぱりか。全部捨ててこい」
「1個だけでもダメですか?」
「ダメだ」
早々に見破られてしまった虎太郎は、ごめんなさいと素直に謝って、ポケットの中に入れていた大きいセミの抜け殻も捨てに行った。
「蓮さん、よく分かりましたね」
捨てに行った虎太郎の背中を見送りながら、宮下が蓮に話しかけた。
「残念そうに捨てに行ったのに、戻ってきたときに元気だったからな」
「なるほど……。よく見てますね」
「……何が言いたい」
蓮に睨まれた宮下は、慌てて口を閉じた。
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