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第五章 虚空記録層(アカシックレコード)
第7話 レアのもたらしたもの(後編)
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(副会長の家族って癖が強すぎないか? いつになったら終わるんだよ……)
レアが自己紹介をすると言って話を始めてからすでに十分以上が経過している。メイとソフィーは次々と出てくる旅の話に夢中になって聞き入っており、レイスと美桜は相変わらず机に突っ伏したままだ。リーゼと厨房から戻ってきた言乃花は無言で椅子に座ると無表情のままピクリとも動かない。冬夜は適当に相槌を打ちながら話が終わるのを待っていた。
「それでね、久しぶりに学園長のところに顔を出そうと思って学園にも寄ったんだけどいなかったのよね。せっかく私が会いに行ってあげたというのに……」
「奥様、ご歓談中のところ大変恐縮でございますが、そろそろ料理のほうを運んでもよろしいでしょうか?」
「あら? もうそんな時間?」
「ええ、お話を始められてからもう十五分ほど経っております」
(((救世主が来た! 佐々木さんありがとう!)))
音もなくレアの背後に現れた佐々木。メイとソフィーを除く全員が心の中で同じことを叫んでいた。
「残念ね……まだまだ話したりないけどお腹が空いたから食事にしましょう。ビュッフェスタイルのはずよね?」
「左様でございます。奥様がご要望されたシェフ自慢のオムライスもご用意させていただいております」
「ほんとに? どっちの世界を飛び回ってもあれほど理想のふわふわしたオムライスってないのよね!」
子供の様に目をキラキラさせながら勢いよく椅子から立ち上がるレア。
「レアさん、ここのオムライスってそんなにおいしいのですか?」
大喜びしているレアを見てソフィーが不思議そうな顔で問いかける。
「もちろん美味しいわよ! うちのシェフが作るオムライスは絶品なの! 程よくバターの利いているチキンライスに載せられているのは卵の白身をメレンゲにしたふわふわでプルプルのオムレツ。贅沢に卵を三個も使っているのよ。半熟状態で包み上げたオムレツをチキンライスの上にそうっと載せて、ナイフで真ん中をぱかーんと割るの! ふわっふわの卵とチキンライス、その上にかかっているじっくり時間をかけて煮込んだデミグラスソースとの相性が抜群で……あれ? みんなどうしたの?」
レアのオムライス食レポを聞いていた全員が口から涎をたらしながら何かに魂を奪われたようにうっとりとした目になっていた。レアの問いかけにハッと正気に戻った全員が次々と口を開く。
「そ、そんなおいしそうな物は誰よりも早く美桜が食べてチェックしないといけないのです!」
「美桜、あなたは食べ過ぎよ。ここは私が代表して先に食べるわ」
「ちょっと言乃花! 抜け駆けなんて卑怯よ!」
「三人とも落ち着くっすよ。味見するのは自分の役目っすから」
「メイ、学園のオムライスも美味しいけど楽しみだね!」
「そうね、私もすごく楽しみ! 冬夜くんも楽しみだよね?」
「ああ、ふわふわ卵のオムライスなんて初めてだからな。ほかにもいろんな料理があるみたいだから楽しみだよ」
一触即発になりそうなほどバチバチと火花を飛ばすリーゼたち。対照的に心から楽しそうな笑顔で話す冬夜たち。その様子を眺めていたレアがふと手を軽く叩くと何か思いついたようにいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「そうそう、オムライスも絶品なんだけどデザートに新作のケーキも用意してあるんだったわ。なんでもうさぎさんの形をしたケーキなんだって。ね? ソフィーちゃん?」
「はい! 私も一緒に考えたケーキなんです!」
二人の言葉を聞いたリーゼが勢いよく椅子から立ち上がり声をあげる。
「うさぎさんのケーキですって? ソフィーちゃんが監修に関わっているの?」
「はい、リーゼさん。すっごく可愛いのですよ!」
「そ、そんな宝物があるなんて……今まで生きてきてよかった……」
天を仰ぐように顔をあげると涙を流しながら両手を胸の前で握りしめるリーゼ。そのままピクリとも動かなくなり、ソフィーが慌てて駆け寄る。
「リーゼさん、リーゼさん、しっかりしてください!」
「ソフィーちゃん、いつもの事だから……しばらくしたら直るから大丈夫よ」
大きくため息をつくと慌てるソフィーを落ち着かせるように肩に手を置いて話す言乃花。
「ソフィーちゃん、はやくオムライスを取りに行くのです! これは戦いなのです!」
「美桜、今度は食べ過ぎないようにね」
「は、はい! うう……お姉ちゃんが怖いのです……」
素早く椅子から立ち上がり、ソフィーのもとに駆け寄ると手を取って走り出そうとした美桜に言乃花が釘を指す。
「冬夜くん、私たちも取りに行こうよ」
「ああ、そうだな。どれも美味しそうだからゆっくり選ぼう」
メイに誘われて冬夜が立ち上がろうとした時、レアから声を掛けられる。
「冬夜くん、食事が終わったら少し時間をもらえないかしら?」
「はい、大丈夫ですが……」
「響とあなた自身の魔力について話したいことがあるの」
「え? 親父と俺の魔力について?」
「そうよ。あと、あなたのお母さんのことも……ね」
言い終えるとサッと席を立ち、オムライスを待っているリーゼたちの所へ歩いていくレア。
(親父だけじゃなくて母さんについて? レアさん、あなたは何を……)
狐につままれたような表情で立ち尽くす冬夜を不思議そうな様子で見つめているメイ。
レアは冬夜に何を語るのか……
レアが自己紹介をすると言って話を始めてからすでに十分以上が経過している。メイとソフィーは次々と出てくる旅の話に夢中になって聞き入っており、レイスと美桜は相変わらず机に突っ伏したままだ。リーゼと厨房から戻ってきた言乃花は無言で椅子に座ると無表情のままピクリとも動かない。冬夜は適当に相槌を打ちながら話が終わるのを待っていた。
「それでね、久しぶりに学園長のところに顔を出そうと思って学園にも寄ったんだけどいなかったのよね。せっかく私が会いに行ってあげたというのに……」
「奥様、ご歓談中のところ大変恐縮でございますが、そろそろ料理のほうを運んでもよろしいでしょうか?」
「あら? もうそんな時間?」
「ええ、お話を始められてからもう十五分ほど経っております」
(((救世主が来た! 佐々木さんありがとう!)))
