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リーフィアさんのトリプルフェイス

第1話  Face1:元冒険者でギルドの美人受付嬢リーフィアさん

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 ここはカレイドの街。王都と様々な村や町の中継地となる街であり、屈強な冒険者や行商人、職人など、多くの人々で賑わいを見せる街だ。

 そんなカレイド街の賑やかな朝、様々な種類の店が立ち並ぶ大通りを一人の人物が歩いていた。
 
 美しいエルフの女性だ。朝日を浴びてキラキラと光り輝き、稲穂のように風になびく長い黄金の髪、宝石そのものかと見紛うルビー色の瞳、気品すら感じるピンと尖った笹の葉のような耳。その美貌で頭に乗せた赤いカチューシャがティアラにすら見えてくる。
 白いブラウスに緑のスカートという冒険者ギルドの受付嬢の制服に、見事なプロポーションの身体を包んだそのエルフ、”リーフィア”は、上品に大通りを闊歩し、道行く人の視線を集めていた。

 途中、リーフィアは自身をぽけーっと見つめる小さな男の子を見かける。見た目5歳くらいのその男の子は、ぶかぶかの鉄の兜を被って、ボロボロのマントを付けて身の丈に合わない大きな剣を持っていた。どうやら冒険者に憧れる男の子のようで、父親か兄の装備を着て遊んでいるようだ。
 リーフィアはその男の子にニコッと笑って手を振る。男の子はビクッと身体を跳ねさせると顔を真っ赤にしてどこかへ走り去ってしまった。その反応を見てリーフィアはフフッと笑う。
 男の子をちょっとからかって楽しんだリーフィアは再び目的地に向けて歩き始めた。













 __まぁ、その皆の憧れの美人エルフ、僕なんだけどね。

 皆さんこんにちは、僕の名前はリーフィア。遠い昔に現代日本で男子大学生をやっていたんだけど、色々あってこの世界に転生したエルフだ。男から女になったわけだからTS転生ってやつだね。
 剣と魔法のファンタジーな世界に生まれて早100年ちょっと、今僕はこのカレイドという街で冒険者ギルドの受付嬢として働いている。初めは大変だったけど、パソコンも印刷機もないこの世界の事務仕事は単純なものが多く、慣れてしまえば手早く片付けることができるようになった。そうすると楽しむ余裕も生まれてきて、現役の冒険者さん達が話してくれる武勇伝や冒険の話を聞くことが最近の楽しみだ。

「皆さん、おはようございます!」

 冒険者ギルドカレイド支部。その扉を開けて元気よく挨拶、ギルド内にはもう早くから仕事を受けようとする冒険者さんが何人かたむろしていた。受付カウンターからぴょこんと赤い髪の少女が顔を出す。

「リーフィア遅い! また時間ギリギリじゃない!」

 肩くらいまでの赤い髪にくりくりの目が特徴的なこの子はアーニャ。僕の同僚であり、女子寮で同じ部屋に住んでいるルームメイトでもある。ぷりぷりと怒るアーニャに謝りながら僕はカウンターの自分の持ち場につく。

「ごめんなさいアーニャ。私どうしても朝が苦手で…」

「しっかりしてよね。貴女からしか仕事を受けないって人もいるんだから」

 アーニャのその言葉通り、僕が持ち場につくと同時に、飲食スペースのテーブル席で飲み物を飲んで休憩していた冒険者さんの一団が、僕の方へ向かってきた。そのパーティのリーダーの青年の手には掲示板に貼られていた依頼書が握られている。

「やぁ、待っていたよリーフィアさん。早速だけどこの依頼の受注をお願いできるかな?」

「イラルさん、いつもお待たせしてすみません。”トロルの巣の視察、及び駆除”の依頼ですね。承りました」

 これでも僕は昔、冒険者として活動していた時期があり、その経験をもとに危険な依頼や難しい依頼を受けようとしている冒険者さんに色々アドバイスをしている。このイラルさん達もよく相談しに来てくれる冒険者さんで、アーニャが言うように、僕からしか仕事を受けないと明言するほど信頼してくれている。決して僕の美貌目当てに寄ってきているわけではないのだ。
 まぁ実際そういう冒険者さんも中にはいるけどね。その人の表情を見れば僕目当てなのか、真剣に相談に来てくれているのか分かるので、前者の方には他のカウンターを利用してもらうよう案内している。

「はい、受注完了です。トロルは群れても3体くらいなのでイラルさん達なら大丈夫かと思いますが、くれぐれも油断なさらないようにしてください」

「ああ、分かった。ありがとう。皆行くぞ」

 イラルさんは仲間を引き連れてギルドを出ていった。トロルは黄緑色の肌をした巨人の魔物であり、ランクで言うとCランク級だ。イラルさん達は全員がCランクの冒険者さんなので依頼の難易度としては妥当と言ったところ。
 巣ができているということは群れができているということだが、トロルはあまり群れを作らない生き物なので多くても一度に相手するのは3体程度、イラルさん達は連携も取れるバランスのいいパーティなので油断さえしなければ無事に達成できるだろう。

