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第四章 現実世界
第23話 冬夜、覚醒する
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「ふむ、冬夜くんは魔力の乱れが大きく、レイスは感情のコントロールに難ありか……予想通りだな。ふむ、言乃花くんとリーゼが安定しているのはさすがだ」
奥の壁にもたれ掛かりながら左手に持つタブレットを見つめている芹澤。画面には各マシンのデータが次々と表示されている。タブレットを見た健斗が驚きの声をあげる。
「魔力以外にも感情の乱れまで数値化できるのか! さすがは玲士くんだ!」
「お褒めの言葉ありがとうございます。まだ試験段階ですが、大幅に狂うことはないと思いますよ」
「結構なことだ。芹澤財閥の技術力は底が知れぬ。それに仮想とはいえ、因縁の相手と戦わされるとは想像もしていないだろう」
「事前の打ち合わせ通りですね。この程度で心を乱されるようでは今後予想される戦いで生き残ることは難しいでしょう」
厳しい表情で頷きながら鍛錬場を見渡す健斗。入口近くでは弥乃、美桜、一布の順に正座しており、一メートルほど離れて向き合うようにメイとソフィーが座っている。
「メイさん、ソフィーさん、今から椿流基本稽古を始めます。美桜と一布さんがお手本を見せますのでよく見ていてくださいね」
「「はい!」」
「いいお返事ですね。美桜、一布さん、前へ」
弥乃の言葉を聞いた二人は軽く頷くと静かに立ち上がる。メイとソフィーの前に向かい合わせで立つとお互いに一礼し、構えをとる。
「始まったようだな。トレーニングマシンについては玲士くんに任せる。俺はメイくんたちのサポートに入ろう」
「承知しました。後ほどデータと傾向をご報告させていただきます」
健斗が弥乃のもとへ歩き出したのを見送ると小さく息を吐く芹澤。
「さて、冬夜くんがどこで覚醒するかが焦点だ。さあ、データの壁を越えて見せろ」
冬夜の入るトレーニングマシンを見つめた時、タブレットに異変を知らせる通知が表示された。
「ほう、何者かが干渉しようとしてきたか……プロフェッサーへの挑戦と受け止めたぞ!」
笑みを浮かべタブレットを操作する芹澤。プロフェッサーの戦いも幕を開けようとしていた。
「多少はできるようになっているようですね。そうでなくては痛めつける意味がありませんが」
空中で見下ろすように陣取り、不敵な笑みを浮かべるフェイ。頭にかぶっていたフードは外れ、着ているローブは所々擦れたような傷がある。
「ずいぶん余裕がなさそうに見えるけどな。お前の思いあがったプライドを叩き折ってやる!」
地上から怒気をはらんだ声で叫びながら睨みつける冬夜。白い道着にはいくつか黒く焦げたような跡が付いている。木々に囲まれていたはずの空間は、二人の周りだけ不自然に開けている。周囲の木々はフェイの打った雷により裂け、強大な力に押し倒されて根本からぽっきりと折れている。
「ウォーミングアップにはちょうど良かったです。そろそろ決着をつけさせていただきますよ!」
言い終えると同時にフェイの頭上を黒々とした雲が覆い、取り囲むようにいくつもの雷が柱のようにそびえ立つ。
「一人で立ち向かってきたことに敬意を表し、とっておきの秘策をお見せしましょう。崇高な存在である我々に、人間ごときが歯向かおうとしたことを永遠に後悔するがいい! 天焦がす雷よ、我に力を。我、雷神の力を受け継ぎし者、愚か者へ天の雷を与えよ。いでよ、雷神の裁き」
フェイを取り巻く雷の柱が輝きを増し、眩い光の柱へと変貌を遂げる。降り注ぐ妖力の強大さと熱量に森の木々が次々と火柱をあげて炎に包まれ始めた。
「マジかよ……このままだと焼け死んでしまうヤツじゃないか」
「くっくっく、先ほどまでの余裕はどうしたのでしょうか? ……そうですね、ゆっくりと一人ずつ始末していきましょうか。まずは紫の髪をした娘から……」
「お前、なんて言ったんだ?」
フェイがメイのことを口走った途端、空気が一変した。冬夜を中心に赤黒い霧のようなものが噴出し、周囲を染めていく。
「くっくっくっ……面白い、実に素晴らしい!」
光の中心にいるフェイの高笑いが止まらない。光悦な表情を浮かべ、冬夜を見下ろしている。
「やはりお前は倒すべきだ、ヤツにたどり着くためにもな!」
フェイを睨みつける冬夜の目は紅く光を放ち、首から下げたロザリオも呼応するように全体が紅色に輝く。
「やっと覚醒したようですね。本気で楽しむことができそうだ!」
「その生意気な口を永遠に聞けないようにしてやる!」
冬夜が右手を胸の前までスッと上げると噴出していた霧が集約されていく。
「すべてに決着をつける時が来た! 喰らい尽くせ、暴食の黒龍」
「迎え撃ちましょう! 愚か者へ天の裁きを、雷神の裁き」
闇の魔力が辺り一帯の木々を一瞬のうちに消し去り、暴れ狂う龍のごとく周囲を呑み込みながらフェイへと襲いかかる。
天空からは眩いばかりに降り注ぐ光の柱。昇り来る闇を消し去らんと一気に冬夜へ向かい降り注ぐ。
二人が放つ全力の一撃はどちらに軍配が上がるのか?
