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しおりを挟むチュンチュンと鳥のさえずりが聞こえ、虎太郎は目を覚ました。
「あれ……?」
見慣れない天井が目に入る。横を見るとすごく美形の男が寝ていた。黒くて肩につくほどの長さの艶やかな髪。まるでモデルのような人が目を閉じて眠っている。
昨日のことを思い出した虎太郎は血の気が引いた。体は今は人間に戻っているが、男は昨日ポメラニアンを拾って家につれて来たと思っているはずだ。しかも、もちろん服は着ていない。全裸だ。
きっと犬用にかけてくれていたと思われるブランケットは、人間には小さく虎太郎の下半身しか隠せていない。
朝起きたら、隣に裸の男がいたらビックリするよな、と考えていると、突然高い電子音が部屋に響き渡った。
「うわっ」
男の枕元に置いてあった携帯からなっているようだ。寝ていた男が目をつぶったまま、手を伸ばし音を止めた。しばらく眉間にしわを寄せながら固まっていたが、少しずつ目が開いていく。
男と目が合った虎太郎は、咄嗟に挨拶をする。
「お、おはようございます」
「…………は?」
目を見開き、驚きに固まっていた男は、次の瞬間急いで体を起こした。
「誰だてめぇ」
睨みながら、威圧感のある低い声で問われ、虎太郎は咄嗟に正座をして姿勢を正した。
「えっと、僕は、昨日のポメラニアンです!」
「……は?」
あたりを見渡して昨日の犬を探した男は、何言ってんだこいつ、といった感じで再度こちらを睨みつける。
「出ていけ」
「……え」
「さっさとこの家から出ていけ!」
怒鳴ってきた男に慌てた虎太郎は、ベッドから転がり落ちた。
「いててて」
「――チッ」
舌打ちをした男は嫌悪感を露わに、虎太郎に告げる。
「なんで裸?」
「あ、えっと、昨日犬だったもので……」
「それ、マジで言ってんの?」
「え、どれですか?」
「てめえが犬って話だよ」
「は、はい! 本当です……」
怒鳴られて、震えながら小声で返事を返す。
昨日、お風呂に入れて優しく毛を乾かしてくれた人と同一人物だとは思えない。どうしてここまで怒鳴られているのか分からず、床に座ったままの虎太郎は動けなかった。
「……じゃあ、今すぐ犬になってみろよ、できんだろ?」
「わ、分かりました。んんっ……」
ポメラニアンには、なろうと思えばいつでもなれる。虎太郎は目をつぶり、ポメラニアンの自分を想像して力を入れる。
次に目を開けたときには、視線が低くなっていた。顔を上げると驚愕した表情の男が見える。
「ワン(なりました)」
「…………まじかよ」
しばらく見つめあっていると、驚愕から帰ってきた男が虎太郎を呼ぶ。
「こっち来てみろ」
「ワン(はい)」
慌てて、ベッドに飛び乗り男のもとへ近づく。近寄った虎太郎を抱き上げた男はそのまま体を調べ始めた。
「え、本当に昨日の犬じゃん……」
足を動かしたり、尻尾や耳を触られたり、虎太郎は抵抗せずにされるがままだ。しばらくそうして調べた後、男は虎太郎が犬になれるという事を一応信じたようだ。
「人間に戻って」
「ワン……はい」
「すげぇ」
人間に戻った虎太郎を見ても、今度は怒鳴ることはなかった。まじまじと見られて恥ずかしくなる。
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