女装悪魔のレイラさん

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レイラさん、降臨4

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 翌朝、1時間程歩いてようやくウィーブラの街へ到着した。
 坂道を上った丘の上から見下ろすと、運送の中継地として栄えているというルネスの話通り、結構大きな街だった。
 街はモンスター対策と思われる石垣の壁で囲まれている。といってもそれほど高いものではないから丘の上から十分街の様子を見ることができた。それでも丘からでは詳しい内部の様子までは見れなかったものの、たくさんの洋風な住宅や所々大きな建物が建てられているのは良く見える。

 街の入り口には門があり、鎧を着て槍を持った門番の男が二人立っていた。領主から派遣された警備隊の人達で、ここで人の通行の管理をしているそうだ。その審査はそんなに厳しいものではなく、名前と街に来た要件を話せば快く通してくれた。

「ふ~っ、やっと着きました。ここまでこれたのはレイラさんのおかげです、ありがとうございました」

「本当にようやくだな。あの距離を一人で歩こうとしていたとは改めて恐れ入る。ところで”お姉ちゃん”はもうおしまいか?」

「そ、それは人前ではまだ恥ずかしいので…二人きりの時に…//」

 俺がニヤニヤしながら尋ねるとルネスはもじもじしてそう答えた。村の年長者でこれまでお姉さんをしていた分、人前では緊張してしまって上手く甘えることができないのだという。かわいい奴め。俺はルネスの頭をぐりぐりと撫でた。

「それでここからはどうするんだ? 仕事を探すんだったよな」

「はい、そのためにこの街の冒険者ギルドに行きます。何か困ったことがあれば冒険者ギルドへ、と相場が決まってますから。レイラさんは?」

「そうか、オレは少しこの街を見て回ろうと思う。恐らく当分この街に住むことになりそうだし、どこに何があるか把握しておきたい」

 『セクト・ストーリー』もそうだし、他のRPGゲームをする時もそうなのだが、俺は街に着いたらまず隅々まで歩き回ってすべての住民に話しかけるタイプのプレイヤーだった。地道なプレイとも言うが、手間をかける分キャラをレベルアップすることができるし、思わぬ重要情報や便利アイテムを入手することもある。ウィーブラの街は来たばかりで何も分からないので、まずは一通り見て回って仕事なり情報なりを得ようと思った。

「分かりました。私は先にギルドへ行っていますね」

「ああ、また後でな」

 ということで、門の近くでルネスと別れ、街をぶらぶら散策することにした。
 まずは街に入ってすぐに見える大通りを進む。食材や服、武器や防具などを売っている店が立ち並び、多くの人で賑わっている。バザールといった感じだ。歩きながら食べられる軽食を販売している出店も多く出ていて、肉や魚が焼けるいい匂いが漂ってくる。どれもめちゃくちゃ美味そうだし、その品揃えもいい。歩くだけで色々なものを目にすることができるのは運送の中継地の街の魅力ということか。
 是非とも食べてみたいところだが、今はお金を持っていないので残念ながら断念する。

 しばらく大通りを歩くと、建物が開けた広場に出た。中央に綺麗な噴水とそれを囲むように木のベンチが置かれ、ちょっとした公園のような場所だ。
 噴水前のベンチに腰掛け、タバコをくわえて火を付ける。ちょっと休憩だ。
 ふーっと煙を吐き出して周りを見渡してみると、色んな人がこの広場を利用しているようだった。子供達が元気に走り回って遊んでいるし、お年寄りが散歩している姿も見かける。違う方を見れば恐らく恋人だろう若い男女が腕を組んで歩いているし、鎧を着こんだ冒険者らしき人達が集合場所に使っているのも見えた。

「失礼お嬢ちゃん、隣いいかの?」

「ん?」

 不意に死角から声をかけられた。声の方へ振り返ると、杖をついたお爺さんが立っていた。顔がよぼよぼで頭髪も薄い。この街に住んでる散歩中のお爺さんだろうか。
 そのお爺さんは振り返った俺の顔を見て驚いた様子だった。

「こりゃたまげた。あんたエルフの人かい。こりゃもしかしたら儂より年上だったかの?」

「? エルフが珍しいのか?」

 幻影魔法によって俺の姿がエルフに見えているのはいいのだが、俺がエルフだと認識したお爺さんが驚いていることが疑問だった。
 ルネスから、この世界にもエルフ族が存在していることは聞いている。その姿も特徴も、俺達が想像しているものとあまり変わらない。
 森で自然と共に生きている種族で、容姿の特徴は金糸のような美しい髪とピンと気品高く尖った耳、そしてそれらを含めた姿の美麗さだ。非常に長寿であり、300年生きてもその姿は変わらない。保有する魔力量が多く、種として魔法に長けた種族でもある。
 悪魔と違って魔物ではなく、人種として認められているわけだからそんなに驚く必要はないと思うのだが。

「エルフの人は、儂ら人間の前にあまり姿を現さなくなったからの」

「それはまた何故?」

 お爺さんは俺の横に座り、その理由を話してくれた。
 エルフ族や獣人族などのいわば亜人族と人間はかつては良き隣人として共に歩んできたのだが、この50年の間に人間側の価値観が変わり、亜人族を差別するような風潮が広まってしまったとのこと。人間は能力に秀でたものはないものの、種としての数は最も多く、なまじ勢力としては一番だったことが拍車をかけた。この街やアルスラン王国の多くの地域では今でも亜人達を良き隣人として見ているが、風潮がある地域では彼らは冷遇されてしまうし、ひどい所では積極的にさらわれて奴隷にされてしまっているらしい。
 そんなこともあってエルフ族は人間を嫌い、あまり世に出てこなくなったそうだ。

