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24 アホなやつ
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拾ったのは、ポメラニアンのはずだった――
夜にふとコーヒーが飲みたくなり、買いに行った帰り道。蓮は夜風に当たりたくて住んでいるマンションまでの道をブラブラと寄り道しながら歩いていた。
住宅街の片隅に小さな公園があったため、こんな時間じゃ人もいないだろうと思い蓮が足を踏み入れ進んだ時、足元に小さな衝撃があり、手に持ったコーヒーをこぼしてしまったのだ。
慌てて蓮が足元を確認すると、ぶつかった衝撃でコロコロと転がった茶色い毛玉にコーヒーがかかっていた。コーヒーは買ってしばらく経ったものだったため熱くはなかっただろうが、驚いたようでその毛玉は目を見開き蓮を見上げていた。感情が駄々漏れの素直な目だった。
蓮はその目に惹かれたのかもしれない。人間のように醜い感情を隠して近づき、騙そうと蹴落としてやろうとしないただの犬。首輪もしていないし、飼い犬ではなさそうだったので蓮がマンションまで連れて帰って洗ってやると、ドライヤーの途中で気持ちよさそうに寝てしまった。
野良のくせに危機感はどこに行ったんだと呆れながらも、一緒にベッドへ寝かせてやり、久しぶりに自分以外のぬくもりを感じながらその日は眠った。
次の日、蓮が起きると全裸の人間がベッドに座っていた。
とうとう自宅にまで侵入してくる奴が出たのか、と怒りで詰め寄る蓮に、その人間はあからさまに狼狽していた。昨日の犬が自分です、と言ってくる頭がおかしいやつだと思ったが、昨日拾ったはずのポメラニアンは確かに閉め切っていたはずの部屋からいなくなっていたし、何よりも目が似ていた。
目の前で犬になってもらった頃には、正直蓮の怒りは収まっていた。
虎太郎は、ただただ素直でアホな奴だった。
人間のはずなのに、言動にポメラニアンがちらつく。隠しごとができないくらいに素直で、感情のままに動いて話す。見ていて面白く、蓮はこのまま返すのは惜しいと思い、虎太郎にアルバイトの話を持ちかけた。
面白いくらいに食いついてきた虎太郎は、そのまま蓮の家に来るようになった。
蓮が虎太郎に、おやつを用意してやったり、リードを買ったりすると、気持ちがいいくらいすべてに反応を返してくる。準備はまったく苦ではなかった。
ただ、虎太郎はある日を境に、急に眠そうにして元気がなくなった。まぁ、大学生だしテストでもあって勉強してるのかと思っていたら、どうやらそんな簡単なことではなかったようだ。
虎太郎が犬から人間に戻れなくなったのだ。蓮としては、別に犬のままでもいいかと最初は思っていたが、やはり意思疎通がしっかりとれる人間のほうがいいなと思い返したし、そこまで虎太郎を追い詰めることになった事がなんだったのか気になった。
何とか人間に戻れた虎太郎から聞いたところ、ストレスがたまった原因は蓮に関係するものだった。
過激なファンがいることは分かっていたが、まだ蓮に対して直接的な害はなかったし、面倒だったため放置していた。そのツケが、虎太郎に回ったのだ。
謝った蓮に対して、虎太郎は半泣きになりながらも、思いをぶつけてきてくれた。
その「蓮のせいではない」という言葉は、素直な虎太郎の言葉だったからこそ、蓮の心にも直接深くまで入ってきて言葉に詰まり何も言えなかった。気を使ったわけではなく、本当にそう思ったから言ってきたのだろう。
今までのモデル人生において、成功すればするほど嫌がらせも増え、「お前のせいで」と言われ続けてきた蓮がほしかった言葉だったのかもしれない。
感傷に浸っている蓮と反対に、虎太郎は早々に立ち直っていた。驚くほどの早さだ。自分がされたことを忘れたかのように、お泊り会だと騒いでいる。
