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 虎太郎は息苦しさに目が覚めた。

「――んんっ」

 眉を寄せうめいた虎太郎は、首元に手を伸ばし、首に巻きついた触り心地の良い布を引っ張る。
 手に持った黒色のスカーフが目に入った虎太郎は一気に目が覚めた。

「人間になれてる!」

 そのまま勢いよく飛び起きた虎太郎は、部屋を見渡した。リビングのソファの上で寝ていたはずだが、起きた場所は寝室のベッドの上だった。
 きっと蓮が眠った自分を運んでくれたんだろうと思った虎太郎は、急いで寝室を飛び出してリビングへ走る。
 リビングの扉を開けると、蓮がソファのいつもの場所でパソコンを触っているのが見えた。
 その姿が見えた瞬間、感情が高ぶり、虎太郎は蓮に向かって走った。

「蓮さん!」

 走った勢いのまま、蓮に飛びつく。

「――ぐっ、お前、服――」
「人間に戻れた!」

 半泣きで抱き着いた虎太郎の背中を撫でて、「良かったな」と声をかけてくれた蓮に、虎太郎は安心してそのまま泣いてしまった。




「――落ち着いたか?」
「……うん」

 片手にスカーフを持ち、全裸で突撃してきた虎太郎を慰めていた蓮は、近くにあった自分の上着を虎太郎の体にかけた。
 思う存分泣いて冷静になった虎太郎は、犬の感覚のまま服も着ずに蓮に飛びついた自分の姿が今さら恥ずかしくなり、蓮に抱き着いた状態から顔を上げられないでいた。

「温かい飲み物入れてやるから、服着てこい」
「……うん」

 体にかけてもらった上着に包まれた虎太郎は、その状態のまま服を着るために脱衣所へ向かった。蓮の上着は虎太郎には大きすぎたが、蓮の匂いがして安心するのでとても気に入ったため、虎太郎は自分の服を着た上から蓮の上着を羽織ってリビングへ戻った。

「――上着、まぁ、いいか」
「ん?」
「ほら、お前が好きなカフェオレだ」
「わーい! ありがとうございます」

 自分の毛色と同じ茶色の美味しい飲み物。大好きなカフェオレを出してもらい、虎太郎はご機嫌に飲んだ。
 コップの半分程度飲んだところで、蓮が声をかけてきた。

「それで、お前がそんなストレスがかかったことって、なんだったんだ?」

 ポストに入れられる封筒のことでストレスがかかって人間に戻れなかったはずだったのに、人間に戻れないこと自体に混乱して、尚且つ蓮の家で過ごして仕事にまでついていったことで、虎太郎の頭から完璧に飛んでしまっていた。

「――そうでした」
「そうでしたって、お前……」

 言われたことで思い出し落ち込んだ虎太郎を見て、蓮が呆れたように言ってきた。

「それで、なんだったんだ?」
「実は――」

 虎太郎は、家のポストに差出人不明の封筒が入るようになったこと、中の手紙には赤い文字で酷い言葉を書かれていたこと、カミソリの刃らしきものまで入れられるようになってストレスが限界になってしまったんだろうことを蓮に話した。
 蓮は腕を組んで黙って話を聞いていたが、虎太郎の話が終わると1つだけ質問をしてきた。

「ポストに封筒が入るようになったのは、俺の家に来るようになってからか?」
「え? ……んー、そうかもしれないです」

 確かに、蓮の家にバイトで来るようになり、しばらくしてポストに封筒が入るようになったが、何か関係があるのだろうかと不思議に思った虎太郎は首を傾げた。
 虎太郎の返事を聞いた蓮は、眉を顰め腕を組んだまま黙って考え込んでいたので、虎太郎は残ったカフェオレを飲み干した。
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