「寂しいものじゃ。儂が子供の頃はエルフの人から魔法や弓での狩りを教わったりしたものじゃが」

「…長寿なエルフとそうでない人間の時間間隔は違う。人間が変わってしまうのに十分な時間でも、エルフにとっては急に豹変したように見えて戸惑ったんだろうな」

 『セクト・ストーリー』でも、エルフ族と人間の寿命の違いについて苦悩する展開があった。人間は全種族の中で最も短命かつ脆弱で、数が多く勢力が強い。多くの人が様々な意見や意思をぶつけあって価値観や文化が形成されていく種の特性が、他種族から見ると異様に見えてそれが度々すれ違いを起こしていた。魔族との関係なんかその筆頭だな。

「そうか、ままならないものじゃな。そういう嬢ちゃん、いやあんたは違うのかの?」

「嬢ちゃんでいい。オレはまあ、色々あって今一人だからな。人間さん達の中で暮らしていきたいと思ってる」

「ほぅ、ではこの街に住むのかの?」

「…まあな。そうすると思う。まだそっちの大通りを歩いただけだが、この街は活気もあって中々いい所だと思った。知り合いもここで仕事を探すらしいからな」

「そうかい、じゃあ何かの縁じゃ。儂が簡単だがこの街を紹介してやろう」

 お爺さんはこの街にある施設を教えてくれた。
 まず仕事を探すなら冒険者ギルドに行くことを勧めた。ルネスが言っていたことと同じだ。そして何か商売をするなら商業ギルドに行って便宜を図ってもらうのがいいとのこと。また、医療ギルドというものもあり、回復魔法が使える治癒士やポーションを作れる薬師が所属していて街の医療を担っているとのこと。
 他にもお爺さん行きつけの飲み屋や飲食店、評判のいい武器屋や安く泊まれる宿、あとはこの街一番の美人さんは誰かなどのお爺さんが知るウィーブラの魅力をたくさん語ってくれた。

「ありがとう爺さん。参考になったよ」

「いやなに、嬢ちゃんがこの街に住んでくれるなら儂も嬉しいからの。もし良かったら街の子供達に魔法や狩りのやり方を教えてやってくれんか」

「魔法はともかく、オレは研究が本職なんでな。狩りの方は期待しないでくれ。だが機会があれば必ず」

 お爺さんからこの街にあるものは大体教えてもらったので、後は自分で見て回ってみる。丘の上から見た通りこの街はかなり大きく全部回れる気がしなかったので主要な施設を教えてもらえたのはありがたかった。
 冒険者ギルドは後で行くとして、商業ギルド、医療ギルドの2つに行ってみた。当たり前だが医療ギルドの周辺には治癒士や薬師が、商業ギルドの周辺には商人がたくさんいた。商人の多くは商品を運ぶための馬車を所有していて、商業ギルドには馬車を駐めるための駐車場的なスペースもあった。
 また、宿や飲み屋、武器屋にも行ってみた。店があるのはあの大通りだけではないようで、お爺さんに紹介してもらった店は街のあちこちに点在していて歩き回ることになった。場所も分かりにくかったので色んな人に聞きながら行った。まあそのおかげで街の人達とたくさん話せたし、様々な場所を見ることができたのでよしとしよう。

 さて、街も見回ったしそろそろ冒険者ギルドに行くか。そう思った時だった。

__ドンッ

「わっ!」

「おっと」

 亜麻色のローブに身を包んだ男の子が俺にぶつかった。少年はぽてっと尻もちをつく。
 黒髪の結構綺麗な少年だ。歳は7~8歳くらい。身長が高い俺から見るとかなり小さく見える。ローブに包まれていて良く見えないが、レザーというやつだろうか、皮の鎧を着て腰に短剣を下げている。冒険者の少年のようだ。

 俺はしゃがんで少年と目線を合わせると、彼の頬に手を添えて顔を近づけた。

「少年、大丈夫か? どこか痛いところはないか?」

「っ//」

 顔を赤くした少年は立ち上がって俺から距離をとる。

「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」

「そうか? ならいいんだが」

 少年はローブのフードをぎゅっと握って深く被り直した。俺はそのしぐさに首を傾げながら尋ねる。

「どうした? 頭でも打ったか?」

 心配になって少年の頭に手を伸ばす。すると少年はビクッと反応して嫌がった。

「っ! ホントに大丈夫だから! 僕に構わないでっ!」

 フードをぎゅっと握りながら少年はその場から走り去っていった。彼のことを心配したからとはいえ初対面の人間が少々馴れ馴れしすぎたかな。いや、でも少年は頭を触られることを異常な程嫌がっていた。何か事情がある気がする。

「何だったんだ、あの少年は…」

 今少し話しただけだけど、俺は少年のことが気になっていた。肌とかよく見ると血色が良くなかったし、あの年代にしては少々痩せた体型だった。ご飯とかちゃんと食べているのだろうか。

「まぁ、冒険者ならその内また会えるか」

 俺も立ち上がると新しいタバコをくわえ、気を取り直して冒険者ギルドに向かった。










 
 
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