虎太郎は何も考えていない馬鹿じゃない。ちゃんと考えてはいるがアホなだけだったようだ――
夜にふとコーヒーが飲みたくなり、買いに行った帰り道。蓮は夜風に当たりたくて住んでいるマンションまでの道をブラブラと寄り道しながら歩いていた。
住宅街の片隅に小さな公園があったため、こんな時間じゃ人もいないだろうと思い蓮が足を踏み入れ進んだ時、足元に小さな衝撃があり、手に持ったコーヒーをこぼしてしまったのだ。
慌てて蓮が足元を確認すると、ぶつかった衝撃でコロコロと転がった茶色い毛玉にコーヒーがかかっていた。コーヒーは買ってしばらく経ったものだったため熱くはなかっただろうが、驚いたようでその毛玉は目を見開き蓮を見上げていた。感情が駄々漏れの素直な目だった。
蓮はその目に惹かれたのかもしれない。人間のように醜い感情を隠して近づき、騙そうと蹴落としてやろうとしないただの犬。首輪もしていないし、飼い犬ではなさそうだったので蓮がマンションまで連れて帰って洗ってやると、ドライヤーの途中で気持ちよさそうに寝てしまった。
野良のくせに危機感はどこに行ったんだと呆れながらも、一緒にベッドへ寝かせてやり、久しぶりに自分以外のぬくもりを感じながらその日は眠った。
次の日、蓮が起きると全裸の人間がベッドに座っていた。
とうとう自宅にまで侵入してくる奴が出たのか、と怒りで詰め寄る蓮に、その人間はあからさまに狼狽していた。昨日の犬が自分です、と言ってくる頭がおかしいやつだと思ったが、昨日拾ったはずのポメラニアンは確かに閉め切っていたはずの部屋からいなくなっていたし、何よりも目が似ていた。
目の前で犬になってもらった頃には、正直蓮の怒りは収まっていた。
虎太郎は、ただただ素直でアホな奴だった。
人間のはずなのに、言動にポメラニアンがちらつく。隠しごとができないくらいに素直で、感情のままに動いて話す。見ていて面白く、蓮はこのまま返すのは惜しいと思い、虎太郎にアルバイトの話を持ちかけた。
面白いくらいに食いついてきた虎太郎は、そのまま蓮の家に来るようになった。
蓮が虎太郎に、おやつを用意してやったり、リードを買ったりすると、気持ちがいいくらいすべてに反応を返してくる。準備はまったく苦ではなかった。
ただ、虎太郎はある日を境に、急に眠そうにして元気がなくなった。まぁ、大学生だしテストでもあって勉強してるのかと思っていたら、どうやらそんな簡単なことではなかったようだ。
虎太郎が犬から人間に戻れなくなったのだ。蓮としては、別に犬のままでもいいかと最初は思っていたが、やはり意思疎通がしっかりとれる人間のほうがいいなと思い返したし、そこまで虎太郎を追い詰めることになった事がなんだったのか気になった。
何とか人間に戻れた虎太郎から聞いたところ、ストレスがたまった原因は蓮に関係するものだった。
過激なファンがいることは分かっていたが、まだ蓮に対して直接的な害はなかったし、面倒だったため放置していた。そのツケが、虎太郎に回ったのだ。
謝った蓮に対して、虎太郎は半泣きになりながらも、思いをぶつけてきてくれた。
その「蓮のせいではない」という言葉は、素直な虎太郎の言葉だったからこそ、蓮の心にも直接深くまで入ってきて言葉に詰まり何も言えなかった。気を使ったわけではなく、本当にそう思ったから言ってきたのだろう。
今までのモデル人生において、成功すればするほど嫌がらせも増え、「お前のせいで」と言われ続けてきた蓮がほしかった言葉だったのかもしれない。
感傷に浸っている蓮と反対に、虎太郎は早々に立ち直っていた。驚くほどの早さだ。自分がされたことを忘れたかのように、お泊り会だと騒いでいる。
虎太郎は何も考えていない馬鹿じゃない。ちゃんと考えてはいるがアホなだけだったようだ――
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