【完結】虎太郎君はポメラニアン!

結城れい

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08 ボール遊び!

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「お邪魔します」

 預かっている鍵を使って、高級さにまだ慣れないマンションの部屋に入った。ここに来るたびに、エントランスで誰かに止められないかとドキドキしている。
 
 虎太郎が蓮のところでアルバイトをするようになって、1週間ほどが経った。
 今のところ、虎太郎にとって大変なことは1つもない。強いて挙げるとすれば、高級そうな家具や部屋を壊したり傷をつけてしまわないか心配なところだ。
 蓮からは「特に気にするな」とは言われているが、気にしないのは無理だ。

 脱衣所に入り、服を脱いで綺麗にたたんだ後、虎太郎はポメラニアンになり器用に前足で扉を開けた。廊下をチャチャチャッと音を立てながら進み、リビングまでたどり着く。

「ああ、来たか」

 ソファには蓮が座っており書類を読んでいたが、虎太郎の足音に気づき顔を上げた。

「今日はいいものを仕入れてきたぞ」

 そう言って蓮が取り出したものを見た瞬間、虎太郎の目が輝いた。
 彼の手に握られていたもの。それは手のひらに納まるほどの小さなボールだった。

「ほれ」

 蓮の手から離れたボールは放物線を描いて、向こう側へと飛んでいく。
 虎太郎はその場から反射的に走り出した。リビングの床に敷かれているフワフワなラグの上を駆け抜ける。
 壁に当たりバウンドしたボールを捕まえようとして、方向転換に失敗した虎太郎はそのまま壁に激突した。

「ギャン(いたい)」
「ははははっ。ドンくさすぎるだろ」

 痛みに耐えながら何とか起き上がり、見失ったボールを首を左右に振って探す。部屋の端のほうに転がっているのを発見し、咥えて蓮のもとへ戻る。

「よしよし。いい子だ」
「ワン(はい)」
「はい、もう一回」

 次は逆方向に投げられたボールを追いかける。
 テレビの裏側に吸いこまれていったことを確認し、そこに迷わず飛び込んだ。狭い場所に体をねじ込み手足をバタつかせて、何とか回収できたボールを持っていく。

「げほっ、ちょ、ほこりまみれじゃねーか。尻尾を振るな。余計ほこりが舞うだろうが」 
「ワンワン(もってきた)」

 しっかりとボールを回収してきたのに全然褒めて貰えなかったので、足に頭突きをしてアピールする。

「ああ、はいはい。えらい、えらい」

 しばらくボールで遊んだ後はブラッシングをしてもらう。使ってあるブラシがとてもいいものなんだろう。ほど良い刺激でとても気持ちがよく、虎太郎はブラッシングの度に眠くなる。

 ブラッシングの後は一度人間になるため、脱衣所に行って服を着なおしてリビングへ戻る。
 そして、適度な距離を保ちながら、蓮と向かい合って座り、お互いに作業をするのだ。別に何をしてもいいと言われているので、虎太郎は大学のレポートや課題を行っている。
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