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しおりを挟むテテテテテテテテ
街灯に照らされた夜の道に、軽い足音が響く。
犬丸虎太郎は自分の持てる全速力で夜の公園まで走っていた。
短い足を必死に動かしながら前へ前へと進む。
いつもであれば横に避ける公園の入り口に設置されているU字型のポールも、今はそのまま下を潜って走り抜ける。
公園についた虎太郎はそのままお気に入りの砂場にダイブした。
「ワフー」
思わず声が漏れ出るのも気にせずに、そのままゴロゴロと砂場を転げまわる。
虎太郎の薄茶色の毛並みが土で汚れていく。
――そう、虎太郎は今、ポメラニアンになっていたのだ
砂場で遊んだだけでは飽き足らず、立ち上がると公園の中央に設置されている滑り台まで向かった。カラフルな色合いが夜でも目立つ。
階段を短い前足と後ろ足を使って器用に登りきると、下にいたときよりも視線がグッと高くなる。
滑り台の上から辺りを見渡すと、公園全体がよく見える。真ん中に滑り台があり、端にはブランコと鉄棒、そして先ほど遊んでいた砂場がある小さな公園だ。道路側に街灯がいくつかついているが、逆側は少し暗くて虎太郎のいる場所からはよく見えない。ただ、今は夜なので虎太郎以外にはもちろん人も犬もいない。まるで自分だけの公園のようだ。
滑り台の上でもふもふな胸を張った虎太郎は、そのまま滑り落ちていく。
スピードに乗って落ちていき、綺麗に着地を決める。
「キューン」
上から見渡す景色と滑る際に毛に当たる風が楽しくて、何度か登って滑ってを繰り返す。
しばらく夢中で遊んでいたが、だんだんと喉が渇いてきた。この公園には入り口側に水道が設置されているため、そこまで走って向かう。
水道の裏側までたどり着き、勢いよく反対側に回ろうとした虎太郎は体に衝撃をうけた――
「キャン」
なんの予測もできていなかったため、受け身も取れずそのまま地面に転がる。
「うわっ、なに?」
転がったまま混乱している虎太郎の背中に何か液体がこぼれてきた。ビックリして飛び上がり、耳をピンと立ち上げる。
「犬?」
声のした方を仰ぎ見ると、真っ黒な男が立っていた。
上下の洋服は真っ黒だし、帽子も真っ黒。おまけにサングラスまでも真っ黒だ。
どう見ても怪しい人に虎太郎は慌てて逃げようとするが――男が動くほうが早かった。
「ごめんな、びっくりしてコーヒーこぼしちまったわ」
虎太郎のお腹に手を回し、男はそのまま片手で持ち上げた。逃げるために走ろうとしていた虎太郎の足は宙を蹴る。
「お前、体汚れすぎじゃね? 野良か?」
持ち上げて首のあたりを確認してくる男に向かって、虎太郎は吠える。
「ワンワン(はなせー)」
「とりあえず、連れて帰って洗うか」
男の身長は結構高く、落とされたらまずいぞ、と思った虎太郎は小脇に抱えられたまま大人しく連れていかれた。
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