絶望の箱庭~鳥籠の姫君~

神崎ライ

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第五章 虚空記録層(アカシックレコード)

第17話 結界に隔てられた六人

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「レアさん、気分がすぐれないのでここで待っていても良いですか?」

 窓の外を向いたまま言乃花が運転席に座るレアへ話しかける。

「どうしたの? すぐにドアを開けるから待っていてね」

 運転席に座るレアの表情は伺い知れないが、いつもと変わらぬ様子でドアを開けるため先に降りていった。

「そうっすよ、冬夜さんのご家族の方をお待たせするわけにもいかないですし。じゃないっすか」

 隣に座るレイスはニヤニヤした表情をしながら煽ってくる。

「レイス……あとで覚えておきなさいよ」

 言乃花がレイスを睨みつけるが、全く意に介していないレイス。しばらくすると乗り込み口のドアが開き、レアから声がかかる。

「お待たせ! 
「わかりました。メイ、降りようか」
「うん」

 冬夜とメイがシートベルトを外し、搭乗口から降り始めたタイミングでレイスが言乃花に小声で耳打ちをする。

「言乃花さん、ちょっとっすよ」
「突然どうしたの?」
「あとで詳しく話しますが……何か胸騒ぎが収まらないんすよね」

 先ほどまでのおどけた口調は消え去り、うっすらと開けられた目から鋭い視線が搭乗口の外へ向けられている。緊迫した雰囲気を感じ取った言乃花が無言で頷き、冬夜たちに続いてドアに左手をかけ降りようとした時だった

「言乃花ちゃん、あなたの騎士ナイトである一布がエスコートいたしましょう! さあ、いつでも僕の胸に……」
「そこをどきなさい! 一人で降りられるし、エスコートなんていらないのよ!」

 とっさに右手に魔力をまとうと一布めがけて一気に振り抜く。

「ふふふ、今までの僕とは違うところを見せてあげよう! 見切った!」

 とっさに体をひねり、言乃花の放った一撃を紙一重でかわす。かわされた魔力は轟音と共に広いヘリポートを駆け抜けていった。

「なかなかやるじゃない……ようね?」
「当たり前じゃないか! いつまでもやられっぱなしの僕じゃないからね」
「ふーん、でも……まだまだね」

 言乃花は言い終えると同時に突き出していた右手を下に向ける。すると先ほど放った魔力が一布の真上に出現し、脳天を直撃する。

「まさか……避けたと思ったのに……」

 直撃を受けた一布は手を広げて迎え入れようとした姿勢でそのまま言乃花へ抱きつくように倒れこんだ。

「ちょっと……なんで抱きついてくるのよ! いい加減にしなさい!」

 突然のことに驚いた言乃花は顔を真っ赤にしながら再び右手に魔力を込めて一布を大空へ打ち上げた。

「やっぱり言乃花ちゃんはいい香り……」
「ちょっと言乃花さん、まずいっすよ」

 勢いよく落下してくる一布を見てレイスが瞬時に駆け出して落下地点に先回りする。

「レイスくん、いつもごめんね……」
「大丈夫っすか? 一布さんも学習しましょうよ」

 地面に落下する直前でレイスが飛び上がり、空中で一布を抱きかかえるとゆっくり地上に降り立つ。一布を地面に下ろすとすぐに言乃花も駆けつけてきた。

「レイス、ごめんなさい。風魔法で怪我をしないようにはしていたんだけど……」
「そういう問題じゃないっすよ。怒るのはわかるっすけど、ほどほどにしておかないと大変なことになるっすから。一布さんも一布さんっす」
「申し訳ない……」
「ごめんなさい……」

 珍しく怒りをあらわにするレイスに肩を落としながら頭を下げる二人。その時、聞き覚えのある声がヘリポート内に響き渡った。

「……仲間割れとは面白いことになっていますね」
「まさか……しまった! 冬夜さんとメイさんが危ないっす!」

 レイスが慌てて冬夜たちの元へ駆けだそうした時、頭の中を引っ掻き回されるような音が響き渡り、耐えきれずに目を閉じてしまう。

「あらあら、もうギブアップですか? 楽しみはこれから始まるのですよ」

 レイスが目を開けると先ほどまで広がっていた青空はなくなり、虹色のドーム状をした結界の中にいた。そして二メートルほど離れた位置に右手にナイフを持ち、ノルンと似たような姿をした女性が一人。

「初めましての方もいらっしゃいますね、私の名はアビー。ノルンお姉さまのお仕事が終わるまで遊んで差し上げますわ。さあ、甘美な悲鳴と絶望に染まる顔をたくさん見せて私を楽しませてください」

 愉悦な笑みを浮かべ三人を見つめるアビー。
 彼女たちの目的とは一体……?
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