音もなくレアの背後に現れた佐々木。メイとソフィーを除く全員が心の中で同じことを叫んでいた。
「残念ね……まだまだ話したりないけどお腹が空いたから食事にしましょう。ビュッフェスタイルのはずよね?」
「左様でございます。奥様がご要望されたシェフ自慢のオムライスもご用意させていただいております」
「ほんとに? どっちの世界を飛び回ってもあれほど理想のふわふわしたオムライスってないのよね!」
子供の様に目をキラキラさせながら勢いよく椅子から立ち上がるレア。
「レアさん、ここのオムライスってそんなにおいしいのですか?」
大喜びしているレアを見てソフィーが不思議そうな顔で問いかける。
「もちろん美味しいわよ! うちのシェフが作るオムライスは絶品なの! 程よくバターの利いているチキンライスに載せられているのは卵の白身をメレンゲにしたふわふわでプルプルのオムレツ。贅沢に卵を三個も使っているのよ。半熟状態で包み上げたオムレツをチキンライスの上にそうっと載せて、ナイフで真ん中をぱかーんと割るの! ふわっふわの卵とチキンライス、その上にかかっているじっくり時間をかけて煮込んだデミグラスソースとの相性が抜群で……あれ? みんなどうしたの?」
レアのオムライス食レポを聞いていた全員が口から涎をたらしながら何かに魂を奪われたようにうっとりとした目になっていた。レアの問いかけにハッと正気に戻った全員が次々と口を開く。
「そ、そんなおいしそうな物は誰よりも早く美桜が食べてチェックしないといけないのです!」
「美桜、あなたは食べ過ぎよ。ここは私が代表して先に食べるわ」
「ちょっと言乃花! 抜け駆けなんて卑怯よ!」
「三人とも落ち着くっすよ。味見するのは自分の役目っすから」
「メイ、学園のオムライスも美味しいけど楽しみだね!」
「そうね、私もすごく楽しみ! 冬夜くんも楽しみだよね?」
「ああ、ふわふわ卵のオムライスなんて初めてだからな。ほかにもいろんな料理があるみたいだから楽しみだよ」
一触即発になりそうなほどバチバチと火花を飛ばすリーゼたち。対照的に心から楽しそうな笑顔で話す冬夜たち。その様子を眺めていたレアがふと手を軽く叩くと何か思いついたようにいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「そうそう、オムライスも絶品なんだけどデザートに新作のケーキも用意してあるんだったわ。なんでもうさぎさんの形をしたケーキなんだって。ね? ソフィーちゃん?」
「はい! 私も一緒に考えたケーキなんです!」
二人の言葉を聞いたリーゼが勢いよく椅子から立ち上がり声をあげる。
「うさぎさんのケーキですって? ソフィーちゃんが監修に関わっているの?」
「はい、リーゼさん。すっごく可愛いのですよ!」
「そ、そんな宝物があるなんて……今まで生きてきてよかった……」
天を仰ぐように顔をあげると涙を流しながら両手を胸の前で握りしめるリーゼ。そのままピクリとも動かなくなり、ソフィーが慌てて駆け寄る。
「リーゼさん、リーゼさん、しっかりしてください!」
「ソフィーちゃん、いつもの事だから……しばらくしたら直るから大丈夫よ」
大きくため息をつくと慌てるソフィーを落ち着かせるように肩に手を置いて話す言乃花。
「ソフィーちゃん、はやくオムライスを取りに行くのです! これは戦いなのです!」
「美桜、今度は食べ過ぎないようにね」
「は、はい! うう……お姉ちゃんが怖いのです……」
素早く椅子から立ち上がり、ソフィーのもとに駆け寄ると手を取って走り出そうとした美桜に言乃花が釘を指す。
「冬夜くん、私たちも取りに行こうよ」
「ああ、そうだな。どれも美味しそうだからゆっくり選ぼう」
メイに誘われて冬夜が立ち上がろうとした時、レアから声を掛けられる。
「冬夜くん、食事が終わったら少し時間をもらえないかしら?」
「はい、大丈夫ですが……」
「響とあなた自身の魔力について話したいことがあるの」
「え? 親父と俺の魔力について?」
「そうよ。あと、あなたのお母さんのことも……ね」
言い終えるとサッと席を立ち、オムライスを待っているリーゼたちの所へ歩いていくレア。
(親父だけじゃなくて母さんについて? レアさん、あなたは何を……)
狐につままれたような表情で立ち尽くす冬夜を不思議そうな様子で見つめているメイ。
レアは冬夜に何を語るのか……
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