奥の壁にもたれ掛かりながら左手に持つタブレットを見つめている芹澤。画面には各マシンのデータが次々と表示されている。タブレットを見た健斗が驚きの声をあげる。
「魔力以外にも感情の乱れまで数値化できるのか! さすがは玲士くんだ!」
「お褒めの言葉ありがとうございます。まだ試験段階ですが、大幅に狂うことはないと思いますよ」
「結構なことだ。芹澤財閥の技術力は底が知れぬ。それに仮想とはいえ、因縁の相手と戦わされるとは想像もしていないだろう」
「事前の打ち合わせ通りですね。この程度で心を乱されるようでは今後予想される戦いで生き残ることは難しいでしょう」
厳しい表情で頷きながら鍛錬場を見渡す健斗。入口近くでは弥乃、美桜、一布の順に正座しており、一メートルほど離れて向き合うようにメイとソフィーが座っている。
「メイさん、ソフィーさん、今から椿流基本稽古を始めます。美桜と一布さんがお手本を見せますのでよく見ていてくださいね」
「「はい!」」
「いいお返事ですね。美桜、一布さん、前へ」
弥乃の言葉を聞いた二人は軽く頷くと静かに立ち上がる。メイとソフィーの前に向かい合わせで立つとお互いに一礼し、構えをとる。
「始まったようだな。トレーニングマシンについては玲士くんに任せる。俺はメイくんたちのサポートに入ろう」
「承知しました。後ほどデータと傾向をご報告させていただきます」
健斗が弥乃のもとへ歩き出したのを見送ると小さく息を吐く芹澤。
「さて、冬夜くんがどこで覚醒するかが焦点だ。さあ、データの壁を越えて見せろ」
冬夜の入るトレーニングマシンを見つめた時、タブレットに異変を知らせる通知が表示された。
「ほう、何者かが干渉しようとしてきたか……プロフェッサーへの挑戦と受け止めたぞ!」
笑みを浮かべタブレットを操作する芹澤。プロフェッサーの戦いも幕を開けようとしていた。
「多少はできるようになっているようですね。そうでなくては痛めつける意味がありませんが」
空中で見下ろすように陣取り、不敵な笑みを浮かべるフェイ。頭にかぶっていたフードは外れ、着ているローブは所々擦れたような傷がある。
「ずいぶん余裕がなさそうに見えるけどな。お前の思いあがったプライドを叩き折ってやる!」
地上から怒気をはらんだ声で叫びながら睨みつける冬夜。白い道着にはいくつか黒く焦げたような跡が付いている。木々に囲まれていたはずの空間は、二人の周りだけ不自然に開けている。周囲の木々はフェイの打った雷により裂け、強大な力に押し倒されて根本からぽっきりと折れている。
「ウォーミングアップにはちょうど良かったです。そろそろ決着をつけさせていただきますよ!」
言い終えると同時にフェイの頭上を黒々とした雲が覆い、取り囲むようにいくつもの雷が柱のようにそびえ立つ。
「一人で立ち向かってきたことに敬意を表し、とっておきの秘策をお見せしましょう。崇高な存在である我々に、人間ごときが歯向かおうとしたことを永遠に後悔するがいい! 天焦がす雷よ、我に力を。我、雷神の力を受け継ぎし者、愚か者へ天の雷を与えよ。いでよ、雷神の裁き」
フェイを取り巻く雷の柱が輝きを増し、眩い光の柱へと変貌を遂げる。降り注ぐ妖力の強大さと熱量に森の木々が次々と火柱をあげて炎に包まれ始めた。
「マジかよ……このままだと焼け死んでしまうヤツじゃないか」
「くっくっく、先ほどまでの余裕はどうしたのでしょうか? ……そうですね、ゆっくりと一人ずつ始末していきましょうか。まずは紫の髪をした娘から……」
「お前、なんて言ったんだ?」
フェイがメイのことを口走った途端、空気が一変した。冬夜を中心に赤黒い霧のようなものが噴出し、周囲を染めていく。
「くっくっくっ……面白い、実に素晴らしい!」
光の中心にいるフェイの高笑いが止まらない。光悦な表情を浮かべ、冬夜を見下ろしている。
「やはりお前は倒すべきだ、ヤツにたどり着くためにもな!」
フェイを睨みつける冬夜の目は紅く光を放ち、首から下げたロザリオも呼応するように全体が紅色に輝く。
「やっと覚醒したようですね。本気で楽しむことができそうだ!」
「その生意気な口を永遠に聞けないようにしてやる!」
冬夜が右手を胸の前までスッと上げると噴出していた霧が集約されていく。
「すべてに決着をつける時が来た! 喰らい尽くせ、暴食の黒龍」
「迎え撃ちましょう! 愚か者へ天の裁きを、雷神の裁き」
闇の魔力が辺り一帯の木々を一瞬のうちに消し去り、暴れ狂う龍のごとく周囲を呑み込みながらフェイへと襲いかかる。
天空からは眩いばかりに降り注ぐ光の柱。昇り来る闇を消し去らんと一気に冬夜へ向かい降り注ぐ。
二人が放つ全力の一撃はどちらに軍配が上がるのか?
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