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虎太郎が実家を思い出しながら寂しくなっていると、ポメガバースについての話を聞き終えた男は黙って何かを考えるように目をつぶった。
「――よし、お前、バイトしない?」
「……え? バイトですか?」
「今、何かやってんの?」
「居酒屋のホールでアルバイトしています」
「そこはやめろ。時給2倍出すから、俺のとこで働け」
「2倍も! やったー!」
アルバイトの時給の2倍もらえるということは、今の半分の時間働いただけで同じ金額がもらえるということだ。なんて魅力的な話なんだろうと思い、虎太郎は喜んで頷いた。
「……いや、仕事内容聞いてないのに喜ぶなよ。やばい事だったらどうするんだ」
「あ、そうですね。僕は何をするんですか?」
呆れたように言ってくる男の言葉に、確かにと思い素直に聞き返した。
「はぁ……。俺はモデルやってるんだけど、人間が大嫌いでな。近くに寄られるのも触られるのも無理だ。昨日も撮影の時に変な女にからまれてシカトしてたらキレられたしな。マネージャーからどうにかしろってずっと言われていたんだよ。撮影でどうしても他人と絡まなきゃなんねぇからな。そこでお前だ」
「僕?」
「ああ、犬のお前となら距離が近くても触っても大丈夫だ。次に犬っぽい人間のお前で慣れれていけばいい」
「ふんふん。なるほど」
彼の人間嫌い克服のために、ポメラニアンになれる虎太郎が抜擢されたようだ。犬の姿になって近くにいるだけなんて虎太郎にとってはまったく苦ではない。こんなことでお金を貰うなんて少し心苦しいなと思いながらも頷いた。
「机を挟んでいるとはいえ、昨日会った――いや、人間バージョンは今日か。今日会ったばかりの奴とこの距離で向かい合って話せるのはレアケースだ。犬のイメージが強いのか?」
「お兄さんは、なんで人が嫌いなんですか?」
「俺は黒崎蓮だ。蓮でいい。俺はイケメンだろ?」
「はい」
「……まぁ、男女両方ともに嫉妬されたり妬まれたり色々あってな」
「イケメンな人って大変なんですね」
「……」
「内容は分かりました。具体的には、僕は何をしたらいいんですか?」
「ひとまず、犬になって近くにいろ」
そう言われて、虎太郎はポメラニアンになって着ていた服の中から抜け出し蓮に近寄った。
「ワン」
「よしよし。犬なら全然大丈夫なんだよな」
抱き上げて蓮の膝の上に降ろされ、頭から背中にかけて撫でられる。毛を触られる心地よさに目をつぶって堪能する。
とりあえず、居酒屋のアルバイトはやめることを伝えて、今シフトに入っている分まで頑張ろうと思いながら虎太郎は尻尾を振った。
「――よし、お前、バイトしない?」
「……え? バイトですか?」
「今、何かやってんの?」
「居酒屋のホールでアルバイトしています」
「そこはやめろ。時給2倍出すから、俺のとこで働け」
「2倍も! やったー!」
アルバイトの時給の2倍もらえるということは、今の半分の時間働いただけで同じ金額がもらえるということだ。なんて魅力的な話なんだろうと思い、虎太郎は喜んで頷いた。
「……いや、仕事内容聞いてないのに喜ぶなよ。やばい事だったらどうするんだ」
「あ、そうですね。僕は何をするんですか?」
呆れたように言ってくる男の言葉に、確かにと思い素直に聞き返した。
「はぁ……。俺はモデルやってるんだけど、人間が大嫌いでな。近くに寄られるのも触られるのも無理だ。昨日も撮影の時に変な女にからまれてシカトしてたらキレられたしな。マネージャーからどうにかしろってずっと言われていたんだよ。撮影でどうしても他人と絡まなきゃなんねぇからな。そこでお前だ」
「僕?」
「ああ、犬のお前となら距離が近くても触っても大丈夫だ。次に犬っぽい人間のお前で慣れれていけばいい」
「ふんふん。なるほど」
彼の人間嫌い克服のために、ポメラニアンになれる虎太郎が抜擢されたようだ。犬の姿になって近くにいるだけなんて虎太郎にとってはまったく苦ではない。こんなことでお金を貰うなんて少し心苦しいなと思いながらも頷いた。
「机を挟んでいるとはいえ、昨日会った――いや、人間バージョンは今日か。今日会ったばかりの奴とこの距離で向かい合って話せるのはレアケースだ。犬のイメージが強いのか?」
「お兄さんは、なんで人が嫌いなんですか?」
「俺は黒崎蓮だ。蓮でいい。俺はイケメンだろ?」
「はい」
「……まぁ、男女両方ともに嫉妬されたり妬まれたり色々あってな」
「イケメンな人って大変なんですね」
「……」
「内容は分かりました。具体的には、僕は何をしたらいいんですか?」
「ひとまず、犬になって近くにいろ」
そう言われて、虎太郎はポメラニアンになって着ていた服の中から抜け出し蓮に近寄った。
「ワン」
「よしよし。犬なら全然大丈夫なんだよな」
抱き上げて蓮の膝の上に降ろされ、頭から背中にかけて撫でられる。毛を触られる心地よさに目をつぶって堪能する。
とりあえず、居酒屋のアルバイトはやめることを伝えて、今シフトに入っている分まで頑張ろうと思いながら虎太郎は尻尾を振った。
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