「さすが元冒険者。いつもながら的確なアドバイスね」

「昔取った杵柄ですけどね。私の経験が皆さんの助けになっているなら嬉しいです」

「かーっ! さすが、”聖乙女セイントリーフィア”は言うことが違うわ」

「ちょ、ちょっと! やめてくださいよその名前! 恥ずかしいじゃないですか」

「何よ、名誉なことじゃない」

 ”聖乙女セイントリーフィア”は僕が冒険者時代に呼ばれていた二つ名だ。
 僕は希少性の高い光属性の魔法に適性があったらしく、さらに身体に内包する魔力量もすごく高かった。魔法なんてものにこの世界に来て初めて触れる僕はその面白さにハマってしまい、暇さえあれば練習して魔術の腕を上げ、色々研究して独自の魔法まで生み出したりした。
 そしてその魔法を実践で試してみようと冒険者になったのだ。転生者の多分に漏れず大立ち回りをし、光魔法による閃光の攻撃と、癒しの力で仲間を助ける姿からいつしか”聖乙女”なんて呼ばれるようになった。
 そんな過去もあって、調子に乗って痛い目を見た経験も、思いも寄らぬアクシデントに見舞われたこともあるため、先輩冒険者としてアドバイスができるのだ。



 
 朝の時間が過ぎて、10時くらいになるとギルド内が冒険者さんで混み合ってきた。次々と持ち掛けられる依頼の受注や完了手続きをアーニャと二人でさばいていく。また僕の場合は時折相談を持ち掛けてくれる冒険者さんがいるのでそちらの対応も行う。
 結構忙しいけど慣れればそんなに苦じゃないし、飲食店のピーク時などと違ってそこまで混むわけじゃない。ギルドに来て依頼を受ける時間は冒険者さんによってまちまちなので、決まった時間にわっと混むということがないからだ。ただ10時~14時の間の日中に仕事を受けに来る冒険者さんが多いだけである。

 少し慌ただしい時間を過ごせばすぐに落ち着いてきて、ギルド内を見回す余裕ができた。すると掲示板を見上げる少年達が目に入った。確か彼らはこの間冒険者登録をしたばかりの駆け出しさんだったはず。何やら困っている様子だったので、近寄って声をかけてみた。

「君達、どうかしたんですか?」

 彼らと目線を合わせるためにしゃがみ、微笑んであげる。すると少年達は頬を赤くしてわたわたし始めた。

 ふふん、リーフィアさんは美人だろう。

 この身体は結構気に入っているので純粋無垢な少年達にこのような反応をされると嬉しくなってしまう。下心丸見えな親父はお断りだが。 

「リっ、リーフィアさんっ!」

「すげぇ、本物の”聖乙女”だ…」

「綺麗だなぁ…」

 確か彼らはカレイドの東にある村から冒険者になるためにここへ来たと言っていた。どの依頼を受けるか迷っていたとかそんな感じだろうか。

「何かお困りごとですか?」

「は、はい。実はどの依頼を受けたらいいのか分からなくて…」

 僕の予想は当たっていたらしい。恥ずかしそうにもじもじしながら先頭の少年がしゃべってくれた。僕はフフッと笑って掲示板から彼らにぴったりの依頼を選んであげる。

「では、この薬草採取の依頼はどうでしょうか。冒険者として活動するためには周辺の地形や環境を知っておくことが第一ですからね。まずはこういった採取依頼であちこち歩き回って調査するのが一番だと思いますよ」

「な、なるほど…。分かりました、ありがとうございますリーフィアさん」

「いえいえ、では受注手続きを行いますのでこちらへ」

 僕のおすすめした依頼を受けた彼らは元気よくギルドを飛び出していった。そんな彼らを見送っていると、隣からアーニャのクスクス笑う声が聞こえてきた。

「さすがうちで一番人気の受付嬢、子供達もメロメロね」

「…からかってますか? アーニャ」

「フフッ、いいえ、そんなことないわよ」

「というか私、一番人気なんですか? 初めて聞きましたけど」

「気づいてなかったの? 誰がどう見ても受付嬢の中で一番人気があるのはリーフィアよ。美人で優しくて、知識豊富でおまけに”聖乙女”だもの。男女問わず大人気よ。あの子供達だって、憧れの冒険者は”聖乙女”だって言ってたわ。実物に会ってさらに惚れちゃったみたいだけど」

 アーニャはニヤニヤしながら僕のほっぺたをぷにぷに突いた。あの少年達が憧れてくれているのは素直に嬉しいけど、やっぱりアーニャはからかっていたらしい。僕はムッと頬を膨らませて席を立った。

「そろそろお昼なので、今日は上がらせてもらいます」

「ああ、今日は午前勤務の日だっけ? またあの喫茶店の仕事?」

「はい、アーニャ、すみませんが後をよろしくお願いします」

「それは別の娘が午後から入ってくれるからいいんだけどさ。貴女まだあの喫茶店の仕事やってるのね」

「ええ、冒険者時代にお世話になった方から託されたお店なので…」

「分かってるって。今度また暇があったら行くから、何かご馳走してね」

「分かりました。では、お先に失礼します」

 アーニャにペコリと頭を下げて僕はギルドを後にした。









 
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