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18 お留守番

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 宮下の運転する車に乗ってたどり着いたのは、高層ビルだった。見上げるような高さの建物に2人と1匹は入っていく。

 控室らしい部屋に入ると、ようやく虎太郎は床に降ろされた。初めての場所に楽しくなった虎太郎は、部屋中を駆け回る。フンフンとあちこち匂いを嗅いでいると、蓮に回収された。

「お前は、大人しくできんのか……」

 抱えられた虎太郎が振り返ると、蓮の呆れた顔が目に入った。抱えられて落ち着いた虎太郎を確認した蓮は、再び床に降ろした。

「宮下、こいつ見張っとけよ」
「ええ、任せてください。虎太郎さんは元気ですね」

 宮下が大人しくお座りしている虎太郎に近づきしゃがみ込む。

「撫でてもいいですか?」
「ワン!(うん!)」

 虎太郎は、お腹を上にしてゴロンと床に転がり、宮下が撫でやすいように体勢を整えた。

「わー、フワフワですね。気持ちいいです」
「ワウ(えへへ)」

 宮下に褒められた虎太郎は嬉しくなり、左右に転がりながら尻尾を振る。転がった虎太郎をしばらく宮下が撫でていたが、突然ノックの音がして中断された。

「失礼します。蓮さん、ヘアメイクに来ました」
「ああ、菊池きくちか」

 虎太郎たちのいる部屋に入ってきたのは、頭の後ろで黒髪をお団子にしている女性だった。

「え、ポメラニアンじゃない! かわいい! この子、蓮さんのペットですか?」
「……ああ、虎太郎だ」
「虎太郎ちゃん! 撫でたいのは山々なんだけど、ヘアメイクしてからだなー」

 こちらを見てくる菊池を見返しながら虎太郎はひと吠えした。

「ワンワン(こんにちは。なでてもいいよ)」

 菊池は名残惜しそうに虎太郎から目を離すと、蓮に目線を向ける。

「蓮さん、まだ他の人は無理そうですか? 若い子が勉強のために一緒に入りたいと言ってるんですが……」
「無理」

 蓮は即座に断り、それを聞いていた宮下が菊池に話しかけた。

「今、蓮さん色々試してるみたいなんで、もう少ししたら大丈夫になるかもしれないですよ」
「あら、そうなの? やっぱり、ヘアメイクも私1人だけじゃ何かと心配なのよね。蓮さん頑張ってね!」
「……ああ」

 虎太郎は椅子に座った蓮を見上げた。3人の会話を聞いたところによると、蓮は菊池も大丈夫なようだ。
 菊池が持ってきたバックから色々と取り出し、蓮の顔に化粧をし始めたので虎太郎は驚いた。虎太郎は今まで化粧というものをしたことがなく、女の人がするものだと思っていたのだ。都会は男性でも化粧をするのかと感心しつつ、やり方を見ておこうと菊池の手を観察していたが、まったく分からなかった。

 しばらくすると、ヘアメイクが終わった蓮が立ち上がった。
 部屋を出ていこうとするので、虎太郎もついていこうとしたが、部屋の扉付近で止められる。

「待て。虎太郎は、この部屋でお留守番だ」
「ウウー(ええー)」

 撮影までついていこうとしていた虎太郎は不満げに唸る。宮下が虎太郎を抱き上げて扉の傍から離した。

「ワウー(ぼくもいく)」
「虎太郎さんは、私と一緒にこの部屋で待っていましょうね」

 虎太郎は、手足をバタバタと動かして訴えるが、蓮は無視して菊池と一緒に部屋を出て行ってしまった。
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