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序章 ~エルザとルイ、朝の一幕~
暗殺者転生美少年メイドのルイ
しおりを挟む朝日が昇って、朝が来た。
屋敷の一室で目が覚めた俺はベッドから起きてクローゼットを開ける。中に入っていた服を着て、簡単に身なりを整えて姿見を見る。
ウェーブのかかった、くすんだ灰色のボブカットの髪。じとっとした目付きの藍色の瞳。紺色と白のメイド服を着た"美少女"が映っている。
少し冷たくて暗い印象があるものの、凛々しさも持った可愛い女の子。俺だったらぜひともお近づきになりたいと思う。
だが残念、俺は男だ。
俺ことルイは、ある事情からユライラ街の領主の屋敷で男の娘メイドをやっている。
もともと俺はこの世界の人間ではない。ごく普通の男子高校生だったのだが、交通事故であっさりと死んだ。
かと思ったら、この世界に赤ん坊になって生まれ直していたのだ。俗に言う異世界転生というやつ。
そうしてルイとして生まれ変わった俺は、色々あって暗殺者になった。いや何があったんだと言いたいだろうが、俺を育ててくれた人が裏家業の関係者だったのだ。
なまじ俺に暗殺者の才能があったことも悪かった。
前世の記憶があることで成熟の早い精神。
高校の選択科目で理系を選んでいたから、数学や生物学、化学に少なからず理解があったこと。
そして転生したこの身体のスペック。
等々色んな要素が組合わさった結果、俺は類いまれなる暗殺の才能を持った少年になっていたわけだ。
その事に気づいた育ての親達はウキウキして俺に裏家業の英才教育を施した。
俺も生きる術は欲しかったし、分野はどうあれ期待してくれるのは嬉しかったから頑張った。
その結果、悪名高い暗殺者ルイ君が誕生してしまったというわけだ。"ハイバラ"というコードネームで活動していて、"灰銀のハイバラ"なんて異名までできた。
ではそんな俺が何でメイドなんてしているのか。それはかなり数奇な巡り合わせの結果としか言えない。
話が長くなるのでざっくりと説明する。
ある日、俺はある貴族の男を殺す依頼を受けた。特に難易度も高くない仕事だったので、夜更け頃にターゲットの屋敷に侵入してさくっと殺して帰るつもりだった。
だけど、いざ侵入してみるとターゲットに監禁されて泣いている女の子がいた。それが今の主、エルザ・ロワイライトお嬢様だ。
予定通りターゲットを殺した後、エルザを救出したのだが、彼女の実家であるロワイライト家には色々と込み入った事情があって、あれよあれよとエルザに仕えることになってしまった。
執事ではなくメイドなのは、女の主人には女の使用人が仕えるものという貴族間の風潮があるからだ。
今世の俺は中性的な美形なので、メイド服を着てしまえばちょっとボーイッシュな女の子に見える。
そんなこんなで俺はエルザに仕える男の娘メイドをやる羽目になった。
非常にざっくりしているが、以上がいきさつである。もっと詳しい話はまたの機会にしよう。
「お嬢様、朝ですよ。起きてください」
エルザの部屋のドアをコンコンとノックする。返事はない。いつものことである。
主人の返事を待たずにドアを開けて部屋に入る。メイドとして褒められた行為ではないが、起床時間になっても起きないエルザが悪い。
案の定エルザは布団を被ってぐーぐーと二度寝を決め込んでいた。
白いシーツに包まれたピンク色のネグリジェを着た金色の髪の少女。
まさに天使の寝顔と言うべき可愛らしい姿だが、それがまた腹立たしい。
こうなったエルザは揺すっても起きないので、てっとり早く起きてもらうために刀を抜いて刃をエルザの首筋に当てる。
暗殺に用いる本物の刀。エルザを起こす時にも役に立つ。
効果はてきめんで、エルザはすぐに身を起こした。
「起きます、起きますからその危ないものをしまってくれませんか」
顔を青ざめて両手を上げている。その姿に満足して刀を鞘に戻した。
「おはようございますエルザお嬢様。今日もいつものように寝坊ですね」
もはや取り繕うこともせず真顔で皮肉を飛ばす。毎朝この寝坊助を起こすのも面倒なんだ。
エルザが起こし方に文句を言ってくるけど、嫌なら自分で起きればいい。
俺は無視してエルザの朝の支度を進める。今日は学園に行く日だ。メイドの端くれとして主人を遅刻させるわけにはいかない。
まぁ色々と不満はあるけれど、今俺はエルザの専属メイドのルイとして、何だかんだ悪くない生活を送っている。
絶対に口に出してはやらないけどな。
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