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12 嫌がらせ

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 自分の家に帰ってきた虎太郎は、恐る恐るポストを開いた。

――今日も入っている

 最近は毎日のように、差出人不明のあの白い封筒がポストに入っており、書かれている内容もだんだんと過激なものになっていた。

 最初は赤のインクが付いたものだったのに、最近では『身の程をしれ』や『邪魔者』なんて言葉が赤文字で書かれているのだ。
 一体自分が誰に嫌がらせをされているのか見当もつかない虎太郎は、悲しくなる。
 相手が何に怒ってやっているのかも分からず、どうすれば止めてくれるのかも分からない。
 それに、相手は虎太郎の部屋の番号も分かっているのだ。これだけ怒っている人が近くにいるという環境に怖くなり、虎太郎は安心して眠れなくなってしまった。

 もしかしたら、今ポストに封筒を入れに来ているのかもしれない。住所が書いていないということは、自分でポストに入れているのだ。封筒を入れたついでに部屋まで来られたらどうしよう、と考えるようになり、虎太郎は毛布を頭までかぶりながら、眠れない日々を送っていた。


 蓮の家は安全だと思えて、バイトで行った時はよく眠るようになった。蓮の近くによって、人の体温や気配を感じながらだと眠れるが、やはり家に1人だと眠れない。

「お前、最近寝不足なの?」
「……クゥ?(……ん、なんていったの?)」
「いや、何でもない。寝てな」

 背中を撫でられているのを感じながら、虎太郎は眠りについた。




「そろそろ、仕事に戻らないとな」

 スマホを触っていた蓮が、嫌そうな顔をしながらそう呟いた。眠りから目覚め、3時のおやつを笑顔で食べていた虎太郎は慌てて目線を蓮に向けた。

「毎日のおやつがなくなっちゃうってこと?」
「そっちかよ!」

 呆れたようにこちらを見てくる蓮に、虎太郎は手に持っていたおやつへ目線を戻した。今日は焼き色が綺麗についたマドレーヌだ。

「だって……。ほんとにおいしいんだもん」
「俺だってもっと休んでいたいけど、マネージャーがうるせえからな。休みの日か、時間が空いた日には連絡するから、用事がなかったら来い」
「……うん。分かった」
「お前、最近忙しそうだしな。結構眠そうにしていたから、ちょうどいいだろ」
「……うん」

 眠そうにしていたことが蓮に気づかれており、虎太郎は驚いた。確かに、この家に来た時には寝てばかりいたけど、蓮はあまり他人の行動について気にしない人だと思っていたのだ。
 
 美味しいおやつも食べれなくなるし、安心して寝れる場所も頻繁にはこれなくなってしまう。手紙の件は本格的にどうにか対策しないと、と虎太郎は覚悟を決めた。
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