上 下
23 / 64

23 お泊り会!

しおりを挟む
「もしかしたら、俺のせいかもしれない」

 しばらく沈黙が続いた後、蓮がボソッと呟いた。
 虎太郎は言われている意味が分からなく、「どうしてですか?」と蓮に聞き返した。虎太郎に嫌がらせをすることを蓮が指示したはずはないのに、自分のせいだと言っている蓮の言葉の真意が掴めなかったのだ。

「俺には過激なファンがいるんだ。そいつらが、お前がこの家に来ていることに気づいて嫌がらせを行った可能性が高い」
「え!」
「手紙に書かれていた『身の程をしれ』や『邪魔者』は、そういう意味だろう。俺は家に誰かをあげることはないからな。今まで来たことがあるのはマネージャーの宮下くらいだ。そんななか、お前が毎日のように来ていたのに気がついて嫌がらせをしてきたんだろう。……悪かったな」
「……そんなの、そんなの蓮さんのせいじゃないです! 謝らないでください!」

 虎太郎は泣きそうになりながら叫んだ。
 魅力あるモデルの蓮にファンがいることは考えれば分かることだ。蓮に会いたいと思う人が、実際に会えている虎太郎のことを良く思わないことだってあるだろう。
 虎太郎が蓮の家に来るときに、もっと気をつけていればよかったのだ。今日のおやつはなんだろうな、としか考えずにワクワクしながら来ていたので、そんなことは考えもしなかった。

 それなのに、何も悪くない蓮に謝らせてしまった。
 撮影スタジオの控室で宮下に言われたことが、虎太郎の頭をよぎる。
 蓮は嫉妬や妬みで嫌がらせをされた事で、他人が苦手になってしまったと話してくれた。あの話を聞いた時、虎太郎は蓮のために頑張りたいと、そう心底思ったのに――

「なんで、お前が泣きそうになってんだよ」
「蓮さんは、悪くないもん……」

 向かい側に座っていた蓮が虎太郎の側まで来て、力なく笑いながら頭を撫でてきた。虎太郎はたまらず蓮に抱きつく。言葉にならない思いが胸の中を渦巻いて、蓮のお腹に頭をグリグリと擦りつける。
 
 本当は虎太郎の方が、蓮を抱きしめて撫でたかった――



「お前の家が相手に知られている以上、嫌がらせが今以上に酷くなったり、危害を加えてくる可能性もある。セキュリティ面の強いこの部屋に一時的に避難して来い。ここも近いうちに引っ越さねぇとな」
「お泊り会ですか!」
「……は?」
「蓮さんの家でお泊り会をするんですね!」

 蓮の家に泊まると聞いて喜んでいる虎太郎を、呆れた顔で蓮が見てきた。

「お前、俺の話聞いていたか?」
「はい!」
「……そうか。落ち込んでいたお前は、どこに行ったんだ?」

 何をこの部屋に持ってこようか、と考え込んだ虎太郎を見て、蓮はため息をつきながら聞いてきた。
 あの時落ち込んで、人間に戻れなかったことが嘘のように虎太郎は元気いっぱいだ。少し考えた後、虎太郎は笑いながら答えた。

「蓮さんにお話しできたら、元気になりました! 最初は、なんでこんな嫌がらせをされているのか分からなくて怖かったんですけど、蓮さんと一緒に遊べているからだと分かったら、納得できたんです」
「――そっか。まぁ、遊んでるわけじゃないけどな」

 虎太郎にとって、蓮はとても大きい存在になっていた。おやつが貰えなくても、遊んでくれなくても一緒にいたい。

 蓮は、もし自分に関係のないことで虎太郎が悩んでいたとしても、きっと解決するために手を貸してくれただろう。
 とても優しい人で、虎太郎を守ってくれる人。だけど、虎太郎も蓮を守りたいし力になりたいと思う。

 虎太郎は、今ならどんな大きい犬が相手でも吠え返して追い払える気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

処理中です...